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怨ませて下さい。

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誰かを怨みたい男の話。
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小説 怨ませて下さい。第六十三話

振り返り 彼は、梅園の前のベンチで、例の本を持った女性と会って、そして別れた。

私が、朝、園に着いた時、門のところに座る少年を見つけました。こんな朝早く、園の子供が、こんなところに座っているなんで、何かあったんじゃないかと思い、急いで、門のところにやってきました。

でもそこに運動座りをし、両膝を腕で抱え、膝にひたいを付けて寝ている少年は、園の子ではありませんでした。

私は、その子を残して、園

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小説 怨ませて下さい。第六十二話

振り返り ベンチに座り梅林を眺めていた彼の横に、見知らぬ女性が来て座った。カバンから何かを取り出し、そして彼女は、それを膝に置いた。それは、地縛霊になる方法だった。そして、彼女は、「弟を探しているんです。」と呟いた。

彼には、彼女の呟きがちゃんと届いていたが、そのまま沈黙を続けた。ベンチに座った彼らの前には、誰も通らず、ただただ風と時間だけが過ぎていった。

彼女が口を開いた。
「あそこの梅の木

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小説 怨ませて下さい。第六十一話

前回の振り返り 梅林のベンチの横に座った女性が、地縛霊になる方法という本を鞄から取り出し膝に置いた。

彼は、女性がひさに置いた本を見て、一瞬、キョトンとした。そして、小さく、「あっ」と言った。
彼女は、それに気づき、彼の方に向いた。
「これは、うちの近くにあったカバンの中に入っていたんですよ。」と彼女は言った。
彼は何も言わなかった。そして梅林をずっと見ていた。
彼女は、「実は、この本、探してい

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小説 怨ませて下さい。第六十話

前回の振り返り 彼は、そのとき、梅林の横にあるベンチに腰をかけていました。ぼんやりと梅を眺めているときに、道の先から女性が歩いてくるのが見えました。彼は、特に意識をせず、ただぼんやり梅を眺めていると、その女性は、彼の横に腰を下ろしました。

彼は、少し不思議に思ったものの、その辺りに座れる場所は、そのベンチしかなく、同じように梅を眺めにきて、少し休みたいと思うなら、まあ座ることもあるのかなと考えま

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小説 怨ませて下さい。第五十九話

前回の振り返り 彼女は、父親が拾ってきていたカバンにあった携帯から、持ち主の自宅に電話をかけた。少年が電話を取り、カバンの持ち主と思われる男性は、今、会社に行っていると言った。

季節は春になっていた。彼は、梅林にいた。それは、梅で有名な寺の境内にあった。彼は、初めてそこを訪れたが、なぜか懐かしい感じがした。

彼は、年末で仕事を辞めていた。そして、それから2月を過ぎようとしていた。彼は、幾らかで

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小説 怨ませて下さい。第六十話

前回の振り返り 彼は、地縛霊に会う旅に出た後、2週間行方不明になっていた。2週間後、彼は電車の中で目を覚ました。

彼が目覚めた電車は、終電の電車だった。そして、そこから彼の家に向かう電車は、すでに終わっていた。

彼は、改札に向かいながら、財布はないかとズボンとスーツのポケットを探り、スーツの左のポケットに財布があることに気がついた。

彼は、いつも切符を財布に入れていたので、財布の中にそれを見

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小説 怨ませて下さい。第五十九話

前回の振り返り 彼女は、カバンにあった携帯電話を使って、持ち主の自宅に電話した。

彼は、その日、いつものように19時に仕事を終えて、ジムに向かった。最近、格安の24時間ジムに加入した彼は、毎日会社の帰りに少し遠回りをしてジムに寄ってから帰ることを日課にしていた。

地縛霊になる方法を無くしてからというもの、それまで何かに取り憑かれていたような日々から解放されたような気がした。彼は、家に戻ってから

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小説 怨ませて下さい。第五十八話

前回の振り返り 彼女は、カバンに入っていた携帯で、持ち主の自宅に電話をかけてみた。

彼女は、すぐに、返事ができなかった。電話の向こうでは、少年と思しき声が、名前を告げていた。彼女は、震える小さな声で、「ごめんなさい。実は、家の近くにカバンの置き忘れがあって、もし持ち主が探していると困るからと思い、カバンの中にあった携帯で、ご自宅に電話しました。」と伝えた。
少年は、少し間があって、「あっ。わかり

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小説 怨ませて下さい。第五十七話

前回の振り返り 彼女は、カバンの中にあった携帯を充電しながら、それを残して、リビングに行き、父親と行方不明の弟のことについて話をした。

彼女は、父親と30分ほど話とした後、自分の部屋に戻った。弟の部屋に行って携帯を確認しようかとも思ったのだが、久しぶりにビールを飲んで、少し眠たくなっていたこともあり、そのまま自室の戻って眠った。

朝起きて、彼女は、弟の部屋に行き、出したままのカバンの中身をしま

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小説 怨ませて下さい。第五十六話

前回の振り返り 彼女は、父親が持って帰ってきていたカバンの中身を出してみた。その中に、地縛霊になる方法が入っていることに気がつく。持ち主を特定するため、携帯電話に電源を入れた。

携帯電話は充電中のサインが出ていた。彼女は、それを確認すると、父親と一緒にリビングに向かった。

母親は自室にもどっていて、リビングには父親と彼女しかいなかった。

父親は、突然 「あの子がいなくなってから何年経つかな〜

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小説 怨ませて下さい。第五十五話

前回の振り返り 父親が拾ってきた鞄を開けてみる。中にあったノートに、例の本のタイトルが書かれていることを発見する。

彼女は、ノートを置き、その横に置いてあった黒い表紙の本を裏返してみた。そこには、地縛霊になる方法というタイトルが書かれていた。

彼女は、店主が言っていたことを思い出しながら、その本を手に取った。
「これを触ると地縛霊が見えるんだっけ?」

彼女は、その本を持ちながら、弟の部屋の中

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小説 怨ませて下さい。第五十四話

前回の振り返り 実家にお正月に戻った時に、カバンがまだ弟の部屋にあることに気がつく。父親に、それについて尋ねるが、父親からは曖昧な返事が返ってきた。

彼女は、弟の部屋に行き、カバンの中身を見てみることにした。カバンには埃が積もっていた。母親も、掃除の時にカバンには手をつけていなかったのだろう。カバンのチャックを開けて中を見ると、数冊の本とノート、携帯電話、パソコンが入っていた。本は、黒い表紙の本

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小説 怨ませて下さい。第五十三話

前回の振り返り 古書店で、地縛霊になる方法の本に触ると地縛霊が実際に見えるという話を聞く。

彼女は、家に戻って、地縛霊になる方法を検索してみた。古書店以外でも、その本を売っているところがあるのではないかと思ったからだ。しかしそれを見つけることはできなかった。
翌日、彼女は、同僚に地縛霊になる方法を買った人が行方不明になっていることを伝えた。それを売っていた古書店に親族と思われる人が探しに来たとい

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小説 怨ませて下さい。第五十二話

前回の振り返り 例の本を売っていた古書店に立ち寄った彼女は、店主から例の本を買った人が行方不明になっていることを聞いた。

彼女は、その本に触ると、地縛霊が見えると言う噂があることを店主に伝えた。店主が、以前、行方不明の男性が、本を買った後に訪ねてきたことがあった。「ここだけの話だけど、その時、その本に触れて、その男性の後ろに小太りのハゲた中年の男性が立っているのを見た」と店主は言った。
「でも、

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