居酒屋・パブ業態の衰退から考える外食の近未来
未曽有の自然災害。未経験の疫病が従来の常識や価値に大きな変化を与える。変化を与えられる物事は今、不自由であったり苦境に立たされている物事である。
その一つが飲食業の居酒屋・パブ業態。
以前からアルコール離れ、会社の飲ミュニケーション回避、働き方改革による残業時間減少などの煽りを受け、外食産業市場の中でも年々5~10%の下落傾向であった上に、夜間活動の自粛、3密回避の働きかけで、特に都市部の駅前繁華街、特にオフィスワーカーが多いエリアは壊滅状態。聞くところによると前年比30%減はマシなほうで50%減も珍しくない。
一方、市場全体の下落の中、ファストフードを中心に食事性の高い業態、テイクアウト可能な業態は気を吐き善戦の様子。これが物語るのは外食とは、食事はすれど飲むことは必要度が低いという事。
そもそも、外食は内食の“食材を買ってくる・料理を作る・食器を片づける、3つの煩わしさ”から解放されるために原材料の約3倍のお金を払って利用していたこと。そこに中食の台頭で“料理を作る・食器を片付ける”という原材料の約2倍のお金を払って利用出来る状態となっている。
※内中外食定義は下記をご覧ください
テイクアウトとはここで言う中食と同様の事であるので、外食として存在していた店は、お客が苦戦する飲食店救済の思いで足を運ぼうも、長期化に於いては悲しいかな足を運ぶ煩わしさや価格の面で利用頻度は高まらない。
お伝えしたいことは、これを機にお客は外食=食事性を強く求めるという事。専門的な表現をすると、FD比(Food and Drink比:客単価に占める食べ物と飲み物の売上比率)のF比が80%以上の業態が求められると言う事。但し、低単価ゾーンは既存の猛者達が既に市場をおさえているため、今更参入しようも勝ち目は無い。
FD比50:50~60:40の居酒屋・パブ業態は日本特有の外食文化であるが、産業としては時代背景柄、衰退は先述通りである。事実、街で目にする光景は、従来チェーン居酒屋が大規模の席数や大宴会場を抱えていたが壊滅し、店名を変えたり、店舗規模を分割縮小し2業態に変更するなりしている。
因みに、“業態”は感覚的に語られることが多く、持論では大別すると5つとなる。感覚的な最たる例が“焼鳥屋”である。一般的に焼鳥屋は“専門店”と思われているが、専門的にはFD比50:50~60:40の“居酒屋業態”である。小型で古くから存在しているような店は低客単価(2,000円以内)で、焼鳥以外にも豊富なサイドメニューがある店は中客単価(2,000~5,000円)で、予約必須でワインを片手に、と言った店は高客単価(5,000円以上)となり、店舗デザインやメニューコンセプトは様々である。また、ファストフードやファミリーレストランは“低客単価の専門店”で料理コンセプトが異なるだけ、となる。
※業態分別(5分別)に関する詳しい定義は下記をご覧ください
F比を高めるという事は、料理に関する専門性を高めるという事。更に言うと、料理の“知識”と“技術”を高めるという事。具体的例で言うと以下の通り。
知識とは、話す・書き出す事
・食材の目利き
・食材の下処理方法
・仕込み手順
・食材保存方法
・調理手順
・盛り付け方法
・提供方法
・道具手入れ方法
技術とは、動作にする事
・包丁さばき
・魚さばき
・フライパンの使い方
・串の打ち方
・包丁の研ぎ方
外食に求められるのは、家で出来のいい調味料や半製品を使って作る料理以上の価値、スーパーやコンビニの惣菜で食べれる料理以上の価値という事になる。外食店として生き残る為には、料理の専門性は必要不可欠になった。しかも、チェーン店とは圧倒的に異なる違いをお客に認識してもらうレベルも備えてである。
料理の専門性をどこで提供するのか?が次の着目点である。それは必ずしも繁華街や人口集積地に“店を出す”と言う事が必要なのか?という従来の当たり前をリセットする事である。欧米では珍しくはない出張シェフ(=指定場所に料理人が来てくれて料理を作ってくれる)も“プライムシェフ”と言う“ブランド名で実在している。
もう一つは宅配。先行してピザ・寿司・とんかつ等の業態が存在する。これらはキッチンが何処にあろうとも構わない。最近ではキッチンカー(北米ではフードトラックと言う)の需要が高まっている。
※参考記事:Forbes JAPAN「オフィス街のフードトラックが示す、モビリティサービスの可能性」
料理の専門性や値ごろ感を捉えるには郊外のスーパーマーケットではなくデパ地下の総菜売り場に行く必要がある。行けば分かるが、既に外食ブランドがその専門性を引っ提げて何店舗か存在している。逆に言うと、デパ地下に入っているブランドは専門性を認識されているという事になる。そこで売られている物の種類や単価を注視し把握する必要がある。
お客目線では“キッチハイク”という新たなサービスが提供されており、お客がにわかプロ料理人として腕を振る舞っている時代感であることも忘れてはならない。
これら以上に声を大にしてお伝えしたいのは、D比の高い業態を長年経験している人にとっての当たり前である“夜稼ぐ”という事と“昼・夜別々のメニュー”という2つの常識もリセットする事である。ファストフード・ファミレス・専門店は稼ぐ時間は昼夜大きく変わらず、昼の方が高い事も普通の事である。
これまでを整理すると、
・料理の高い専門性
・料理を作る場所、時間帯
・料理を提供する方法、場所
これらを既成概念にとらわれず、ゼロベースで考える必要がある。
その前提に加え、スマホの発達と普及によって“個の時代”が加速していると言われるが、それを外食に置き換えると、私は「料理人の“個”の時代」と解釈する。それは、従来“店”が主体であったのが、店ではなく、料理を作る“料理人”が店に変わってスポットが当たり評価され、その人となりが前面に出る事が必要であり、求められている。端的に言えば料理の専門性の最大の説得材料は味や盛り付けや食材ではなく、どんな料理人が作ったのか?を示す事。
Foodtech(フードテック)なる言葉が言われて久しい。それを外食で考えればグルメサイトに留まらず、先述の様な全く新しい価値や消費行動が更に創出されるのも時間の問題と考える。その中でも求められる事、必要な事は料理人の個性とその人が持つ専門性であると思って止まない。
今回の疫病は悲観的にならざるを得ない。しかし誰もが同じ環境であるのは事実。ダーウィンの名言、「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最もよく適応したものである」。これに学ぶのであれば、店を失おうとも、それは敗北や退却ではなく変化への適応である。言い換えれば、次の時代に必要とされる物事をどんな形で表現するかを考える時間が与えられたと言える。それが私なりに思うところを長々と述べてきた。あなたの未来の一助になれば光栄です。
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