泡坂妻夫「亜愛一郎の狼狽」
愛すべき探偵役、亜愛一郎初登場の短編集。
八編どれも仕掛けがたくさん配置されていて、キレ味抜群の伏線回収が連続していく推理は見事です。
この亜愛一郎の身なりはいつでも綺麗に整っていて、背が高く端正な顔立ちをしている。しかし運動神経はまるで駄目で傘も扱えない不器用。
いつものとぼけた会話や柔和な印象から軽く見られるが彼の推理を聞いた人は一目置くことになる。
そして読者は毎回この亜愛一郎に早く登場してきてもらいたくなる。そんなミステリ小説です。
ネタバレありの感想を書きますので、未読の方は読んでから見てください。
八編のなかから厳選して感想を書きます。
「右腕山上空」
熱気球に乗った男が上空で殺される。空中の密室ともいえる。
密室が破れる部分はただ多目に積んだ荷物に小柄な男が紛れただけである。しかし二人乗りの計画を考えたのは被害者で、経験者であるバスト浅野(犯人)に操縦を任せるズボラをしたかった。ただの論理の抜け穴をつくだけでなく、話のなかに上手く隠してある。
普通では二人で乗るなんて変な話に思えるが、ヒップはなぜ自信過剰のまま気球に乗ったのかを推理すると見えてくるだろう。
「掘り出された童話」
暗号ミステリだがそこが特段優れている訳じゃないと思う。
流れるようなストーリー展開。頑固爺が"託寿"なんて言い出した理由。髑髏のからくり。神社の宝探し。呪いをかけてくる骨と斧。手縒と池銃の死。
亜と一荷のコンビが面白く一気に読み切ってしまう物語だった。
「ホロボの神」
その昔、未開民族の酋長が自殺した経緯はどうも不自然だという。その男は妻が死んでいる祠に入り死体に近づいて銃自殺していた。
自殺した理由は原浜軍曹が酋長に妻を生き返らせる方法を教えたから。妻の手に銃を握らせ自分の額に向けて引き金を引くと、魔術のように生き返る、その為にホロボの神という宝石と拳銃を交換しようといった。
未開の民族から見れば日本兵の彼らは発達した文明人ではなく魔術師にしか見えなかったのだ。
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