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ラプソディ・イン・ブルー|小学生が初めて買ったCD
初代CDプレーヤー到来
初めて自分でお金を出して買ったCDかといえば、そうに違いない。まんまとはめられたかといえばまさにその通り。
CDが本格的に普及しはじめたのは1990年代らしい。とはいえ、LPより音がいいか悪いかなんてたいていの人はわかるはずもなく、いいらしいという噂で、マニアか物好きが、まず手を出し始めた。
うちに最初にきたCDプレーヤーは当時にしては安いということで、父が買ってきたものだったが、音がいいのか悪いのかはわからなかったという。
生まれてはいるはずだけど、そのあたりの記憶は全然ない。成長してから兄に聞いた話である。
レコードプレーヤーでは最初と最後に針の音がするが、CDはそれがない。レコードの場合、針を落とす時と無録音箇所で回転するレコードを針が擦る音がする。CDはそれがなくなる。だからなんだというのだ。当時オーディオに凝っていた時期だった父だが、CDプレーヤーがあまりにも面白くなかった(その上ソフトはレコードの倍くらいしたらしい)ので、オーディオにも飽きたと聞く。
あまり、細かく書くと歳が知れるのでごまかしつつ、書き進めていく。大雑把な年代の書き方をしていくが、それが乙女心だと認識していただきたい。
2代目CDプレーヤー到来
うちに第2次CDブームが訪れたのは兄の大学時代だ。小学生の妹にプリプリよりもキングクリムゾンを勧める変わり者なので、だいたい何かやるときは巻き込まれる。今はその分迷惑をかけているので、あまり強くはいえないが、このCDの件も散々といえば散々である。
オーディオに詳しい人ならDA変換とか光入力とか聞いたことないだろうか。要はCDプレーヤーをアンプに接続するときのつなぎ方である。安っぽい細いLRの赤白線でアンプにつなぐより、デジタル信号のままアンプにつないだ方が音がよくなるはずと思いませんか?
あくまでもアンプのデジタル→アナログ変換回路が優秀ならという前提だが、凝り性の兄に抜かりはなく、父が集めたそれなりにいいスピーカーたちに光出力対応のCDプレーヤーと光入力対応アンプも購入してきた。理論的には以前は実感として感じられなかったCDの高音質も実感できるはずだ、というのが兄の言い分だ。
ただ、機器の値段が高い。CDソフト自体は3,000円くらいに落ち着いていたが、最新オーディオ機器はいつの時代も高い。
我が家の第1次CDブーム直後はほとんどソフトが増えることもなかったが、90年代以降は結構なペースで増えていた。95%兄が購入し、5%は父という割合。私は兄が無理やりラッシュとか聞かせてくるので、もっぱらレンタルCD専門で自分で購入することはなかった。
ドリカムとか買おうものなら、兄がへし折りかねない。(そこまでの変人ではないかな?)
兄の陰謀
まあ、いいCDプレーヤーが揃ってよかったね、というところだったのだが、せっかくだから新しいCDソフトも買いたいらしい。そこにいっぱいあるじゃん、と言ってはみたが、「既に擦り切れてるかもしれない、ここは新しいCDが必要だ。そこで、お前に頼みがある。」
CDが擦り切れて聴けなくなるなんてことは、それこそ物理的にヤスリでコスりでもしないとありえないのだが、あまりに兄が真剣に頼んでくるので、勢いに押されてついYESと答えてしまった。
わたしのおこづかいでCDを1枚買ってくることを。
当時はまだ小学生である。小学生にCDをねだる大学生。ありえへん。
ただ、どのCDを選ぶかはわたしの意見を通させてもらうことになった。3,000円は小学生には大金である。それを出すのだから、絶対に兄の趣味とはかけ離れたものを買ってやろうと思った。
とはいっても、流行り物ギライの兄に当てつけのようにTOKIOとか買うのは、私の心臓に悪い。たぶん買っても聴かせてもらえない。
ラプソディ・イン・ブルー
そこでもっともらしい言い訳と、音楽的にも折衷案ともいえる1枚を選び出した。それがこの「ラプソディ・イン・ブルー」である。ガーシュイン作曲のこの作品はイントロのクラリネットのグリッサンドを聴けば多くの人が思い出せるであろう名作である。
カテゴリー的にはクラシックなのかもしれないが、アメリカンジャズとクラシックの融合という先進的な作品であり、仮にもプログレッシブロックファンを自認する兄が、作品発表当時は斬新さで話題になった本作を否定できるはずもない。
もうひとつ、小学校の学年ごとに行われる演奏会で上級生の課題曲が、この「ラプソディ・イン・ブルー」であった。小学生用に超簡素にアレンジされたものではあるが、原曲をちゃんと知っているのはいいことに違いない。
という理論武装で選び出して、小学生のおさいふから購入されたのがこの1枚である。
現代クラシックには興味を示さない父でも聴けないことはないし(あの人はハイドンより新しいものは聴かない)、ジャジーなところや実験的な試みは兄好みだし、わたしも上級生の演奏を聴き、オリジナルに興味を持っていたので、家族の誰からも反対意見がでない。(母は最初っから興味なさそうだった)
大岡裁きは三方一両損だが、わたしの裁きは三方一両特ではないか。(時代劇ネタは夕方の再放送が好きな母の影響)
大岡越前を超えたと悦に入ってはみたが、よく考えればどんなCDだろうが妹に買わせた兄が一番の切れ者に違いない。
ということで、バカバカしい計略にはまり、わたしが「はじめて買ったCD」は「ラプソディ・イン・ブルー」になりましたとさ。
私が買ったんだから、好きに聴かせろと兄に談判したところ、「俺の部屋に勝手に入れるわけにはいかない」と録音されたカセットテープを渡されたのは切ない後日談である。高級テープに録音してやったんだから感謝しろよ、と恩まできせられた。確かにわたしの部屋にはラジカセしかないけど。
余談)カバー画像はCDジャケットですが、ガーシュインさんのイラストです。実物もなかなかイケメンですよ。
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