
フォーエバー、みさきまぐろきっぷ旅行①【昼食編】 秋豆絹
昨年11月某日(平日)。
私は神奈川県の三崎口駅に向かう電車に乗っていた。
途中で友人が乗り合わせる。以前私を茶摘みへといざなった彼女である。
この日私は、旅行好きの彼女が教えてくれた「みさきまぐろきっぷ」で日帰り旅行をするのだ。
(簡潔に言うと、「みさきまぐろきっぷ」は特定の区間の「電車&バス乗車券」・まぐろ料理1食が堪能できる「まぐろまんぷく券」・おみやげやカフェ、アクティビティの利用が可能な「三浦・三崎おもひで券」がセットになったお得なパックである。)
私は東京方面から神奈川に向かう電車の雰囲気がとても好きである。特に京急線はボックス席があったり、車内も少しレトロな趣があったりと、旅行でなくても旅に出ているかのような高揚感が全身を包んでくれるのだ。

私たちはコトコト揺られながら、どのまぐろ料理を戴くか考え始めた。
「みさきまぐろきっぷ」のまぐろまんぷく券は、提携先の一店舗につき一定食を選ぶことができ、特設サイトにそのメニューが載っている。
ただこれが……かなりの数あるのだ。
スクロールすれども美味しそうなまぐろ丼、美味しそうなまぐろ丼、美味しそうな刺身定食、美味しそうなまぐろ丼ばかりなのだ。
この中から一つに絞らないといけないのか?
「全部食べられるようにしてくれよ…。」
素晴らしい旅行パックのはずなのにその根底を覆しにかかろうとしている自分がいた。
考えあぐねているうちに、降車駅が目の前に迫ってきていた。私たちはなんとか一つを選び抜いて駅を降りることが出来た。
今日は晴天だ。
ホームに降りると早速まぐろの洗礼を受けた。

駅舎を出ると目の前にあったのが港だった。
とてつもない爽快感。視界に普段ではお目にかかることのない海が広がっている。都心から1時間ほどで来れる場所とは思えないほど、都会の喧騒から解放された空気をひしひしと感じた。
時間はお昼時。当たり前のことを言うが、お昼ご飯を食べるにはもってこいのタイミングである。
そんな私たちが選んだのは、庄和丸さんのみさきまぐろ御膳だった。
海鮮丼もとても惹かれたのだが、丼は無意識のうちにペロッと平らげてしまう可能性が大いにある。また今回はまぐろを余すことなく食べつくしたいという気持ちから、こちらの御膳を選んだのだった。
さらに、この御膳は一味違う。
なんとまぐろの唐揚げも付いてくるのだ。
「生だけでなく揚げも…!広がりを持った美味しいの可能性をこの舌に…!」
と、若干変態になりながらお店に到着した。
広々としたお座敷に通していただき、きっぷの券面を店員さんに提示した。
すると、からっとした笑顔で「少々お待ちくださいね!」と声をかけてくれ、厨房へと戻っていった。
HPでメニューの写真は見ているものの、どんなものが来るのか少し緊張していた。お見合いの席で初心な顔をしている人もこんな気持ちなのだろうか。
隣の席の方々が食べている定食がとても美味しそうだね、という話をしながら待つこと数分。隣の人が食べているとても美味しそうな定食と同じものが私たちのもとに運ばれた。

美しい…。お刺身がこんなにも美しく輝いている…。トロと赤身のコントラストに惚れ惚れし、今日ここに来られたことにすでに感謝の念が生まれていた。
全く血なまぐささを感じさせない赤身と、上品な脂が口の中で溶けていくトロ。ジューシーでありながら軽やかさのあるまぐろの唐揚げ。脳が覚めるような磯の香りと出汁が効いたあおさのお味噌汁、などなど…。とても筆舌しがたいこの世の幸せの形が、私の味覚を満たしていったのだった。
途中途中、我を忘れて本能のままに喰らってしまうお互いの頬をひっぱたき合いながら、まぐろの美味しさを充分に味わうことが出来た。この時点で既にまたここに来たいと思っている自分がいる。
この時点でまだ13時過ぎ。私たちは港のさらに奥、城ヶ島まで向かうことにした。
<続く>