メトロンズ『店出す』
初めて公演を見に劇場に行ったのも10月でした。あれから早3年。どんどん目が離せなくなっていくメトロンズ。
今回も、東京に宿泊して初週の土曜2公演と日曜の公演を観劇し、千穐楽後のアーカイブを観ながら書いたメモを基に、備忘録兼感想文として記入していきます。
今回は2週間公演のためか、配信が千穐楽後のみでした。
観劇から1週間以上経ってからアーカイブを見ることになり、どれくらい観劇時の感想を覚えてるのか不安だったのですが、意外としっかり覚えていました。それくらい印象が強かった作品ということなのでしょうか。
今回もセットの撮影がOKだったのもありがたかったです。
撮影する時に改めてセットをじっくり見ることができて、改めてディティールの細かさに感服するばかりです。
埃っぽさとか、毎日動かしたり触ったりする状況の中でどうやって出してるのでしょう。
(12/22追記)
今回もありがたいことにYouTubeにて全編公開。
ひとつ見ると他のやつも見返したくなってくるので、過去作が全て残っているのは本当にありがたいです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
メトロンズ第7回公演
「店出す」
2024/10/17(木)~10/27(日)
赤坂RED/THEATER
登場人物・あらすじ
今作はタイトル通り、店を出す男の話。
店を出すのは中西(田所さん)。
「店(飲食店)を出す」ということは決まっているが、店の詳細などは何も決めておらず、自分の中で明確なビジョンや軸もなし。
自分の意見はない割に、対立する川元と大倉の2案のうち、川元の案が採用されそうになると、大倉のことを気遣って言葉の端切れが悪くなる。2案がどっちつかずになってしまうのは彼が案を決めきれないことが原因であるが、その理由は「気を遣いすぎる性格だから」というのもあるように思う。
そんな中西の中学の同級生が川元(関町さん)と大倉(児玉さん)。
冒頭で中西が出そうとしていた「素朴」というアイディアを提案したのが川元。この物語が始まるよりも前の時点で「素朴」と「中西が川元と一緒に店出すこと」は決まっていた。
本音をガツンと言えなかったり、オブラートに包むような物言いから、彼も穏やかで気を遣う性格のようだった。
中西と川元の間には穏やかな空気感が流れていて、ずっと変わらずこの関係で中学からやってきたんだろうなという感じだった。
中西も川元も少し不器用で冴えない感じがしたけれど、背伸びすることなく自分なりの広さの世界で十分楽しんでいるようだった。
一方の大倉は彼らの中学の同級生ではあるが、川元とは違い、卒業以来交流がなく(在学中もそこまで親しいわけではなく)、中西が店を出すタイミングで突然現れた人物。
彼が持ち出したアイディアは「炭坑」。他にもトロッコにコーヒー豆を入れて渡す、映画を流す、などアイディアは豊富に出る上に、それらはかなり具体的で想像しやすく洒落ている。おまけに川元と違って自分の意見を強く言えるタイプでかなり頑固なため、今回の物語を盛大にかき乱すことになる。
そして中西にアドバイスするような立場にいるのが黒田(KAƵMAさん)、葉山(村上さん)、岡崎(赤羽さん)。
中西の元上司の黒田は店を出した(が失敗した)経験があり、その経験から「店出す」覚悟とリスクの大きさもわかっているため、中西の意見を重要視しながら彼に接している。
頭に血がのぼりやすく、作中でもキレてしまうが、あくまでそれは「中西が本当にやりたいこと」を大切にしているからであり、根底にある彼の熱さや面倒見の良さに起因しているのだと感じた。
葉山は黒田の知り合いのデザイナー。独自の世界観や美学を持っており、独特な言い回しや表現を多用するところがクリエイターらしい感じがした。今までに仕事で様々な人や現場を見てきたからか、誰が何の意見を言おうが、言い争いをはじめようが、動じずに一歩引いた立場で見守る存在。
作中で大倉に「炭坑」のアイディアに賛成しているか問われた場面でも「俺はおもろいと思うよ」とアイディアは認めるが、素朴とどちらが良いかの名言は避けており、基本的には中西の決断を尊重している。
岡崎は川元の高校時代の後輩でリフォーム関係の仕事をしている。
川元の後輩ということで、彼からの話を聞いてこの場にやってきたため、最初は川元の意見寄りだったが、彼の意見が正式に決まっているわけではないとわかると、葉山と同じく一歩引いて見守る中立な立場に変更。自分の意見をしっかり言えて、葉山との会話中などはプロの顔になるどっしりと落ち着いた頼りがいのある存在でありながら、川元の生姜焼きを喜んで食べる様子には後輩らしい可愛げがあった。
どうでもいいことだけど、何気にメトロンズの作品に出てくる全登場人物の中で、「子持ちの既婚者」を明言しているのは彼が初めてかもしれない。(基本的にメトロンズの登場人物は独身ぽい人が多い)
黒田と葉山も昔からの知り合いということで2人の間にも友人の空気感が伝わってきたが、中西・川元と違い、ある程度大人になってから出来上がった、密接すぎない関係性という感じだった。
葉山が独特でわかりにくい言い回しをした後に黒田が一瞬「ん?」と引っかかるも深追いしない感じなど、若干お互いがドライなところもある「大人の友人」の距離感が良かった。
大倉という男、川元との対比
楽しく和気藹々と進みそうな開店作業をかき乱していく大倉。
あらすじの時点では彼が繰り出すアイディアが良い方に作用するのだと思っていたけれど、実際は全くの真逆だった。
中西の中学時代の同級生だった大倉だが、黒田と中西の関係性を知っているか否かや、そもそもあらすじで「中学からの友達/中学の同級生」と書き分けられていたりと、
同じく中西の中学の同級生である川元と親密度の対比が見られて興味深かった。
「中西と、中西の友人・元上司と、彼らの知人」という密接に誰かとは結びついている人間関係の中にポッと入ったような存在の大倉。
この6人の中で少し浮いているような彼は、「オシャレに見られたい/他人とは違ったセンスを持つ人に見られたい」という他人軸で生きているような人物だと思った。
独特の雰囲気を持つ葉山が初めて登場したシーンで、彼から全員に握手をしに向かう中、大倉だけは前のめりに自己紹介と握手に向かっているところに、葉山への憧れや認めてもらいたいという欲求が出ているように思えた。
また、葉山が大倉の案を肯定した時に「デザイナーの葉山さん」と葉山を肩書き付きで言ったところも、「オシャレな職種の人に自分の案が肯定された」ということを重要視している彼らしい発言だなと感じた。
そうした「他人とは違ったセンスで一目置かれたい」という理想の反面、現実はうまくいかない。
ほぼ全員と初対面の岡崎が唯一作中に名前を忘れるのは大倉であるし、初対面の時点で黒田・葉山から好印象を持たれるのは大倉ではなく川元の方である。
川元は自然と視線が集まる反面、大倉は自主的に発言したりアイディアを言わない限り少しずつ存在感が薄くなっていく。
それは大倉がこの6人の中で1人、誰とも結びつきが強くないことも起因しているのかもしれない。
「知識・経験がないからせめて形だけでもという謙虚な姿勢」や、彼の得意料理の生姜焼きが絶賛されるなど、素性のままの川元が好かれる一方で、
「オシャレに見られたい」と精一杯、知識やアイディアなど「見られたい自分を作る要素」で武装した大倉は、川元ほど好印象を抱いてもらえず、より一層「奇抜なセンスを褒められ、認めてもらいたい」と思うようになる。
だからこそ褒められてもあっけらかんとしている川元にイライラしたり、敵わないとわかると途端に匙を投げてしまうのであろう。
他人軸で自分を繕う大倉と純粋に自分らしさで生きている川元。
大倉は、どれだけ他人から見られる自分をしっかりと作り上げても、愛され方や注目のされ方では天性の人間性には敵わないという残酷さを示してくれている存在であると感じた。
中西の性格
店を出すと決めたものの、何一つ自分の意見がなかった中西。
コンセプトはなく、自分の意見を持っていない様子から、ぽやーっとした、ちょっと抜けている人なのかと思ったり、
ずっと持ち出された2案を決めかねている姿を見て優柔不断なのかなと思ったりしたが、どうやらそういうわけではなく、
おそらく「目の前3センチしか見えていない人」なのではないかと思った。
具体的に言えば、話を聞いたり何かを見たりした時に、すぐにその気になり、ものすごい熱量で突き進むけど、新たなものを見聞きしたらコロッとそっちに意欲が上書きされてしまう人。
それを強く感じたのは、葉山が模型を持ってきたシーン。初めは全員が模型のところに集まるが、やがて中西以外の5人は「素朴か炭坑か」の話に戻っていく。
中西は模型を見るなり釘付けになり、細部をじっくりと触り始める。
模型を見て「この店やりたいなぁ」と口にして、葉山から模型のままの店ではなく自分のやりたい店を作れと言われても「でもなぁ」と模型そっくりの店を諦めきれずにいる。
場の空気が話し合いに戻っていってからも、顔や目線は他の人たちに移動してもなかなか模型の前から移動せず、かなり模型に心を奪われている様子。
そしてそのタイミングぐらいから、「炭坑にしたいの?」と聞かれても「したい…まぁ…。」と曖昧な返事に変わっていく。この変化もきっと彼の中のお店のイメージが「模型の店」に上書きされたことを示しているようにも見えた。
丁度そのシーンの直後に黒田が葉山に「新しいアイディアだから良く聞こえちゃってるって可能性ない?」と尋ねている。
店を出した黒田自身の経験則もあるだろうが、中西の性格をよくわかっているから出た言葉のように感じられた。
きっとそもそも「川元と素朴な店を出す」ということも、しっかりと覚悟を決めてようやく進んだ案というよりは、川元とのふとした会話で「楽しそう(あるいは生姜焼きが美味しすぎる)」と感じた気持ちだけで突き進んできたのではないか。
見えない真相
ワンシチュエーションの約80分の芝居。
ドラマのようにシーンの切り替えもないからこそ「見えない」世界が多く存在する。
最も真実がわからないのは黒田と大倉の喧嘩。
揉め始めたら早々に2人とも出ていき、戻ってきて話す彼らの証言には食い違いが生じる。
カッとなったらすぐに手が出る黒田と、今まで散々自分の良いように話を捻じ曲げようとしていた大倉。どちらの証言も信憑性が高くなく、真実が不明なまま。
唯一わかる真実は「中西はもう店を出さないと決めた」ということのみ。
あれだけ何を言われても自分の意見を持たず、ニコニコしながらみんなの顔色を伺っていた中西が作中で初めてしっかり言った意見が「俺、もう店出さない」。
また、中西が黒田と大倉のところへ追いかけるきっかけとなったのが、葉山の「本気だから喧嘩するんだよ」というセリフなのがなんとも皮肉だなと感じた。
真実が見えないので見えてる事実を元に憶測をするしかないが、店に戻ってきた中西が大倉に対して強くキレているあたり、改めて本気で店を出すことを考えた時に、好き勝手言う大倉が許せなくなったのではないかと思う。
この作品の最後は「中西は店を出さない/葉山が店を出す」という結論で終わっているが、2人とも宣言したのみで、その後どうなったのかは描かれていない。
簡単に気持ちや予定が上書きされてしまう中西なので、「やっぱり店を出したい」といい出す可能性もあるし、葉山が実際に店を出したのか、それがうまく行ったのかもわからないまま。
全てがうまくいくこともなく、全てを回収して完結することもないからこそ、この作品のリアリティを高めているのだなと思う。
他にも、川元がお金出してないこと、中西と大倉がそこまで仲良くないことを知らないままの人(黒田・葉山・岡崎)が混じってるために、一つ一つのセリフや行動に対する認知にズレがあるところも、この作品の面白さと奥の深さを増強させているなと思う。
その他思ったこと
川元の意志と黒田の反応
中西と一緒に店を出すはずだった川元。しかし、中西が店を出すのをやめた後、川元1人で店を出すか?という話になると、彼は「店を出す人になる階段」の途中で引き返してしまう。
川元がなぜ階段を上りきれなかったのか。
1人で店を出すほどの勇気がなかったのかもしれないが、「中西とやる」ことが彼にとって一番大事だったのかもしれないし、彼を置いて自分1人で店を出す後ろめたさがあったのかもしれない。
また、黒田も、川元が階段を上るときは俯き、葉山が上るときは前を向いて笑顔と、表情に差があった。
「店出しちゃったらアイツ(中西)にバレるでしょ」と言っているように、中西の存在が気がかりになっているようだった。
中西はきっとこの日まで、とても楽しそうに店を準備していたであろうこと、そして彼の周囲にいる人(川元・黒田)はとても彼思いの人間なのだということが窺える。中西は人に恵まれていたのだろうなと思うと、尚更大倉の存在が濃く浮き彫りになる。
夢を叶える条件
「こういうことしたいよね」なんて夢を語ることは簡単なことで、誰もがやったことがああるだろう。
しかし、そうして夢を口にするのは簡単でも、実際に動くにはかなりの勇気と覚悟と行動力が必要になる。さらに、夢を実現するためには、ブレない強い意志と本当に協力的に夢を応援してくれる周囲の人の存在も重要になってくるのだと思った。
「夢を叶えられるのはほんの一握り」なんていうけれど、これらの要因全てが出揃った上で、大倉のような存在に邪魔されることなく進められないといけないのだと考えれば、ほんの一握りの確率になってしまうのも頷ける。
ステージのギミック
ありがたいことに土曜の夕方公演は最前列の席だった。
最初と終盤、壁から人や階段が出るギミックを見て、綺麗にパタっと180°扉が開くのが気になったのでしっかり観察してみると、扉には押しピンでテグスが止められていた。どうやら裏から引っ張っていたらしい。
ちなみに最前列は冒頭の暗転時に何か(壁)が迫ってくる感覚を感じられた。ギミックを知っているからなのかもしれないけれど、印象深い物理的な臨場感だった。
ポスターと本編
メトロンズ作品は観劇前と観劇後でポスターの印象が変わることが多いような気がする。
観劇後に劇場入り口に貼られているポスターを見て、全員が笑顔なこと、特に田所さんが満面の笑みなのが心に刺さった。
観劇するまではなんてことない写真のように見えたが、ストーリーを知ってからみると、この写真はこの物語の前日、いや直前まで、中西が思い描いていた夢の風景のように見えた。
この光景はすぐ目の前にあった筈なのに、ほんの一つ要素がズレただけで、叶わぬ夢となってしまった。
どうか中西の人生が今後報われますように。どうかこの先中西がこの笑顔で過ごせますように。
そんなふうに心の中で祈ってしまうポスターだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遂に6,000字を超えてしまいました。
次回は4月末〜5月中頃。
もうすでにチケット先行が始まっていて「早いな!」と思ってしまうけれど、半年先の楽しみを抱えているのもなかなか良いですね。
無事に行けますように。
旅というテーマ。
毎回遠征してる者からするとなんか刺さるものがあります。