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退職代行サービスは「正義」か「悪」か?

近年、「退職代行」という言葉を耳にする機会が増えています

特に若い世代を中心に、この新しい形の退職方法が急速に普及しつつあり、
退職代行サービスの”モームリ”によれば25年の年明けには1日で230件以上の依頼があったとの事でした・・・。
※ちなみに私は1件だけ、人事の立場で経験・対応したことがあります

本稿では、人事の視点から退職代行サービスの現状と労働市場における課題感について考察してみたいと思います



そもそも「退職代行」とは?

退職代行とは何なのでしょうか?

退職を希望する労働者に代わって、専門業者が企業に対して退職の意思表示や諸手続きを行うサービス

退職代行とは

また、費用感は当然企業により異なりますが、大体

  • 正社員で2万2千円程度

  • アルバイトで1万2千円程度

であり、比較的手頃(?)な価格設定となっています

退職代行サービスは、従業員が直接上司や人事部門と対面せずに退職できる点が特徴です

本来、民法上では労働者には退職の自由が保障されており、原則として退職予定日の2週間前までに意思表示をすれば退職が可能です
※就業規則では1~2か月前の意思表示が一般的ではありますが、民法>就業規則

(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

民法627条より

しかし、実際の職場では様々な理由で退職の意思表示が困難なケースが存在し、
そうした状況を解決する手段として退職代行サービスが選択されているのが実情です

退職代行サービスの歴史と背景

退職代行サービスは、日本特有の労働環境から生まれた新しいビジネスモデルです

「退職は個人の権利!」と広く認識されている欧米諸国には類似サービスは存在しません

実際に、海外メディアからも注目を集めており、「社員が直接辞めたいと言えない日本の特殊性」として各国で報じられています

この背景には、日本特有の文化や雇用慣行があると考えられます

  1. 文化的要因

  • 和を重んじる文化

  • 直接的な対立を避ける傾向

  • 年功序列や終身雇用の影響

2.労働環境

  • 退職を引き留める企業文化の存在

  • 人間関係の複雑さ

  • 過度な帰属意識の要求

3.コミュニケーション

  • 本音と建前の文化

  • 直接的な意思表示を避ける傾向

個人的には物事を進める為には、トークストレートが必要という価値観です

現状の利用実態

マイナビの最新調査によると、直近1年間で退職した20代の約2割(5人に1人)が退職代行サービスを利用していることが明らかになっています

特に注目すべき点として以下が挙げられます

  • 利用者の年齢層:20代(60.9%)と30代(22.4%)で全体の8割以上を占める

  • 勤続年数:1年以内の退職が全体の75%を占める

  • 業種別:サービス業(12.5%)、製造業(12.1%)が上位を占め、医療関連(9.1%)や介護関連(6.1%)も目立つ

  • 退職理由:上司からのハラスメント(33.9%)が最多で、退職を止められることへの懸念(30.2%)が続く

特筆すべきは、新卒入社直後の利用も増加傾向にあることです・・・。
入社前の説明と実態の乖離や、職場の人間関係などが主な理由として挙げられています


最も多かったのは某人材派遣会社でなんと「64回」の利用があったとの事( ^ω^)・・・

退職代行は「正義」か「悪」か?

退職代行サービスの是非については、様々な立場から議論がなされています

肯定的な側面

  • 労働者の権利保護:退職の自由という基本的権利の行使を支援

  • メンタルヘルスの保護:直接的な対立を避けることでストレスを軽減

  • 問題の可視化:企業の労務管理や職場環境の課題を浮き彫りにする

否定的な側面

  • コミュニケーションの欠如:直接的な対話の機会が失われる

  • 企業文化への影響:安易な退職を助長する可能性

  • 根本的な問題解決の先送り:職場の本質的な課題が放置される恐れ

私見

個人的には「退職代行を使うのは甘え」とは思いません
実際にパワハラを筆頭とした様々なハラスメントが横行し、言葉を選ばずに言えば「酷い会社」はいくらでもあるからです
※他方、今後リファレンスチェックが王道化する可能性もある為、退職代行を使わないで済むのであればそれに越したことはないと思います

また、そもそも論で言えば「退職代行」が悪なのではなく、
「退職代行を使わざるを得ない企業、就業環境」が悪であると思います

罪を憎んで人を憎まずならぬ、ブラック企業を憎んで退職代行を憎まず


詰まるところ、裏を返せば、退職代行サービスの増加は、日本の労働環境が抱える構造的な問題を示唆しているとも捉えられます
文化的な部分は変える事が出来ない定数とすれば、変数である企業側がこれを契機に変化すべきなのです

その為、企業側に求められる対応としては

  1. オープンなコミュニケーション環境の整備

  2. ハラスメント対策の強化

  3. 適切な労務管理と働き方改革の推進

  4. 退職時の円滑な対応(オフボーディング)の整備

など、基本的な対応や仕組化は言わずもがなでありますし、
特に、「びっくり退職」を防ぐためには、定期的な1on1面談やキャリア相談の機会を設けるなど、従業員との対話を重視する姿勢が不可欠です

その為、企業は退職代行サービスの利用増加を単なる若者の忍耐力不足とみなすのではなく、
職場環境や組織文化を見直すきっかけ、チャンスとして捉える必要があります

それこそが、持続可能な成長を生む、組織づくりへの第一歩となるはずです!

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