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メトロンズ 『ミスタースポットライト』

大好きな作品です。

このご時世になってから遠のいていた劇場。1年8ヶ月ぶりに足を運んだのは遠く離れた東京で、しかも今まで見ていた純粋なお笑いライブではなく、コントと演劇の中間のような新しいもの。

ネタバレになるのでずっと下書きに保存していたけれど、配信終了から結構経ったので、もう良いかなと思って、そっと公開します。

読むだけのアカウントだったはずなのに、書くほどに気持ちが突き動かされた作品です。
終わってしまうのが切なくて、先に買っておいた配信を帰りの新幹線で見ながら、生で見て印象的だったシーンやセリフをメモしました。

これは、そのメモをもとにした備忘録です。解釈は間違っているかもしれないけれど、あくまで自分が感じたことです。

【追記】
2022年1月1日よりメトロンズYouTubeで見られるようになりました。優しい…

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メトロンズ第2回公演
「ミスタースポットライト」
2021/10/06(水)~10/10(日)
赤坂RED/THEATER

舞台のセット

劇場に着いて、まず心が掴まれたのが舞台のセット。
事前情報がタイトルとポスター写真しかなく、「スポットライト」なんて言葉から、漠然と煌びやかだったりするんだろうかと思っていたところ、目に飛び込んできたのは薄汚れた地下室。
もう既にこの世界観が好きだなと思いつつ、ここからどうやって「ミスタースポットライト」に繋がるのだろうとワクワクしながら開演を待つ。

開演

舞台上にはストーリーテラーの原田。思ってたのと違うぞと早くも2度目の裏切りに、これは一瞬たりとも目を離してはいけないなと、早速舞台に釘付け。
普段と違う丸メガネに度は入ってるのだろうかとか、思ってたより関町さんって背が高いな、など本編に関係ないことまで考えてしまう。

陽気なショーを繰り広げた原田の退出とともに、強盗3人と人質3人が舞台の地下室に集まり、いよいよ物語が始まる。
舞台上にはドアが2つあるからそこから出てくるのかと思ったら排気口からの登場。ただのオブジェかと思っていたので「そっち!?」と心の中で呟く。

登場時に排気口の金網を床に落としたり、強盗たちの荒い足音や地面の段差を蹴ったりした時の振動が客席に伝わる度に、生の舞台の良さだなとしみじみする。

キャラクター

物語が進み、『強盗3人(高橋、大島、東山)、タレント、無職、医者』それぞれのキャラクターが少しずつ見えてくる。
リーダーの立ち位置だけど、よく聞いてると「大島の言う通りだ」「田辺さんどうしてくれるんだ」と自分では何も決めない高橋(池田さん)。タレントに対して以外は冷静な思考の大島(田所さん)と、単純で忘れっぽい東山(赤羽さん)。
助かるためにと大人しくしているタレント(児玉さん)に、関西弁で言うところの「いらんこと言い」の無職(関町さん)、喋れないし逃げられないし(おまけに出しゃばったら殴られるし)で全部がうまくいかない医者(村上さん)。

赤羽さんが演じた東山のキャラは、前作で赤羽さんが演じた木戸先生に似てるなと感じて、もしかして当て書きなのかなと推測したり。
あと、東山はチームのことを「ティーム」、無限大のことを「インフィニティ」と言っていたのも気になるポイントだった。帰国子女の設定でもついてるんだろうか。

『マジで何なんだよタレントパワーってよ!』

タレントと無職どちらの命を取るかで強盗たちがモメるシーンでの、大島のセリフより。
この作品で1番共感した。

正しいことを言っていたのは大島だけど、東山の考えも大いにわかるし、きっと自分なら大島の言う(タレントを殺せないのは)ただタレントっていう『だけ』な気がする」ということは重々理解しながら、東山の行動を取ってしまうだろうなと苦しくなって、結局「タレントパワーってなんなんだよ」と考えさせられる。

命の重さは平等。そんなことは分かっているけれど、いざその命を天秤にかけると、タレントパワーが作用して傾いてしまう。
タレントの存在を知らなかった無職・彼のせいで命を落としかけた大島・そして張本人のタレントたちには作用せず、タレントのファンである東山・高橋には作用したところが、この後出てくる「タレントパワーは周りが作り出すもの」という無職のセリフに説得力を持たせたと思う。

ただ、一旦はそれで理解したものの、後半のラジオのシーンでタレントが持つ才能を垣間見せられて覆された。やっぱりタレントは何もないわけでなく、タレントパワーを作り出してくれる人の、心を奪える魅力がある。

このセリフを書いたのも言っているのも、この舞台をイチから作り上げたのも、タレントであるメトロンズメンバーだという所もよく効いてるなと思った。
無職の言う「誰でもタレントになれる」が本当だとして、誰でもこのメトロンズの舞台が作れるかと言われれば難しい。こんなに夢中になれるのはやっぱり彼らには人を惹きつける力があるからだ。

キーワードでもある「タレントパワー」。
結局はタレントが持っているんじゃないかと思う。でもタレントが持ってるのはあくまで種の状態で、それを周囲の人やファンが各々の中で育てている。だから人によって感じる大きさが違うんじゃないだろうか。

ラジオと「渚のトワイライト」

最も、いろんな感情に揺さぶられたシーン。

大島に銃を突きつけられた状態で、タレントが生放送のラジオに電話出演をし始める。
スポットライトがタレントのみに当たり、
タレントはゆっくり息を整えながら手をおろして、パーソナリティの「梅ちゃん、聞こえる?」の質問に、本当にほんの少しの間を開けてから「聞こえてるよ!うるせえな、喋らせろよ!」と明るく返答。
まるで何も起きてないかのように。

この「間」にすごく緊張した。
互いが銃を向け合い、誰かの衝動で命が簡単に消されてしまうリスクを全員が負っている、そんな張り詰めた空気感から、通常通りの世界へスイッチが即座に切り替わった感じがした。

何を言うのか、どんなテンションで挑むのか、緊張しながら迎えたこのセリフ。
最初はいきなりの明るい口調に驚いたが、気がつけば「タレント・梅本徹」のやりとりに魅了されていた。

そして、「渚のトワイライト」の曲が流れると、再び強盗たちが動き始める。
「家族」である大島に銃を向ける高橋、「わかってるよ!」と連呼しつつも引金を引けない大島、そして「仲間に銃を向ける高橋がおかしい」と筋の通った正論を主張する東山。3人共これまでとは違った行動・言動に出るようになる。

特に葛藤している大島と、その側で小刻みに震えるタレントが印象的で釘付けになって見ていた。
一つ、後悔が残るとしたら。この時の無職がどんな表情で強盗たちのやりとりを見てたのか、チェックしておけばよかった。

曲とラジオが終わり、
じわじわとタレントは手を挙げ、
大島はじわじわと銃を持つ手を下げ、
スポットライトから暗めの全体照明に変わり、
大島が涙を流しながら感想を述べ、
徐々に柔らかな色の照明になり、
強盗と医者が楽しくラジオの感想を述べあい、
そして、タレントはとある決意をする。

状況や心境が目まぐるしく変わっていく中で思い起こされるのが、タレントが言っていた曲紹介時のセリフ。

「色んな思いを抱えた人たちに、そっと寄り添うナンバーです」

曲のあと、涙した大島をはじめとする強盗たちと医者、バラバラだった彼らは徐々に一つになっていったし、
何より、「タレント・梅本徹」に違和感を感じていたタレント自身の「生き方」への考えが変わった。
「渚のトワイライト」は見事に登場人物みんなを包み込んだし、タレント自身が1番この曲に強く寄り添い、背中を押されていたんだなと思った。

余談しては、ラジオシーンでいじられているタレントの返しのテンポの良さが本当に心地よくて、本当に平日昼間ののほほんとしたAMラジオを聞いてるみたいだった。
あと、「あとは寝るだけの時間」で1人だけ別室にいる時にいじられてる児玉さんってこんな感じで放送してるのかなと、後から配信を見て思ったり。

それから、「渚のトワイライト」、歌詞もしっかり聞いてみたかったな

衣装の色

これはもう本当にただの考えすぎかもしれない。

梅本は自分よりタレントという職業に向いている人として、無職の名をあげる。
「他人の評価を気にして生きてきたけれど、今後は自分がなりたい自分で生きていきたい」と、
そして「無職は大抵の人にはないものを持っている」と告げて、彼を推薦する。

そんな梅本のシャツの色はピンク。推薦された無職のシャツの色は黄色
「ピンクから黄色へ」という流れが、メトロンズ公演のポスターと同じだと思った。

偶然かも知らないけれど、
もし、意識的なものだとしたら。

「人の目を気にして本来とは違う自分」を生きていたタレントから、「素のままで自分の思いのまま、ポテンシャルが評価された」無職へと変化したように、
第1回公演に比べて、第2回公演の方が、よりメトロンズが自分たちの色を出して、自分たちのやりたいことで勝負に出ていることを隠喩的に示しているのかなと感じたり

自分がメトロンズを見始めたのが第1回の「副担任会議」からで、それ以前の作品はYouTubeで追いかけたのみなので、メトロンズらしさがどうのこうの、みたいなことは偉そうには言えないけど、
「副担任会議」よりも、今回の「ミスタースポットライト」の方が、これまでの作品(特に「MILLION $ TICKET」)に世界観が似てるような気がして。
また、事前放送のラジオ「ハーフタイムミーティング」でも誰かが「今回の方が台詞覚えもいいし、みんな乗ってる気がする」と仰っていたので、前作よりも今作みたいなものがメンバーの皆さんもお好きなのかなぁと漠然と思ったりした。

私は今作のようなものをずっと見ていたいし、もっと作品にメトロンズの個性が出てほしいと思う次第です。
やっぱりご本人たちがやりたいと思うものを見ていたい。

その他に思ったこと

•「仲間」と「家族」
強盗3人たちが自分たちのことを「仲間」とも「家族」とも表現していて違いはなんなんだろうなと。
アーカイブ見返して思ったのは、大島のセリフに「いいか、家族ってのはお互いの命を大切にするもんなんだよ」と言う一文があるので、命に関する話の時は「家族」なのかと言う自分なりの結論に落ち着く。

•頭ポンポン
タレントを撃つのを高橋が請け負った時の高橋から大島。
揉め事は強盗3人で解決しろと託した時のタレントから高橋。
「託す」行為の時の動きだなとまでは分かったけれど、前者は「託された側」後者は「託した側」がポンポンしていて、メッセージ的には真逆だよなと。結局どういう意味があったのかは今も不明。でもいいシーンだなと思ったので深く考えるのはやめます。

【追記】
タレントから高橋へのポンポンについて。
「自分がタレントを撃つ」と大島に宣言した時の「仲間のために自分から動いた頼もしさ」を思い出せ、という意味が込められているのかなと思った。あの時のように、チーム優先で考えるんだぞ、と。

•医者の存在
最後まで名前も明かされないし、ずっと謎な存在。一番スポットライトが当たらなかったのも彼。
でもよく考えれば6人の中では一番安定した職に着いてるし、これまでも平凡ながら順風満帆な人生だったんだろうなと。
一番一般人に立場が似てるのも彼。そんな彼がなかなか前に出ないし(出ても失敗するし)、脚光も浴びられない。だけど最後にはちゃんと見せ場が来る
自分を重ね合わせやすいキャラだからこそ、最後は「よかったね…」と言いたくなったし、他人を羨んだりもするけれど、いつかは誰もがスポットが当たる時がやってくるんだなと強く思えたりもした。

個人的にツボだったセリフ

無職「ああ。まただあ、すいません」

つい余計なことことを口走って怒られたときのセリフ。言い方が好きだった。ああ、この人いつも怒られてたけど直せないんだろなあ…って普段の彼が見えた気がした。

高橋「何で世の中の人が強盗しないかわかるか?
失敗するリスクがあるからだよ」

あ、そっか。自分からしたら「なんで強盗するんだろう」だけど、強盗犯からしたら「なんで皆強盗しないんだろう」なんだなと。新しい視点だった。

医者「すいません、そうでした、すいません、はい」

高橋に殴られた後のセリフ。「そうでした」って何だよって笑ってしまった。
今じゃないって分かってるのにタイミングを見誤って痛い目に遭う。経験があるのは彼と自分だけじゃないはず。

高橋「バチバチ話し合うのはたまにはいいね」

これ、副担任会議でも似たようなこと言ってたなと。話し合いが白熱するほど一体感ある、みたいな。
メトロンズの作品って最初はギスギスした6人が徐々に一体化していくことが多いなと思った。見ていて心地いいのはそう言うとこもあるのかな。

高橋「お前らはまだ綺麗すぎる。
元々汚ねえ俺が汚れりゃ目立たねえだろう」

セリフがいいし、池田さんぽいなと。話し方も含めて。
言われた大島•東山も強盗だから決して綺麗じゃないんだけど。

高橋「CMの洗剤も使わせてもらってます」

そうか、強盗も普段はテレビ見るし食器も洗うんだなって思わされた。
こういう、シーン外でのそれぞれのバックボーンが見えるのが好き。

タレント「アクションっ」

これも言い方が好き。なんかお茶目な感じがして。これまでの強盗たちへの畏怖の気持ちが完全に消えたんだなとわかった。

大島「よくねーよ!!でもお前ら俺の話聞かねえだろ!」

先述の通り、大島って正論言ってんのに意見通らないよなあと思っていたら。
なんか普段もこう言いたくなることがよくあるなと個人的に思った。いつか会社でいきなりこのセリフ言ってしまいそう。

高橋「お前苦労したことねえんだよ。苦労したことねえと苦労がどれだけ辛いかわかんねえから、軽はずみに「簡単に」とか言えちまうんだよ」


シンプルに、自分ってまだまだコレだなと。
他人の悩みに「簡単に」なんて言ってしまいそうになるけど、ということは自分が今しんどいと思ってることはちっぽけで些細なんだよなと思った。まだまだだなあ。

東山「高橋さんおかしいよ!仲間に銃向けてまでタレントさん生かそうとしてるじゃないですか!」
東山「俺たちは家族だろ、家族が1番じゃねえのかよ!」

シーンの良さもあってすごく心に刺さった言葉。
話は覚えていない、理解は遅い、うっかり高橋にタメ口きいちゃう。そんな東山が言うからこそ尚更。

タレント「だから私は今日でタレントさんを辞める」

これまでは「タレント」と言っていた彼が初めて「タレントさん」と他人行儀な表現で自分の職業を言う。細かいけど、この2文字で本当に辞めるんだなあって、より実感できる気がした。
後、タレントがこの話をしてる時の、無職の興味なさそうな表情もなんとも言えず好きだった。

原田「それではみなさん良い週末を!シーユーネクストウィーク!バイバイ!!」

元無職 現タレントの原田のセリフ。見に行ったのが土曜日12:00の部だったので「既に皆さんのお陰で良い週末のスタート切れてますよ…」と感謝の意でいっぱいに。余韻もあって本当に良い週末だったのは言うまでもなく。
この場面で「もうそろそろ時間だ」と腕時計を見る描写があるけれど、その時計で彼がタレントとして成功したという暗示をしてるんだろうかと勘ぐったりもした。

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…長すぎました。
大学時代によく出された、作品分析系のレポートを彷彿としてしまったくらいです。

メトロンズ公演、次回は2022年5月だそうです。
地方住みだし、ご時世もあるので、現地で観れるかはわからないけれど、今からまた劇場にいけるように祈っておこうと思います。
行けても行けなくても、オンラインは絶対買います。(配信あれば。お願いします。)

現行通りなら次回もオンラインは800円と2000円。
1週間、いつものランチを100円節約するだけで観れます。
ぜひ、観てみてください。800円しか払ってないことを申し訳ないと思うくらいの衝撃が走ります。
少なくとも半年以上は没頭して追いかけられる好きなものができます。

4月の自分がそうだったように。

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