「この人と話そう」第0004回:株式会社1nuke/小泉直人さん
前書き
連載対談「この人と話そう」について
主催者紹介
野口 啓之
株式会社きみより 代表取締役として、IT / DX を中心とした何でも屋さんとして顧問を請け負う
一般社団法人全日本ピアノ指導者協会 ( ピティナ ) 本部事務局 元 CTO → 現 IT 顧問
ネオプラグマティズムの思考様式をベースとしつつ、歴史学徒として概念史を嗜みつつ、ヨハン・ゴットフリート・ヘルダーの教育論研究を終生のテーマとする
風来人として、とぐろ島で冒険中
対談者紹介
小泉 直人
株式会社1NuKe 代表取締役
雑貨メーカー勤務での中国との貿易経験を元に個人事業主として EC 事業を開業。
ネットショップを経営している中で知り合った経営者から「情報発信」の基礎を教えてもらいオンラインビジネスの道へ。EC 運営の傍ら、情報発信で培ったスキルを元に集客を行い、コンサルティング事業を開始。
2021 年 株式会社 1NuKe を設立。現在、EC コンサルティング事業を中心に不動産、EC 運営、営業代行などを行っている。
現職の紹介とこれまでのキャリア
野口: 本日はよろしくお願いいたします。自己紹介のところにしっかりお書きいただいたことではありますが、現職の紹介と、これまでのキャリアについて簡単にお話しいただけますでしょうか。
小泉: はい、わかりました。現職としては、メインとしてやっているのが EC コンサルティングです。
野口: インターネット上での小売業に対するコンサルですね。
小泉: もともとは自分自身で EC サイト運営をしていました。EC のやり方としては、メーカー直だったり、国内/海外からの仕入れなど、いくつかの方法があります。僕の場合は、中国から仕入れてやっていくっていう方法ですね。
野口: なるほど、仕入れ先が中国。
小泉: EC サイトの運営って、めちゃくちゃ大変なんですよ。もともと独立前には、雑貨メーカーで勤務をしていました。で、今でも思ってるのが、実店舗を持っている方が売り方が楽な部分ってあるよなっていう実感があります。
野口: メーカー勤務の時、実店舗での小売に対する知見も得られていたということですね。
小泉: 雑貨メーカーでは卸すために直接小売店にも行っていましたね。ただメインは、卸問屋に営業をかけていました。例えば、夏ごろに営業するんだったら、「冬の商品でこういうの出るのでよかったら〜」っていう感じで、毎日……週 4 日くらい出張していて。今週は関西、今週は関東、みたいにあちこち行ってて。有名なところで言うとドンキやハンズなどですが、昔ながらの雑貨メーカーだったので基本的には卸しを通していましたね。
野口: toB を基本にしていたんですね。いわゆる DtoC として直接エンドユーザーに届けるということはされなかったんでしょうか。
小泉: そうですね。会社自体が、ネットショップというのを好きじゃなかったらしくて。ネットショップ相手に卸しはしていたのですが。
野口: あ、そうなんですね。
小泉: ネットに対して、苦労もせず、汗水垂らさず稼ぐみたいなイメージがあったみたいで。あと、僕の入社前に、ちょっとネット関連の相手で嫌なこととかあったようで。図々しい交渉を結構してくる方が多かったらしいです。
野口: なるほど……。
小泉: ただ、卸しの方から内情を伺うと、ネットショップに卸しているところも多かったりしました。売上比率としても EC が多かったり。だから僕としては、ネットって強いなというイメージができました。
野口: 勤務時には EC の経験があったわけではなかったわけで、じゃあ最初はイチからご自身で EC サイト運営を体験されたわけですね。それで、やってみたところ「あれ、かなり辛いな、これ……」みたいに思われるようになった、と。
小泉: 思ったよりも難しいな、ってなって。資金面でも、手元資金が尽きて借りることになったり。
野口: 最初は個人事業主で始められたんですか?
小泉: はい、自己資金が 100 万ぐらいで……で、 500 万ぐらい借りたいなーなんて思ってたんですけど、ネットショップっていうだけで貸してくれなかったりするんですよねー。やってることは小売りなのに、信金さんが、やっぱりこう、ちょっと古臭くて理解してもらえなかったり……。
野口: え、でももう、 2010 年代の後半あたりの話ですよね。
小泉: そうなんです。
野口: その時代でも。
小泉: そうなんですよ。だから高利で借りるしかなかったんです。時間もなかったので、もう腹括って、フリーローンで。250 万ぐらいは借りることができて、それからスタートですね。
野口: フリーローン! 結構高かったんじゃないですか……?
小泉: 普通のカードローンと、ほぼほぼ変わらないぐらいな。
野口: 8% とか、それくらいいっちゃう感じ……?
小泉: いや、 14% ぐらいですね。
野口: ひぇえ。
小泉: しかもそこから 3 ヶ月くらいで、資金半分以上を溶かしちゃって。
野口: おおお……
小泉: で、どうしようってなった時に、オンライン上で EC コンサルタント始めようとしている方がいらっしゃって、実績はまだないからとりあえず 10 万ぐらいでコンサル請け負うよー、って、たまたま募集してたのを見かけて。それで教えてもらって 3 ヶ月後には立て直せましたね。
野口: え、すごい。
小泉: その頃は Yahoo! ショッピングをメインでやってたんですけど、楽天にも出店しようとなると、やっぱりもうちょっともっとお金が必要になってくるんです。カツカツなんですよね。ただ、実績も出てきたので、公庫に行って、300 万借りることができた。
野口: なるほど。それでフリーローンの方は返して、っていう感じですか?
小泉: いえ、どっちも借りてました(笑
野口: おおー、手元資金を厚めに。
小泉: そこから今の EC コンサルに転じるようになったのは、その自分にコンサルしてくれた方から、「お前もこういうことやらないか」みたいに言われたのがきっかけでしたね。最初は、コンサルやるつもりはなかったんですけど。
野口: 影響を受けたんですね。
小泉: その方には感謝していますね。
野口: 今はもう、ご自身での小売はされてない?
小泉: 一応アカウントは残していて、ほぼ在庫処分くらいですね。
野口: そうなんですね。その状況の今でも、フルフィルメントサービスはどこか使われてるんですか?
小泉: 元々メインでやったのは楽天のスーパーロジスティクスを使っていたんですけど……もう EC サイトを本腰入れて運営しないってなってくると、手数料高いんですよね。
野口: ですよね。
小泉: ランニングコストが高いんです。しっかりやってる頃だと、楽天が一番売れるので、十分にリターンがあるんですけど、あまりやらなくなるってなると、もう、お金入ってこないどころかむしろマイナスの方が多くなってしまいました。なので、今はヤマトのフルフィルだけですね。Yahoo! ショッピングで売っているので。
野口: そうなんですね。維持コストとしたらヤマトが一番安く抑えられる感じなんですか?
小泉: そうですね、ヤマトは Yahoo! ショッピングと連携していて。EC の事情みたいなところから話すと、Yahoo! ショッピングって、購入されたことある方だと分かると思いますけど、「優良配送」っていうタグがついていたりとかするんですよ。やっぱプラットフォームそれぞれで、自社のフルフィルメントを使わせたいっていう意図があるんでしょう。Yahoo! ショッピングだとヤマトを選ぶと「優良配送」になる。だからヤマトを使っています。たぶん最安かと思います。
野口: ほー。例えば今、これから EC やろうっていう思い立ったとして、どこかにお任せするってなると、真っ先に思い浮かぶのって Amazon なんじゃないかと思うんですけれども。Amazon って高いです?
小泉: Amazon は確かに一番夢はあるかなーとは思うんですけど……。中国から仕入れるやり方だと、難しいプラットフォームですね。というのも、 Amazon って中国人の出品者が多いんですよ。
野口: ああー! 多いですよね。
小泉: 多いです。で、僕らは Alibaba とかそういうところから仕入れるんですよ。ただ、福田市場(義烏小商品市場)っていう現地での買付ができるところとは勝負にならないです。いや Alibaba でも、じゅうぶん安いんですよ。ただ福田市場だと、ロットで 1,000 買ってくれるんだったら Alibaba 対比の半額くらいでいいよ、みたいな感じでやってくるんで……。実際に中国へ行った時にその場を見て、いやこれ勝てるわけないって思ったんです。
野口: その福田市場は、小泉さんのような日本人の個人だと使えないようなところなんですか?
小泉: いや、使えますよ。現地にパートナーがいるとか、自分で月 1 回でも中国へ行って買い付けとか、やればできないことはないんですけど……普通の人が、最初からそれできるかって言ったら、やっぱできないですよね。
野口: たしかに……。
小泉: なので Amazon より中国人=強力な競争相手が少ないっていう点で、Yahoo! ショッピングとか楽天とかが主戦場になりますね。でも、一般には Amazon メインで使ってる方も多いです。レビュー荒らされたりとか、嫌がらせがすごいんですよね……。
野口: え、競業相手から?
小泉: そうです。ほんっと嫌がらせですよ。例えば、在庫 100 個持ってたら、100 個全部を、コンビニ払いで注文されてしまう。
野口: うわ……。
小泉: 在庫が空の扱いになっちゃいます。なので注文できなくなるじゃないですか。で、そのままコンビニ払いは実際にされるわけでもなく、1 週間放置とかされるんですよ。
野口: えげつないですね、それ。
小泉: 1 週間も経つと、もうランキング圏外になっちゃったりするんですよね。
野口: ははぁー……。
小泉: あとはどうしても Amazon のシステム的に、「お客様にいかに安価に提供するか」みたいな思想があるので、どうしても安く提供せざるを得なくなってしまうんですよね。でもボランティアでやってるわけじゃないじゃないですか。
野口: ですよね。
小泉: しっかり稼げるようにってなると、そもそもここからは脱却した方がいいのかなーとは思ってしまいましたね。
野口: 1 回は挑戦してみたけれど、「こんな感じなんだ Amazon でやるっていうのは……」っていう実体験を経て、離れたっていうことですね。
小泉: それこそ、最初の 3 ヶ月で資金を溶かしたのは Amazon だったんですよ。
野口: ああー、そこに繋がるんですね……なるほど、いやもう全然こういう話を伺うのって初めてで、とても興味深いです。
小泉: ありがとうございます。いくらでも話せますね。
野口: いろいろと苦労されたと思うんですけれど、その EC で小売をメインにしているっていうのは、何年くらい……?
小泉: 独立して 7 年で、EC メインは 5 年ぐらいですかね。基本的に、仕組み化とか自動化するのが好きで、EC メインでやってる頃って、実働 1 時間ぐらいまで減らせました。
野口: おおー、すごい。
小泉: そうなると暇なんで、SNS とかブログ使って情報発信をやり始めていました。
野口: もちろん EC サイト運営も、慣れるまでは実働 1 時間なんてこともなく、たくさん勉強されたり調べられたり、大変だったわけですよね。
小泉: そうですね、軌道に乗るまでは一日中っていう感じで。とにかく、仕入れもやることも、全部ネット上ということもあり、時間に制限がないので、気になったらすぐやるみたいな感じで、ずっとスマートフォンやパソコンのモニタと睨めっこしているような感じの生活でしたね。
コロナ禍における中国からの仕入れの影響
野口: Alibaba で仕入れていると言われていましたね。実際の中国には、何回ぐらい、どういう頻度で行かれてたんですか?
小泉: 1 回だけしか行ったことないんですよ。本当は毎年行こうって思ってたんですけど、コロナ禍前に 1 回行ったっきり。コロナ禍のせいで、結局行けなかったんですよね。
野口: ああー、なるほど。
小泉: 中国ではロックダウンまでしてましたからね。EC よりもコンサルの方がメインになってきちゃったっていうのもあるんで。
野口: ロックダウンの時って、やっぱり仕入れって滞りました?
小泉: めちゃめちゃ滞りましたね。特に、 2020/03 あたりが大変でした。そもそも中国って 2 月が春節じゃないですか。
野口: ですよね。
小泉: 長いお休みがあるので、そこが終わったら新たに 200 万ぐらいをパッと仕入れようみたいな時だったんですよね。みんな何百万も使ってくれるようなタイミングのはずだったんですけど、そこでロックダウンが。
野口: つらい……。
小泉: 仕入れができないから、今、現状持ってる在庫でしか勝負ができなくなっちゃう。そうなると、もう値上げめちゃめちゃするんですよ、500 円だったものを 1,000 円とかに。とりあえず値上げして、在庫は保とう、と。
野口: ああー、そういう動きになるんですね。
小泉: はい。でも、売れちゃうんですよね、どんどん。
野口: その値段でも。
小泉: マスクがないとかオムツがないとか、色々あったじゃないですか。そういう影響で、どんなに高くしても売れちゃう。
野口: へー。それって、直接コロナに関係なさそうなものでも売れちゃったりするんですか?
小泉: そうなんですよ。僕の場合、ガジェット系だったんで、一見関係なさそうに見えますよね。
野口: はい。
小泉: でも、たとえばオンライン会議がメインに移行してくるようなタイミングなわけですよ。そうすると、もしかしたら需要があったのかもしれない。
野口: あ、そうか、確かに。
小泉: とにかく、ほぼほぼ売れちゃうような感じでしたね。みんな値上げしてましたね、売れないように、売れないように、って。でも売れちゃう。
野口: 嬉しい悲鳴ですね。いやでも当時はつらかったのか……。ちなみに、ガジェット系を取り扱っている理由っていうのは、もともとガジェットに興味が好きだったりして、ガジェットに対しての知見とか選定眼があるからなんでしょうか?
小泉: いや、たまたま売れたのがガジェット系だったということでしたね。売れているものをデータから拾って、仕入れる、というやり方です。例えばですけど、ランジェリーを売ってみてランジェリーが売れたんだったら、それを続けてたでしょうね。
野口: そうなんですねー。商材を取り扱うにあたっては、「いや、これはこの価格はねーだろ」とか、なんかそういう感覚って必要だったりするのかなーって思ったりしたんですけれど、そういうのではなくって、一般的な市場でまず売れてるものの調査をして、じゃあこれ売れてるからウチでも取り扱おう、ということなんですね。
小泉: そうですね、ランキングデータとかそういうのも見て、仕入れられるなーとか、売れそうだなーとか、そう思えるものを仕入れてきて、画像を作って、テスト販売して、うまくいったらもっと仕入れる、と。
野口: なるほど、なるほど。ちなみにそういう時って、「あ、これ面白そうだから自分でも使ってみよう」ってなることもあるんですか?
小泉: あー、最初の頃はありましたよ。なんかたまたまリサーチの途中に、ちょっと関係ない商品で面白そうなやつあるなー、と思ったら、買おうとしたりとか。わけわかんない商品が多ったりするので。
野口: Alibaba の AliExpress、見てるとほんと色々ありますよね。
小泉: ランタンとプラネタリウムが一緒になってるっていう謎商品があったりとか。「なんだこれ」と思いますよね。よくよく考えると、テントの中で多分吊るすんだろうなーって。
野口: ああー。
小泉: でも、テントならキャンプ行ってんだから、外見るだろ、って思うじゃないですか。
野口: 確かに(笑
小泉: いやでも、雨降っちゃったとき、こういうのあったらちょっとおしゃれかもしれないなー、って。
野口: ああー、そういう用途なのかも……?
小泉: でもでも、雨降ってたらキャンプ行くかよ、って。
野口: あの、ほら、山の天気は変わりやすい、っていうから……(笑
小泉: そんな感じで、使い方が限定的すぎるんじゃないかとか、もうわけわかんない、みたいな商品とか、ありますよ。
野口: 在庫で余ったらちょっと自分で使ってみる、っていうのもあるんですか?
小泉: そうですね、サンプルを抑えてあるので、いくつかはたまに使ったりはしてましたね。現に今使っているスピーカーは、自分が過去に売っていた商品だったりします。スピーカー、買おうと思ってたところで、サンプル使ったら結構よくって、そのままもう 5 ~ 6 年使っちゃってますね。
EC コンサルの販路
野口: 個人事業主から法人成りしたのが 2021 年で、そのタイミングにはコンサルをメインにやっていこうということですか?
小泉: そうですね。やっぱり法人の方が格好がつくというのはありましたし、利益的にも法人になった方が、得になるだろうなと思いました。
野口: 最初はクライアントを見つけるのが大変だったと思いますが、どのようにして販路を作りましたか?
小泉: とにかくブログをたくさん書いて、アクセスを増やすところから進めましたね。時々、先にお話しした、コンサルを教えてくれた人が紹介してくれたりもしました。
野口: なるほど。ブログって自社ドメインだと思いますが、ドメインパワーのようなものは以前から育てていたんでしょうか? つまり、自社ドメインで EC の直販していたりとか。
小泉: いや、それは全くやっていません。
野口: あ、そうなんですね。じゃあ、そのブログはゼロからのスタートで?
小泉: はい、そうなんです。これとは別に、もともとブログを書くというのはやっていたんですよ。起業した時に、メリハリをつけるために始めていました。サラリーマン時代には日報を書いていたのですが、そのような内容のものをブログとして公開するようにしたということです。
野口: なるほど。じゃあ、以前からの資産とかは使わずに販路拡大用のブログを始めたというわけですね。読者を最初につけるのって、大変ですよね?
小泉: 大変でしたね。
野口: 読者をつけるやり方って、ここで教えていただいても大丈夫ですか?
小泉: 大丈夫ですよ。昔からあるやり方で、ブログへの集客をして、コールトゥアクションを記事の下のほうにつけて、メルマガへ誘導します。
野口: おお、メールマガジン。何らかのプラットフォームを利用しているんですか?
小泉: はい、今は MyASP を使っていますが、その当時はエキスパを使っていました。どのプラットフォームが利用されているかを調べて、一番利用者が多そうだったのでこちらにしました。
野口: メールマガジンのプラットフォームって、インターネット老人に片足突っ込んでるような私にとっては、「まぐまぐ!」くらいしか思い浮かばないんですけど、まだあります?
小泉: はい、まだまだ生きています。有名な発信者が多いですね、例えばホリエモンとか、ユニクロのファッションアドバイスをしている MB さんとか。業界の始祖みたいな人たちが、結構こちらで活動していますね。
野口: ほー、そうなんですね。メールマガジンって、今でも根強い存在なんですねー。今はもう、サブスクリプションで月額いくらで読んでもらうようなプラットフォームとしては、やっぱり note が強いという印象でした。実際この対談も note のプラットフォームに載っけています。そうではなく、メルマガを利用する理由って、どういうところなんでしょう?
小泉: まず、僕の場合、メルマガは無料です。
野口: あ、無料で。それを公開されないのは?
小泉: クローズドコミュニティを形成したかったんですよ。つまり、メルマガにわざわざ登録してくれる人って、僕にそれなりの強い興味を持ってくれているということですよね。なので、より自分にとってのお客さんが誰なのか可視化できるようになるというか。
野口: ははぁー、なるほどなるほど、そういう目的で。小泉さんのメルマガに登録してくる人って、主に EC を運営している方々になるんですか?
小泉: はい、既に運営している方や、これから始めようという方ですね。コロナが終わってから、自動化しやすい副業をやりたい方が増えてきていて、そういった方もいらっしゃいます。
野口: なるほど、どちらかというと初心者の方が多いんですね。
小泉: はい。あとは、実店舗を持っている法人の方も多いです。
野口: ブログの更新やメールマガジンの配信って、頻度はどれくらいなんでしょう?
小泉: メルマガは、週に 2 回から 4 回です。
野口: 結構な頻度ですね。
小泉: ブログは、今は資産として築き上げられているので、ほとんど更新していません。記事の数が溜まるまでは、結構な頻度で更新していました。数を増やすというよりは、一つの記事を何回もブラッシュアップしていましたね。
野口: ああー、なるほど。登録日が古くても、最終修正日が新しくなる、と。
小泉: はい、常に検索順位を確認して、内容の更新をはかります。
野口: そういう時って、記事の本文だけじゃなくて、タイトルも変えたりするんですか?
小泉: はい、タイトルもですし、 OG 画像も変えますね。タイトルをキャッチーなものにしたらどうなるか、固くしたらどうなるか、とか、色々と試すようにしています。
野口: 中身は変わっていないけど、見せ方を変えることによってインプレッションが伸びるかテストしている、と。
小泉: そうです。それでも伸びなければ、中身の問題なのかなってことで、本文を変えたり。
野口: トータルで記事は今何本ぐらい上がってるんですか?
小泉: 未公開のものを含めたら 49 本ぐらい。公開しているのは 28 本ぐらいです。
野口: それを現在資産としてまわしているんですね。今の運用で、メルマガの登録者は増えますか?
小泉: 今はそこまでは……ですね。最近、ブログへの力を入れていなかったので、アクセス数も落ちてしまいました。今は SNS を中心に発信しているんですが、これからまたブログにも力を入れたいと思っています。
野口: なるほど。それで最近、ブログのテーマを変えたんですよね?
小泉: はい、完全に SEO 向けのものにしました。
野口: メルマガに話を向けますね。週に仮に 4 回配信していたとして、年間 50 週分としたら 200 配信くらいになりますよね。そこまでの頻度でないとしても、100 から 150 配信くらいになるんじゃないかと思いますが、ネタって尽きないですか? ネタかぶりとか出てきそうですけれど……。
小泉: はい、本当に最初の頃は、常に新しいネタを探していましたね。ただ、途中から気づいたんです。
野口: お……?
小泉: あるセミナーを受けたんですよ。そこで言われたのが、「人間は新しいことを求めているわけではなく、古いものを今風に使いたい」、と。
野口: ほほう。
小泉: 情報も同じで、言っていることが一緒でも、ちょっと今風に変えるだけで「違ってくる」ということを、実践しているうちに実感しました。
野口: なるほど。
小泉: ですから、同じデータを別の方向から見るだけでもよいですし。同じことを言うにしても、繰り返し伝えることで、「考えが一貫しているな」という印象を与えられたりします。「またその話をしているよ」っていう感じにはなりません。
野口: そういうものなんですねー。ちなみにメルマガのバックナンバーは、確認できるんですか? つまり、後から読者になった人が、過去のものを参照できるのかどうか、と。
小泉: バックナンバーは基本的に公開していませんね。登録から 10 日間は、定型のステップメールを配信するようにしていますが、その後は、音声が届くだけです。
野口: 音声ですか?
小泉: はい、音声でのメルマガなんですよ。話すテーマとしては、過去のストックで反応が良かったものを選ぶようにしていますね。
野口: 音声のメールマガジンって、メールが HTML で、再生マークがあってそれを押すと音声が聞けるような……?
小泉: いや、プレーンテキストの普通のメールで送っていますね。クリックすると WEB ページに飛ぶようにしています。
野口: あ、ブラウザ側でストリーミングされるんですね。
小泉: そうです。ブラウザで、バックグラウンド再生で聴けるようにしています。いろいろ考えたんですが、これが一番しっくり来ています。
野口: どれくらいの長さの音声になるんですか?
小泉: 最低でも 10 分ですね。長いときは 30 分くらい話したりします。
野口: おおー、それはもうほとんど Podcast みたいな感じですね。
小泉: はい、まさにそれです。
野口: 録音は溜めておくんですか?
小泉: いやぁ、気分が乗るか乗らないかで音声ってものすごく変わるんですよ。文章ならそんなこともないところ、声色だと気分が乗ってないというのはすぐにバレます。なので、撮り溜めはしづらいですね。とはいえ、乗りに乗ってるような時に 5 本くらい録ることはありますが。
野口: なるほど、じゃああらかじめ決めた時間に録音するというルーチンがあるわけでもなく、気分が乗った時に突発的に録音するんですね?
小泉: そうですね。時間帯としては夜中が多いです。連絡も来ないし、静かで考えごとがしやすくて。人によっては寝起きとか、食事前がいいとか、いろいろですよね。
野口: ご飯を食べる前?
小泉: 実際に僕もそのタイプです。ご飯を食べると、ダラダラしちゃって集中力が下がるんです。お腹が空いてる方が頭が冴えますし、いろいろなアイデアも浮かんできます。
野口: 血中の糖分の関係ですね。
小泉: なので夜中が僕には合っています。
顧問業の検討
野口: EC コンサル以外のところで、今後の事業展開、今後こういうことやっていきたいなー、と思うようなものって、新しく出てきたりしていますか?
小泉: そうですね、主に二つありまして。一つは、ご縁があって不動産事業をやっていこうと思っています。もう一つは、顧問ですね。今、コンサル料は月額でなく、一括で最初に受け取るスタイルになっています。不動産事業も、一括なんですよね。それこそ野口さんと知り合って、顧問ってアリだなと思うようになりました。
野口: あ、そうなんですね。ありがとうございます。
小泉: 少額でもいいんです。本格的な EC コンサルとかじゃなくて、その手前ぐらいですね。やはり、ひとり経営者って孤独な戦いですから。
野口: ですよねぇ。
小泉: そういった方に向けたサービスを作って、月額の安定収入を増やしていこうかと考えています。
野口: EC 顧問、いいですね。今、このように専門家を顧問としてつけるという文化っていうのは、財務会計や法律がほとんどじゃないですか。でも本当は、それこそ EC については EC の専門家を顧問に、IT については IT の専門家を顧問につける、というようであるべきなんじゃないかなと。これが当たり前のようになったら、中小企業の足腰が強くなるんじゃないかなあと思っています。
小泉: はい。
野口: 経営相談だと中小企業診断士というのもありますが、中小企業診断士の方でも、やっぱり得意/不得意の分野があるわけです。中小企業診断士の受験科目だって 7 科目もありますから、幅広い知識が求められるし、持ち合わせていることも確かです。
小泉: そんなにあるんですね。
野口: でも、大学受験に喩えるなら、幅広い試験科目を受けつつも、実際に入学した後は専門性を持って研究分野に入っていくわけじゃないですか。なので診断士の方も、実務の上では強い部分と弱い部分とが出てきて当然なんですよね。
小泉: はいはい。
野口: いずれの分野においても、一人の士業の方が全部カバーしきることって絶対できないですよね。なので、各分野の専門家それぞれが、顧問としてついて、連携してアドバイスできるようになっていくと、当該事業者の成長が促進されるはずだと考えているんです。
小泉: 間違いないですね。やっぱり、本格的なコンサルをつけるまでいかなくても、その道の知見がある方が近くにいた方がよいですから。実際、自分がそれで成功していますし。
野口: そうでしたよね。
小泉: 独立するときなんかも、ある程度、知見を持って独立したりとかするじゃないですか。まして新しいことやる時っていうのは、その分野に明るい人についていてもらうっていうのは、ものすごく大事だと思ってますね。
野口: 今、一括で最初にお支払いいただいたクライアントさんがいらっしゃるわけですよね。コンサルとしての目標達成後に、じゃあその後も引き続き、ゆるく顧問契約どうですか、みたいな感じで提案される予定でしょうか?
小泉: いや、逆にもう、目標達成された方々については、一人で生きていって欲しいというスタンスです。顧問どうでしょうって提案した方が、セールス的に楽だとは思うんですけれどね。結局、コンサルに頼る人って、次にうまくいかなかったらまたコンサルに頼んじゃうとか、あるんですよね。
野口: ああー、依存しちゃうというか、自立しようとしない、というか……。
小泉: はい。だからこそ、コンサルを依頼するのは自分で最後にしてくれ、ぐらいな感じでやっていますし、それを伝えたりもしているんですよ。その手前、コンサル終わった後で、顧問どうでしょうっていうのを、ちょっと言いづらいなっていうのも……。
野口: なるほどなるほど。
小泉: なので、顧問は別枠で、別のターゲット層に向けて作ろうと思っています。
野口: その、自分でコンサルを終わりにして一人で生きていくようにしてあげよう、っていうスタンス……うーん、なんか、上から目線に聞こえちゃって申し訳ないですけど、なんか立派だなー、と、感心しました。
小泉: いえいえ、ありがとうございます。
野口: コンサルに限らずですが、世の中、まあ色々なタイプの方がいますよね。ちょっと悪い方もいる。コンサルで悪い方というと、要はその、一度コンサルの味を味わったらもうコンサルなしでは生きていけないようにする、みたいな。依存させちゃう。
小泉: ありますよ、そういうところも。
野口: ありますよね。で、そうした方が当然、自社利益にはなるわけじゃないですか。
小泉: なります、なります、はい。
野口: そういうスタンスとは完全に、一線を引いて、もう自分で最後にして自力で生きていけるようにする。つまり、故事でいえば、魚の釣り方を教えるから自分で魚釣って食って生きていけ、っていうサバイバル力をつけるって、すごい立派、本当に小泉さんの好きなところです。
小泉: ありがとうございます、嬉しいですね。嫌いなんですよ、そういう中毒みたいなやり方が。その実、そういうところに限って大したこと教えていなかったりするんですよね、本当に。どことは言わないですけど。
野口: どことは言わないけれど(笑
小泉: 正直、上を目指せば目指すほど、上には上がいっぱいいる世界です。だから、ある程度のラインで、こういう方をターゲットにしよう、っていうのはあります。月商 500 万くらいなら、誰も雇わず一人で自由に生きていけるというラインだと思ってるので、そこを目指したい人に向けようかな、と。悪いところは、ところ構わずで情弱ビジネスのようになっているのがひどいですよね。
野口: ですよ。
小泉: そういうところがあるから、なんかまあ……僕もたまに怪しまれたりしますからね、実際。
野口: 一緒くたにされちゃうの、イヤですよね。
小泉: 僕の場合、事務所を構えているわけでもなく、オンライン限定でやってるんで、余計に言われたりしますよね。たしかに自分のやり方に情報商材的な側面があるわけなんで、まあ疑われるのもしかたないところもあるかな、と思ってるんですけどね。
野口: 一線を画しているぞ、と。
小泉: 他社で 300 万します、みたいなところ、ウチは 1/3 以下とか、ありますよ。自分、どんだけ良心的なんだろう、って、自分で自分のこと褒めてあげたい時もありますね。
野口: いやぁ、ありますよねー、本当。これ、なんか安くしすぎてないかなー、でもこれくらいの価格帯が、この人たちのためになる価格感なんだよなー、みたいな。
小泉: ありますよね。
「怠惰を求めて勤勉に行き着く」
野口: 小泉さんの X アカウントのヘッダに、大きく「怠惰を求めて勤勉に行き着く」というフレーズが掲載されていますよね。これ、漫画の『哲也』のフレーズですよね。
小泉: ですね。
野口: 数年前まで『哲也』を読んでなかったから、このフレーズ、知らなかったんですよ。でも、似たようなものとして、プログラマーの三大美徳というものがありまして、それが「怠惰」「 短気」「傲慢」なんです。
小泉: へー。
野口: いかにして面倒くさがって、がんばって手動でおこなうようなことをせずに、プログラミング等の手段を用いて自動化するか、みたいなところで、三大美徳として挙げられるんですね。もちろんその、自動化をするための労力はかかるわけじゃないですか。そこは惜しまずにやる。
小泉: そうなりますよね。
野口: ……で、それより後になって、こちらの「怠惰を求めて勤勉に行き着く」というフレーズを知って、「あー、そうそう、これこれ」って、やっぱり IT エンジニア経験をそれなりに積んでから、ものすごく響いて感じるようになったんです。小泉さんは IT エンジニアというわけでもないですが、どうしてこのフレーズが心に染み入るに至ったのかなー、っていうバックグラウンドを訊いてみたいです。
小泉: なるほど、これはですね、僕も面倒くさいことが大嫌いで、面倒なことを避けてきたんですよ。法人化した後のことですが、やっぱり会社になったら、出て行くものが色々多くなるじゃないですか。
野口: なりますよねえ。
小泉: 今までより稼がなきゃいけない。でも、なるべく楽をして稼げるようにしたい。そんなことを、税理士さんと仲良かったものだから、税理士さん相手にたくさん話していたんですよ。「今、楽するためにこういうことしてるんですよ」って話をずっと。そしたら彼が、「小泉くん、それはあれだね」と言って、「怠惰を求めて勤勉に行き着く」のフレーズが出てきたんですよ。
野口: おー、そこで。
小泉: 言われたとき、すぐに思い出せなかったんだけれど、聞き覚えはあって……「何でしたっけ、それ?」「『哲也』の房州だよ」「そうだ、『哲也』の房州だ!」と。2人とも麻雀をやるから知っていて。あらためてこれ、良い言葉だよなー、と。
野口: なるほど、言葉の再発見ですね。
小泉: はい、特に嫌なこととして、クレームが酷かったという体験から、問い合わせ対応も自動化しちゃいましたね
野口: タチの悪いクレーム?
小泉: ヘッドホンかなんかを買ってもらったんですよ。その時に、付属品としてアダプターやプラグなどが入ってなかったらしいんですよ。多分、業者さんのミスだと思うんですけど。それでウチに電話がかかってきたんですよ、怒りの。本当にまあ……輩みたいな口調で、「お前どうすんの」と。
野口: うわー……
小泉: 「俺、今日必要なんだよ」と言われて、まあそこまではいいんですけれど、そこからが。「静岡だよな。俺、埼玉だからよ。今から車で来いよ」と。「無理です」ってなりますよね。最初はこちらも「すみません、本当に申し訳ないです」って謝っていたんですけど、だんだんムカついてくるじゃないですか。「お金返すんで、もう切ります」って。その後は何ともなかったんですけれど……
野口: それは良かった……
小泉: もうこんな体験したくないと思いますよね。こんな感じで、仕事自体は嫌いじゃないんだけど、ここの部分は嫌だ、っていうのが出てくるじゃないですか。
野口: ありますね。
小泉: なので、こうした「自動化」をビジネスのテーマとしていこう、ということで、このフレーズをヘッダー画像に入れたっていうバックグラウンドです。同じように響いてくれる人がいればいいなって思いますね。結局、面倒なことを排除しようとすると、地道な積み上げというか、ちゃんとやらなきゃいけないなっていうのがあるんですけれど、でも、サボるために頑張ろう、みたいな。ビジネスのコンセプトですね
野口: よくわかりました! キャリアが異なっても、同じところに行き着くというのが面白かったです。やっぱり、自分で一回は、「これはなー……」みたいな体験をして。「じゃあその体験をいかにしたら、次に味わわずに済むようにできるか」と考えるようになるっていうのが、すごく大事だなと思うんですよ。
小泉: ですね。
野口: でも、日本人って、本当に「真面目」な人が多いじゃないですか。
小泉: 多いですね。
野口: 「真面目」な人ほど、面倒くさがらないし……、「面倒くさがるポイント」というか、なんか「面倒くさい沸点」がやたら高かったりするじゃないですか。
小泉: あーそうです。
野口: 多分、我々って、「面倒くさい沸点」がものすごく低い人種だと思うんですよ。一緒にしてしまって申し訳ないかもしれないですけど。
小泉: いやいや、そうだと思います。
野口: そんな我々からしたら、「え、これどう考えてもめんどくさいでしょ……」っていうようなことでも、「いや、でも仕事ってそういうもんでしょ」みたいな感じのスタンスの方もいるじゃないですか。「全然面倒くさくないですよ、今までもやってきたし」とか、「ずっとこれでやってきたんで大丈夫なんですよ」みたいな。
小泉: はいはい。
野口 いや、「大丈夫」って、仮にあなたが大丈夫だったとしても、たとえばじゃあ、後に引き継ぐ人にもそんな面倒くさいことまたやらせるんですか? っていうのもあったりしますし、今の日本でよく言われている「労働生産性」の問題と直結するわけですよね。
小泉: 確かに。
野口: この「面倒くさい沸点」をいかに下げるか、って、この後の日本の労働生産性とか、一人当たりの GDP を上げるみたいな話と、すごくつながってくるようなテーマだと思うんですよね。
小泉: そうなんですよ。しかも、めんどくさいことをやりたがりな人って、「仕事やった風」なだけで、進んでなかったりするんですよ。
野口: ああー、わかります、なんか、「仕事やった感」って出るんですよね、めんどくさいことやってると。脳の報酬系として。
小泉: 達成感が出ちゃうんですよ。EC においては、たとえば商品ページを作ることの中に、「誰でもできること」ってあるんですよ。本当は SEO 施策を考えるとか、そっちが大事なんですけれど。でも、「画像のアップロード」とか、「商品説明のガワだけ作る」みたいなのは誰でもできるわけです。だから、「そこは外注して任せましょう」とアドバイスするんですけれど、そういうのも全部自分でやりたがる方がいるんですよね。経営者って、そういう仕事をやる人じゃないはずですよね。なのに、自分から労働者性を進めなくていいじゃん、って思っちゃうんですよ。それこそ AI だとか最初からしっかりしたシステム導入しろとは言わないですけど、それでもアウトソーシングくらいなら。
野口: はい。
小泉: 僕は、自分にしかできないことをやりたいです。誰でもできるようなことは、人に任せちゃいたいなと思ってます。
野口: その「面倒くさい沸点」が高い、面倒くさがらない「真面目」な人に対して、どういうアプローチを仕掛けるとよさそうですかね?
小泉: 僕なら例えば、「こういうの、今までやってきたかもしれないけど、せっかく安くない会社のお金を払ってるんで、一回僕の言うこと全部聞いてやってみてください。自分の中の知識とか、やってきたことをゼロにして、僕の言う通りに動いてみてください。代わりに、サポートはしっかりやるので」と言って、とりあえずやってもらいますね。
野口: なるほど、なるほど。小泉さんにお金を払ってるんだから、っていう、mottainai 精神みたいなものを煽るっていうことですね。
小泉: そうです。自分のやり方がうまくいかなかったからお金を払ったわけなのに、コンサル契約をしてもまだ自分のやり方を突き通すのって、もったいないじゃないですか。やり方を変えないなら、ただ無駄に払うだけになるんですよね、きっと。
野口: ですよね。
小泉: 僕のやり方について、一度やってみた上で「やっぱり合わないな」とか、「いや、これはこの方が効率いいよ」とか思うんだったら、それはそれで方向を変えてくれればいいんです。でも、一度は僕のやり方に従ってくださいとは言いますね。
野口: 確かに、もったいない精神を煽れるかどうかっていうのは、人の動かし方としてすごく重要だなーって思いました。これ、例えば同じ会社内で、部署が違う人たちの関係だったりすると、直接的なもったいない精神って、出てこないですよね。例えば、総務の人が事務職で面倒くさいことをやっているとして、別部署の人が「いや、それは面倒くさいでしょ」って言っても、基本的にはそこの両者間って、何らの直接的なステークホルダじゃないわけですよ、金銭的には。だから、「別に私はこれでやってるからいい」ってなっちゃったら、それ以上に何か強く言えなくなっちゃいますからね。。
小泉: あー、そうですね。その、効率よくやってる人と、「仕事やった風」な人がいたら、どこかで何かしらのズレが起きるんで、その時に注意や評価ができればいいんじゃないかな……。
野口: そこが難しいところなんですよね。傍から、第三者から見てるだけだと、「仕事やった風」って、やっぱり一見すると大変そうにしているわけですから。実際に主観的には大変なんでしょうし。
小泉: はいはいはい。
野口: 一方で、効率よくやってる人。こちらは、自動化しているから生産性が高いし、効率よく仕事を回せている。例えば残業しないで帰れてる、みたいな人がいるとしましょう。
小泉: はいはい。
野口: 残業して頑張って一生懸命やってます、っていう人の方が、なんか「仕事やってる感」が出て、そちらの方が人事評価が高くなりがち、みたいなことって、あり得るんですよね。
小泉: あー、そういうの聞きますね。ちなみに前職、別に定時で帰っても、一切文句言われなかったから、運が良かったのかもしれないです。
野口: あとはその、例えば IT のスキルが高ければ高い人ほど、時間がかからないわけですよ。極端な例ですが、成果物を作るのに、ジュニアな人だったら、1ヶ月かかります。でもレベルの高いシニア層なら、6時間ぐらいで組めちゃいます、みたいな。後者の、短時間で作れちゃう方が断然価値が高いですけれど、前者くらい時間をかけてる人のほうが、単純な時間換算だったらお金は稼げちゃうわけですよね。
小泉: あー、なるほど。
野口: システム的には 100 万ぐらいの価値があるものを 10 万で作れる、というのと、30 万ぐらいの価値しかないものを 50 万かけて作りますって人がいた時に、その見極めって、依頼する側にとってはものすごく難しいですよ。本質的な価値っていうものと、実際に支払う金額って、そこにすごいギャップがある、という状況が往々にしてあります。
小泉: はいはい。
野口: ギャップが上振れしてるか下振れしてるか、っていうのが、なかなかわからない。こういう構造が本当に至るところで、日本社会の中で見られます。「これって、これぐらいの価値だよね」って、ズバッと言えるような人、医療で言えばセカンドオピニオンみたいな人が、DX 関連においてすごく必要になってくるんだろうなって思って……だから、私は今、IT 顧問業をやってます(笑
小泉: それ、不動産業界でもありますよ。住宅とかリフォームとか、素人じゃわからなくないですか?。
野口: はいはい、わからないですよ。
小泉: 例えば 1,000 万って言われても 3000 万って言われても、わからないですよね、なんとなく高いかな? っていうくらいしか、判断基準がないんですよね。だからこそ、なんか不動産って変な利益の仕組みがあったりもするんですよね、わからないからこそ、みたいな。
野口: ははぁー、どこもそうなんですね。
小泉: コンサルとかもそうじゃないですか。
野口: あー、そうですよね。
小泉: コンサルにその価値があるかどうか。値付けに対して、それだけの価値があると思ってくれる方もいれば、そう思わない方もいるだろうし。基準が難しいですよね。
野口: ですよね。だからこそ、知見ある人の重要性が光るように思います。
EC コンサル業における生成 AI の影響
野口: ChatGPT をはじめとして、LLM / 生成 AI が、この一年半ぐらい結構な勢いで世間の流れを変えてきていますよね。EC コンサルのお仕事において、働き方が変わったなーって実感することはありますか? あるいは、今後は間違いなくこういう風に変わっていくかなー、っていう感触だったりとか。
小泉: 結構プラスの面で働いてるな、と思っています。マニュアル作成が楽になりましたね。画像が作れるのも大きいです。中国の方だと、全商品ページを AI で作った、みたいなのもあります。
野口: ありますよねー。どんどん見分けがつきづらくなっていくでしょうね。
小泉: 僕は良い時代だなーって思います。でも、僕自身としてはまだそこまで、とりあえずプロンプト調べて、ちょっと自分なりにアレンジして、ぐらいのレベルでしか使えてないんですよね。もっと知見を深めれば、いろんな使い方ができるんだろうなとは思ってます。もっと仕事に組み込んで、ノウハウを溜めていきたいですね。
野口: 生成 AI としては主に、テキスト/画像/音声/動画っていう 4 つがありますけれども、どのあたりをメインで使ってますか? また、どのあたりに強く興味があるでしょう?
小泉: 現状、まず文章ですね。誰にとっても使いやすいじゃないですか。ChatGPT でプロンプトを作って対応したのは、商品説明の欄ですね。テンプレートを作っちゃう。「このキーワードを組み込んで、作ってください」って。
野口: まさに得意分野ですね。
小泉: たまに、商品ページで読ませる文章を出したいっていうことがあり、それを考えるのが嫌いなクライアントさんもいるんですよ。それならもう AI の出番かな、って。ちゃんと SEO キーワードとしても、こういう商品なら、こういうワードを入れてね、みたいな。
野口: なるほどなるほど。文章以外だと、画像は商品写真の補足とかですかね。音声って、どういう風に取り入れられると思いますか?
小泉: そもそも音声の生成 AI って、どういう感じなんですか?
野口: そうですね、例えば……小泉さんの声を一定時間分録音したものをアップロードします。メルマガ用に収録している音声ファイルが大量にあるでしょうから、そういったものをまずアップして学習させます。そうすると、入力したテキストを喋らせる、つまり Text-to-Speech において、小泉さんの声を合成音声として喋らせられる、みたいな。
小泉: えー、そんなことまで。ただ、今は、しっかりとした脚本があるわけじゃないんですよ。今日はこのテーマでいこうっていうことで、ザッとした構成だけ書いて、それに沿って話してるだけなので。それだと AI にはできないですよね?
野口: そうですねー、例えばですけれども……小泉さんが今まで喋ったものを、Speech-to-Text で音声からテキストに変換しましょう。そのテキストを大量に学習させます。つまり、小泉さんという人は、こういう話し方をする人です、ということを学習させます。
小泉: ああー、はいはい。
野口: そういう GPTs を用意しておいた上で、小泉さんがテーマの箇条書きだけは作ります。で、「この箇条書きをもとに、内容を組み立てて話してください」ってお願いして生成されたテキストを、小泉さん合成音声で喋らせる。そうすると、リアルに小泉さんが喋ってる風な音声ができあがる。
小泉: いやー、もう、俺じゃなくていいですね。それは便利ですね。違和感ないですかね? ちょっとありますかね、やっぱりまだ。
野口: そうですね、やっぱりまだうまくいかない部分とか出てきたりしますし、扱えるコンテキストの長さっていうのがまだ制限があります。「この量になると、こうなっちゃうかー」みたいな。ただ、近いウチに GPT-4.5-turbo が出てくるだろうとも言われていますし、 2026 年までには GPT-5 も出てくるんじゃないかなと思います。そうするともう、今の GPT-4 がおもちゃに思えるレベルになってくるので。今、「こんなこともできている!」っていうものが、「今までこのぐらいのことまでしかできなかったのかー」に変わっていきます。
小泉: そんなにですか。
野口: 正確な比喩というわけではありませんがあくまでモノの喩えで、GPT-3.5-turbo を幼稚園児くらいだとすると、GPT-4 が高校生くらいじゃないかと思います。それが GPT-4.5-turbo になればビジネスマンになってくれるはずです。
小泉: 2022 年に出てきたと思ったら、もうそこまで。
野口: そうなんですよ。だから世界が目まぐるしく変わっているんです。ただその、目まぐるしく変わってるっていう事実自体をまだ認識できていない方も多くいるというのが現状で、だから先行者利益を取るなら今、という。
小泉: なるほど。音声 AI については、僕は情報発信の方で使えそうかなと思いました。長さに制限があるんだったら、ショート動画でナレーションさせるとか。
野口: よいですね。動画ですらも、自動で生成できるようになってきてますし。
小泉: え、動画も作れるんですね。
野口: はい、動画生成も色々なものがあります。例えばですけど、自分の顔写真をアバターとして使いたいなら、グリーンバックにした自分の写真を撮っておいて、それをアップロードすると、口の動きや身振り手振りも含めて、結構リアルに再現されるんですよ。音声系と動画系のサービスは別々の会社が提供していて、それらを連携させることができるんです。動画サービスに音声サービスの API キーを登録することで、音声サービスに登録した自分の声が動画サービス側でも使えるようになります。で、アバターがその音声に合わせて動くんですよ。
小泉: えー、すごいですね。
野口: しかもこれが、大体月額 4,000 円ぐらいで使えちゃうんですよね。
小泉: 今までの人件費と比べたら、作り放題じゃないですか。そういうのも、もう中国系の会社ではバリバリやってるんですね。
野口: そうですね、深センの EC サイトやメーカーなんかは、商品説明の動画を AI で作っているところが増えていますよね。実は気づいてないけど、説明している人が AI になってる、っていうことが起きてきています。24 時間商品説明し続けているライブチャットのスピーカーが AI だとか。TikTok とかでインフルエンサーマーケティングやるのも、もはや人じゃなくなっていたり。
小泉: 確かに、ちょっと前に見た AI の女の子が踊ってる動画とか、かなり自然になってきていますよね。前より可愛くなっているし。
野口: そうですね。今の動画は大きく2種類あって、一つは骨格を推測して動かすタイプ。もう一つは、パラパラ漫画的に近似した画像をたくさん生成してコマ送りするタイプです。例えば後者だと、アニメ現場で活用したら、止め絵と止め絵の間の中間部分なんかは AI で生成できるようになっていますね。
小泉: あー、本当だったら 1 秒動かすのに 30 枚必要なのが、2 枚目から 29 枚目まで AI で行けちゃうってことですね。
野口: ですね。中国のアニメスタジオを皮切りに、今後もっと広まるんじゃないでしょうか。
小泉: 画像生成だと、サムネイルとかでも使えますね。
野口: はい、例えば Photoshop だと、写真を AI で補完できるんですよ。アスペクト比を変えたい時に、切れちゃう部分や足りない部分を AI で補完して。そうなってくると、AI の学習元の健全性や違法性というものが問題になってくるわけですが、Adobe の場合は学習元が全部自社ソースなので安心して使ってくださいね、ということを謳っています。さすが強いです。
小泉: ああ、デザイナーさんもすごいって言ってましたね。そうかー、そんなに。YouTube の字幕もほぼ AI ですよね。
野口: そうですね、EC の販売に関しても、多言語対応が簡単になっていて、例えば中国語の商品説明を日本語に変えたりとか、音声だけを差し替えて口パクを合わせたりとか、そういうことができます。
小泉: いやー、すごいですね。
野口: グラスに表示される文字がリアルタイムに翻訳される AR グラスも出てきていますね。その外国語の看板文字なんかが、設定した言語に代わって表示されるとか。現実が上書きされていく感じで。
小泉: サイバーパンクみたいですね。『攻殻機動隊』みたいな。
野口: そうですね。さすがに脳に直接リンクさせるようなものは法的規制やリスクが伴うので、まずは身の回りに装着するかたちで拡張するという路線に進んでいくんじゃないかと思います。
小泉: いやー、どれも勉強したいですね。
野口: なのでやっぱり、AI とかに知見のある顧問を脇に置いておいた方がいいと思うんですよ。全部を全部、自分自身で情報収集して速度感についていくっていうのは、大変ですから。
小泉: まずは基礎を覚えていくところからですね。今、聞いた話だけでも、僕の知ってる AI じゃなかったです。もうそんなに変わってるんだー、って。
野口: 数ヶ月で変わりますからね、これ。
小泉: ちょこちょことは使ってるんですよ。ブログを書くときに、執筆向けのサービスで AI 使ってるんです。便利だから、来月に月額 5,000 円ぐらいの有料プランにしようかなと思っていたところで。
野口: ChatGPT の方は、課金されてるんですか?
小泉: いえ、幼稚園児のままです(笑
野口: 3.5-turbo ですね(笑
小泉: 課金してないですね。しようかな……
野口: その執筆向けの方で月額 5,000 円を払うんだったら、ChatGPT に 3,000円 ぐらいを課金して、自分専用の GPTs に作り込んだ方がいいんじゃないかなーと思いますよ。
小泉: あー、なるほど。ちゃんと呪文(プロンプト)を覚えさせてってことですよね。
野口: いえ、GPTs って最初にしっかり学習させてしまえば、その都度のプロンプトでいろいろな工夫をする必要がなくなるんですよ。
小泉: あー、なるほど。
野口: 多分、自分で一回使ってみないと、その感触がわかりづらいのは確かです。本当に何でもできちゃうんですよ。例えば、極端な例だと、野口啓之をエミュレートした GPTs なんかも作れたりします。
小泉: え?
野口: 私の個人的な情報だったり、こういう質問にはこういうスタンスで回答します、というようなことを学習させていくことによって、思考形態に方向性をつけることができるんですよ。
小泉: すごい! そっちに 3,000 円払って、勉強しながら覚えていった方がいいですかね。
野口: そうですね。カスタマイズがかなり自在にできるので。もう一つ例を出すと、自分のブログに書いてきた内容を GPTs に学習させる。それで、特定のテーマや文体で出力してくれるようになったりします。
小泉: それが 3,000 円ですか。
野口: 月額 20 ドルで、今の為替レートだと 3,000 円ぐらいですね。
小泉: じゃあ、そっちの方がいいですね。完全に制限もないですもんね。
野口: 制限としては GPT-4 の時間あたりやり取り上限があって、3 時間に 40 回までですね。
小泉: そんなにしないんですもんね。
野口: 3 時間経っていっぱいになっちゃったら、また 3 時間後にやってください、っていうアラートが出てきますから。
小泉: 確かに、一回試してみて、今使ってるサービスの方が便利だなと思ったら、そっち使えばいいですし。まずは、いきなり 5,000 円を払ってみる前に、3,000 円のものをちょっと試してみるのはアリですね。
野口: そうですね。今あるサードパーティ製 AI ツールのベースとなっているのは OpenAI 社のものがほとんどですからね。
EC における販売手法は基礎の積み重ね
野口: 新しい販売手法として、先ほど少し挙げたインフルエンサーマーケティングがありますよね。これって D2C で直接エンドユーザと繋がることができるというのが強みだと思います。
小泉: はい。
野口: じゃあその手法を、小泉さんのような、小売業で EC サイトを運営しているという方々が採り入れるっていうのは、可能性としてあり得るのかどうか……? と思ったんですけれど、どうなんでしょう?
小泉: うーん、そのやり方はやっぱり D2C じゃないと効果が出しづらいですよね。
野口: ですか。
小泉: 小売でインフルエンサーを活用するなら……見せ方として、例えばこんな方に紹介されました、みたいな感じで、商品画像の一部として使うというのは、今でもよくされますね。最近多いのは、楽天で楽天 ROOM ができたりしたので、アフィリエイト料をオファーしてみたいなのとか。
野口: なるほど。
小泉: それから、インフルエンサーマーケティングという使い方よりは、なんか権威として用いるというのも多いですね。
野口: 権威?
小泉: 要は、インフルエンサーに直接広めてもらうっていうよりは、「雑誌に掲載されました」とかと同じ要領です。権威性を高めるために。
野口: はいはい。
小泉: 「実績」として用いることが多いですね。
野口: なるほど。でもそれって、あくまで「商品の実績」なんですよね。
小泉: そうですね。
野口: それだと、その……同じ商品を他店でも取り扱ってるわけですよね。店舗が A, B, C とあったら、その A 店舗でこの商品を取り扱ってます、っていうものを、他の店舗でも取り扱っていますよね。
小泉: はい。
野口: 例えば、とあるガジェットを小泉さんが Yahoo! ショッピングで売っています、と。それはまた Amazon の方でも取り扱いがあって、販売者は別の方がやってます、ということがあったとします。
小泉: はい。
野口: 小泉さんが Yahoo! ショッピングにおいて、商品に対する見せ方として「こんなに良いよ!」と見せていて、見た人がとても惹かれたとしましょう。でも、買う前に価格調査をされちゃいますよね。で、他で安かったら他で買われてしまう。
小泉: ありますね。
野口: でも、そうじゃなくて、見せ方をものすごく工夫することによって、価格調査とかせずに勢いで買わせちゃう、みたいな。そういうのってありえるんですか?
小泉: はいはいはい、転換率ですね、コンバージョンレート。そうですね……僕は、世界観が大事だと思っています。
野口: おお、世界観。
小泉: 権威づけによる差別化ってあるじゃないですか。雑誌掲載もそうですし、どこぞの機関に調べてもらって、これくらいの数値が出たからこの商品は優秀です、とか。割とみんな、そっちに走りがちなんですよ。
野口: 施策として分かりやすいですもんね。
小泉: でも、一番大事なのって、商品ページ自体の世界観。ストーリーがわかるか、いかに没入感が出るか、みたいな。小さいところで言うと、色や文言が統一されているか、商品に合っているか、というのが、積み重なって大きいと思うんですよね。価格以外での勝負になってきます。商品ページ自体を画像含めて月 1 くらいのペースでブラッシュアップを重ねていくのが一番なんじゃないかなと。
野口: 地道なところで。
小泉: はい。やっぱり、基礎の積み重ねが重要です。
野口: 楽天や Amazon などのプラットフォームって、基本的なページの設計、基本テンプレートって出来上がってるじゃないですか。特に Amazon は、なんともカスタマイズのしようもないような感じで。
小泉: はいはい。
野口: 楽天だったら、画像をボンボンボンボン埋め込んで縦長にすることによって、商品ページ盛り盛りにすることができると思うんですけれど。あれ、やっぱり画像をたくさん使ったりしていくのって有効なんですか?
小泉: 有効ですね。でも、入れても 20 枚ぐらいが上限です。ただ、買いたい人が求めている答えを、早めに出してあげるのは大事かなと思っています。よく指摘するのですが、サムネイルを無意味にかっこつけたがる方がいるんですよ。
野口: ほぉ。
小泉: でも、単にかっこよく見せるだけじゃ意味がないんですよ。インパクトがなきゃダメ。ネットショップで買い物する時って、「今日はこのサングラス買ってやるぞ!」みたいな感じでもないじゃないですか。「なんとなくサングラス欲しいなー」みたいな。「夏になるからサングラスかなー」っていう感じなんですよね。
野口: 明確に決まった商品があるわけでもない、と。
小泉: なので、その時に「なんだこれ?」って思ってもらえたり、ちょっと気にかけてもらえるようなサムネイル作りを心がけるのが有効なんです。気になって、なおかつ、ある程度の答えが書いてあるのがいいですね。答えっていうのは商品の特徴です。サングラスなら UV カット機能とか偏光率とか。
野口: いやほんと、何でもかんでもファスト化してますよね。
小泉: どんどんしてるんで、やっぱりそれに合わせるように、サムネイルにある程度の答えが書かれている必要がありますね。SEO 的なところとも関わりますが、商品タイトルも。ちょっと見せ方を、セオリーから変えてあげたりするんですよ。本来の SEO のルールだったら「これが最適」というものに反していく。答えがサムネイルとして表示されているなら、タイトルからは外しちゃうんです。代わりに、タイトルの頭の方に、「セールでナンバーワン」とか「期間限定で何日まで」と書くような。
野口: ははぁ、なるほどー。
小泉: こういうことの積み重ね、基本が一番大事かなというスタンスです。そこをしっかりやっていて、なおかつ他と差別化するのが重要です。そもそも大した商品ページや画像でもないのに、他と差別化しようとしたところで、それは小手先のテクニックですよ。一時的に効果が出ることもあるかもしれないですけれどね、本質的じゃないので長続きしないでしょう。
野口: よくわかる話です。
小泉: だから、没入感や世界観をちゃんとした方がいいよ、というアドバイスをよく言います。あとは、いかにスマートフォンで見やすいか、使いやすいかですね。スマホが 8 割なんで、その層に向けた商品ページ作りですよね。デザインのセオリーとしては本当は間違ってるかもしれないけれど、見出しがデカ過ぎるとか、全体のバランスはもうほんと全然ダメ。でも、勢いが伝わるのでガッと心に入りやすかったりというのがありますね。
野口: それ、しっかりセオリーやルールを分かった上で、あえての「ハズし」ですね。
小泉: はい、それから、どれだけレビューを読み解いているか、というのもあります。
野口: そのこころは?
小泉: ゲーミングヘッドセットを取り扱ったことがあるんですけど、ゲーミングヘッドセットって聞くと、男性が買ってるのかな、って思うじゃないですか。しかも、デザインが男性向けのデザインだとしたら、なおさら。
野口: そうですね。
小泉: でも、実際の購入分布を見てみると、男女半々なんですよ。女性でも 30, 40 代がボリュームゾーン。
野口: その年代の女性の趣味に合う感じだったというわけではなく……?
小泉: そう思っちゃいますよね。「なんでだろう?」と思って、データだけ見ていたらわからないんですよ。だから、レビューを見てみる。そうすると、子どもにプレゼントしてあげてるんですよね。
野口: ああー! なるほど。
小泉: これ、レビュー見ないと絶対に分からないじゃないですか。
野口: ですね。
小泉: じゃあ、子供にプレゼントする目的で売れやすいんだったら、そういった層に対してちゃんと訴求してあげなきゃいけないんですよ。
野口: キーワードで「プレゼント向け」とかを入れるってことですか?
小泉: 簡単にできるのはそこからですね。「お子様のプレゼントにも最適」とか、「これだけ買われてます」みたいな。また、画像でちょっとライティングを変えたりもしますね。画像は一緒なんですけど、ちょっと子供向きに見えるようにしてあげたり。あと、この頭部のサイズ感を子どもから大人までフィットするように調節できますよ、とか書かれていると、「子どもでも大丈夫かな」って思われるじゃないですか。
野口: たしかに、たしかに。あー、奥深いですね。面白い。子どもが装着してるような写真とかが、もうそのまま使えたりしますかね。
小泉: そういうのももちろんアリですね。「ギフト梱包をしています」みたいな画像でもいいですよね。とにかくそういう感じで、色々な画像を作る。データを見る。レビューを見る。で、また画像を作り直す。これらをひたすら繰り返してブラッシュアップしていく。すると、売れる商品ページの出来上がりですよ。
野口: なるほどー。
小泉: あとは「死んでないページ作り」をするってことですね。現役、「生きてる感」を出す。
野口: はいはい、ブログ記事でも重要ですよね。
小泉: 「これだけ売れてますランキングで 1 位取りました!」っていう画像があったとして、でもよくよく見てみると 2019 年 6 月だったり(笑
野口: あるある(笑
小泉: 1 回取ればいいやと思ってるんですよ、そういうの。しっかり更新してあげないとダメです。楽天のスーパーセールのバナーが、いまだに 3 年前のものとか、結構あるんですよ。そんなの、実店舗だとしたら、閉店しているのかどうか分からない状態じゃないですか。
野口: ですね。
小泉: ちゃんと「生きてる感」を出してあげるのは、一番大事ですね。
画像生成 AI の利用におけるリスクヘッジ
野口: 画像を作るのがとにかく重要ってことで、先ほどの生成 AI の話とも結びついてきますね。画像を作るコストが AI によってかなり下がってくる見込みがありますね。例えばその、ヘッドフォン装着した子供の写真が必要だと思った時に、ちょうどいいピッタリの写真ってなかなかないですよね。子供のモデルも身近にいないし、専用の写真を撮ろうとするとお金かかるし……とか、そういう問題が、解決しますよね。売りたい商品の画像と、生成された子どもの写真を組み合わせちゃえば、いいわけじゃないですか。
小泉: あー、そうですね、最近、クライアントさんでいましたよ。とある商品を売ってて、「これ、背景に、お兄ちゃんとおばあちゃんがいればいいですよね」みたいな話をしたんですよ。そしたらしばらくして、リクエスト通りの写真を持ってきてくれて、「これ、すごい良いじゃないですか! どこかのフリー素材なんですか?」って訊いたら「AI で作りました」って。
野口: どんどん活用シーンが増えてきますよね。画像の場合、生成サービスの学習元がクリーンかどうか、っていうのが問われてくるんですよ。
小泉: ほう。
野口: 「なんかこれ、明らかに学習させちゃいけない画像を使って学習させてるだろ」みたいなサービスを使うのは、リスキーです。無難なところだと先ほども挙げた Adobe ですね。Firefly っていう AI の生成においては、Adobe に今まで共有されてきている画像だけを学習素材として使ってます、と宣言されていて。Adobe に共有されたものは、もう利用者から「Adobe が学習していいよ」っていうことを、利用規約として合意済みということになっているので。
小泉: へー、そうなんですね。
野口: だから Firefly が生成している画像は安心して使っていいよ、っていう風になってるんです。ただその、色々と明らかにされていない有象無象の画像生成サービスは、「どこまでこれ使っていいのかな?」っていうのは保証されていないので、法人利用でリスク回避するなら、今のところ画像生成だったら Adobe を使っておくのが無難だと思います。
小泉: リスクというのはどういう? 著作権的な問題ですか?
野口: 著作権・肖像権まわりの問題ですね、往々にして。許可を取ってないキャラクターや、極めて偶然的にですが実在の人物が出てきてしまいかねない。前に話題になったのが、ゲームデザイナーの内藤時浩さんが「普通のおじさん」として生成されてしまって、「これ俺じゃん」みたいなことがありまして。
野口: そういう偶然の一致っていうのが発生しうる。だからその、先ほど話に出された、「生成されたお兄ちゃん・おばあちゃん」っていうのも、実はネットの広大な海の中から勝手に学習されてしまっていて、本人の肖像権は許可されてないものだったりするかもしれません。
小泉: はいはいはい。
野口: 類似したそっくりさんが出力されちゃったことについて、なかなか気づけないですよね。そうすると、後になって「肖像権的にこれアウトだよ」って突っ込まれたら、まあまあ面倒なことになりかねないわけですよ。
小泉: ああー、なるほど、確かに。そういうのって、AI が探してきて学習してるんですか?
野口: AI に学習をさせている人達ですね。例えば画像生成のエンジンとしては ChatGPT にも採用されている DALL-E 3 というものがありますが、そこに学習データを投入している人達がいるわけです。で、その学習データソースについては、許可が取られてないものをたくさん含んでいる可能性が高い。
小泉: はいはい、なるほど、そういう感じなんですね。生成された画像が「『ワンピース』のルフィじゃん」みたいなことが起こっちゃうんですね。
野口: はい、さすがにルフィくらい有名なキャラなら、出力結果を見て、「これ使っちゃいかんな」ってすぐにわかるわけですよ。でも、漫画とかアニメに詳しくない人が、ちょっとマイナーなキャラクターをすぐに見分けられるかっていうと、難しくなりますよね。自社のマスコットキャラクターを生成してみたら、どこぞのキャラクターに似ているものが出てきた。でも、社内でそのことに気づける人が誰もいなかったりすると、チェックをすり抜けてしまう。
小泉: そうかー。
野口: それを使ってビジネスやってたら、何年か後になって「これ、俺たちの著作物だよ」とツッコミを入れられる可能性が出てくるわけですね。
小泉: それ、どうにもならなくないですか?
野口: だから、「画像生成の AI を使って作った人たちはクリーンだよ、サービス提供元が責任とってあげるよ」っていうことを謳っているサービスを、使うことが重要になってくるんです。
小泉: ああー、そうか、むしろ生成 AI のサービス提供者側が悪いってことになるんですね。
野口: そういう規約になっているものを使って作られています、っていうんなら、法的にはリスクフリーなんですよ。「危ないものは出てきませんよ」っていうフレコミでサービス提供していたのに出てきちゃったとしたら、「嘘ついてたのか」ってなるわけですね。
小泉: はいはい。
あるいは、著作権所有者が自覚無しに学習ソースとして提供してしまっていたという可能性もあるかもしれませんが。画像共有系のサイトで、利用規約をあんまり見てなかったけれども、実は「アップロードされた画像は、学習用に使っていいよ」となっていて、その結果として出てきてたっていうことは起こり得ます。
小泉: なるほど。
野口: でも、こういう安心を謳っているサービスじゃなくて、どこの何をデータソースとして使ってるか分からないし、「出力結果の使用は自己責任でやってください」みたいになってるサービスで生成されたものが問題になると、それはもう利用者側の分が悪いですね。
小泉: はいはい、それで安心して使えそうなのが Adobe の Firefly であると。
野口: はい。他にも Microsoft は出力結果について責任を持つと言っていたりもするわけですけれど。Adobe のインフラに乗っかっておくのが、今のところは無難なんだろうなと思います。
締めに代えて、顧問/コンサルをつけることの重要性
野口: 今日は全然知らない分野のことをたくさん伺えて良かったです。EC 運営の苦労どころ、色々ありますね。
小泉: そうですね、一人でやってらっしゃるからこその苦労って多いと思います。本当に、経験を積まないとデータの見方なんて分からないですよ。
野口: 見かけの数字に騙されるっていうのは、経験が少ないと起こりますよね。
小泉: ありますね。騙される人が多いんですよ。たとえば、利益率より売上額そのものしか見ない人が多かったり。大事なのは利益率の方じゃないですか。
野口: ですよね。
小泉: 売上額の大小そのものは、そこまで重要じゃないかな、と僕は思います。注文件数が落ちても利益率と粗利が上がっていればいいんですけれど。ランキング 1 位にこだわる人も多いですね。でも、そこって重要じゃないというか、むしろリスクが高くなるので避けた方がいいくらいなんですよ。
野口: あ、そうなんです?
小泉: 1 位にいると、パクられたりするリスクが高くなります。それよりは、 4, 5 位くらいでいた方がいいです。安定します。けど、僕だっていろんな経験をして得た答えだったりするんで。
野口: 経験がないと得られないですよね、そういう知見は。
小泉: そうなんですよ。わからないですよね、やっぱり最初からは。
野口: やってみないと、失敗してみないと、っていうのはすごくありますからね。でも、人類みんな揃って、同じ失敗を結局繰り返さないと前に進めないようじゃ、いつまでたってもみんな同じところでずっと足踏みしている感じで、虚しいじゃないですか。
小泉: ですね。
野口: 自分達の、この知見を使って、屍を乗り越えて、みんな、そこはもうそういう失敗を踏み越えて進んでいってよ、と。
小泉: なるべく僕と同じ罠を踏ませないように教えるんですけどね。でも、やっぱりみんな踏むんで(笑
野口: (笑 一度は痛い目、自分で見てみないと、っていうのはあるのかもしれませんよねえ。
小泉: そうですね、それはありますね。失敗もした方がいいんですよ。お金減ってもいいんで、失敗経験を得てください。
野口: 経験が少ないせいで見かけの数字に騙される、っていう話だと、そのデータの本当の品質というのかな……さっき小泉さんが言われてたのがまさに端的だと思ったんですよ。
小泉: どれですか?
野口: 女性にヘッドフォンが売れてます、と。「じゃあ、女性向けなんじゃん、これ」って勘違いしちゃって、女性向けにアプローチの舵を切って、女性に売れようってしても、全然本質を外してるっていう話じゃないですか。
小泉: そうです、そうです。
野口: 女性は子どもにプレゼントしてるわけだから。だから、そういう、本当の理由みたいなところまで深掘りしないで、表層的なところで数字の意味を捉えちゃう、っていうのが、起こりますね。
小泉: そうなんです、僕の場合、レビューを見るとよいというのが分かってるんで、それで気づけたっていうのがあるわけです。でも、こういうのって、教えてもらっていなかったら、わかんないですよね。
野口: 経験なくて気づけるかどうか。
小泉: 難しいですよね。知見を持っている人に頼りましょう。
野口: お互いポジショントーク的になってしまうところもありますが(笑 でも、重要だと信じているからこそ、我々、こういうお仕事をしているわけですからね。……ということで、本日はありがとうございました!
小泉: ありがとうございました!
後書き
野口です。ここまでお読みいただきありがとうございました。
本文でも何度か言及したとおり、小泉さんが専門とされる EC 領域に関する知見をほとんど持ち合わせていなかったので、大変面白かったです。
一方で、業域では畑違いにもかかわらず、職域の「コンサル」という点では「あるある」と共感する点も多々あり、本質的な問題はどこも同じようなところに根ざしているのだなと思われました。
ヒトが関わっている以上は、結局のところヒトに帰着するということなのかもしれません。
そもそも小泉さんとは B.C.C. という異業種でのビジネスコラボレーションを主眼とする交流会で知り合い、今はこの組織の運営事務局を一緒にまわしています。
以下の仮置きの WEB サイトも、小泉さんとそれから他デザイナーさんと一緒にリニューアル作業の最中です。
こちら B.C.C. についてもご覧いただけると嬉しいです🙌
記録
対談日
2024/01/17
GitHub 上でのファイル
https://github.com/Kimi-Yori/TalkWithThisPerson/blob/main/articles/0004.md