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ハン・ガン『ギリシャ語の時間』
誰の痛みも本人以外には大部分は見えないし、わかり合うこともほとんどない、
ほとんどは見えないながらも感覚を研ぎ澄ませて観察して想像して、いきなり踏み込んで壊したりしないように、怖がらせて逃げ出させたりしないように、慎重にその人のことを思う。
時々通じ合えたかも知れないと思えた瞬間はこちらの一方的な勘違いかも知れないし、すぐ過去になってしまうかも知れないけれど、
そんな瞬間があるから、さびしくてもやりきれなくても報われなくても生きていこうと思えるのかも知れません。
この本の主人公の2人は、生まれつき繊細な感覚を持っているから傷ついてしまうのか、傷ついたから感覚が研ぎ澄まされていったのか。
そんな人たちがこの世界の儚いものをすくいとる心象が、詩のように描写されます。
一方は言葉を失い、もう一方は視力を失いつつあり、お互いが感覚を研ぎ澄ませた中で手探りで通じ合えた瞬間は、真っ暗闇に小さな小さな灯りがともったようでした。
どんな人にも外から見ているだけでは到底わからない誰にも知られぬ内面世界が広がっている、そんなことを思いながら、自分の大切な人のことを知りたいな、と考えています。