小説 怨ませて下さい。第五十六話
前回の振り返り 彼女は、父親が持って帰ってきていたカバンの中身を出してみた。その中に、地縛霊になる方法が入っていることに気がつく。持ち主を特定するため、携帯電話に電源を入れた。
携帯電話は充電中のサインが出ていた。彼女は、それを確認すると、父親と一緒にリビングに向かった。
母親は自室にもどっていて、リビングには父親と彼女しかいなかった。
父親は、突然 「あの子がいなくなってから何年経つかな〜。どこかで生きていたら、もう20代後半で、何か仕事もしているだろうな。」と言った。
彼女は、それを聞き流し、カバンの持ち主のことを考えていた。
父親は、「そう思わんか?」と彼女に尋ねた。
彼女は、我に帰り「何?」と父親に言った。
父親は「お前の弟のことだよ。今はどこで何をしているのか。」
彼女は、「そうね。もう随分経つしね。いくら探しても見つからなかったし、生きてくれていたら、それだけでいいかな。」と言った。
父親は、悲しい目をして彼女を一瞥した後、自分の手を見ながら言った。
「おれは、毎日、朝晩あの子の帽子が見つかった森には通った。今も毎日行っている。そして毎回、あの子の名前を呼んでいる。まだ帰ってくる気がしているんだよ。理由はわからないけど、どこかで生きていて、ふらっと帰ってきてくれるんじゃないかと。」
彼女は、「そうだといいね。」といいながら、席を立った。
台所から「何か飲む?」と彼女の声が聞こえた。
父親は「冷蔵庫にビールがあったかな。」と答えた。
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