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メトロンズ『僕の大好きな最悪な飲み会』
「飲み会が好きか嫌いか」
好きでも嫌いでもなかったけど、この日を境に嫌いになったかもしれません。
だけどその地獄のような「最悪な」現場は、不思議と何度も見たくなるような痛快で「大好きな」場所でもありました。
前回同様、これも帰りの新幹線でアーカイブを見ながら書いたメモをまとめた備忘録です。
今回は東京に宿泊して、土曜2公演と翌日の千穐楽を観劇しました。
友人には「2日で3公演?」と怪訝な顔をされましたが、何度も見るからこそわかることもあるのです。
【追記】
毎回こうやってYouTubeで過去作が見られるのが本当に有り難い限りです。
半年のブランクが空くと、またきっと違う見方ができるのでしょう…
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メトロンズ第3回公演
「僕の大好きな最悪な飲み会」
2022/05/04(水)~05/08(日)
赤坂RED/THEATER
キャラクター
根本と藤井
飲めるけど飲み会の嫌いな根本(KAƵMAさん)と、彼と同期の藤井(村上さん)。冒頭の鼻の穴の話云々の時の2人のわちゃわちゃした感じの同期ならではの雰囲気が好きだった。
藤井は飲み会が好きかどうかは語られていないけれど、上司に気を遣ってる素振りがあるので心から楽しんでるわけではない(はず)。
3回観たうち、初回は北条(後述)に嫌悪感が向いていたけど、不思議と2回目以降は藤井に向いた。
「今まで誰とも分かり合えたことがない」という藤井。
普段は空気を読んで、なるべく穏便に人間関係を築いているけど、時折「余計なこと」をしてしまう。それも本人は良かれと思ってやってる所がまた厄介。
阿部と目黒
根本&藤井の上司2人。
飲み会では講釈垂れる阿部(児玉さん)と、下戸なりに盛り上げようと頑張る目黒(関町さん)。
会話の口ぶりから推測するに、彼らもおそらく同期同士っぽい。
でも、店長に改めて挨拶をしたのが阿部だったのでこの部署のリーダーは阿部。
なんだかそれもこの2人それぞれのキャラクターが出てるなと思った。
自分を大きく見せたい阿部は出世願望が強いが、目黒は責任を負うくらいなら、肩書きは要らないから気楽に仕事してたいと思うタイプなんだろう。
それから、前作の時も思ったけれど、児玉さんの演技で醸し出される渋さが素敵です。
北条と店長
2人とも声がかすれていたので、酒焼け感が出てて役作りが細かいなと感じた。
でも、多分普通に喉に負担のかかる役ってだけなのかも。
全てのハラスメントの集合体みたいな北条(田所さん)。
開演から1時間経っても出てこないから「休演?」と謎の心配をしたけど、ラスト30分で全てを持っていかれた。一挙手一投足全てが嫌いだった。初回は。
2回目以降はとんでもない飛び道具がラスト30分に出てくるのがちょっと楽しみで、出てきたら「嫌な奴」に振り切り過ぎててもはや痛快だった。
ちなみに後日ラジオで話されていたけど、藤井のパーマを褒める台詞は、デリカシーのカケラが(どころか概念さえも)ない感じが北条らしさ全開で、私は笑いそうになった。
でも3公演とも誰も笑ってないから堪えるしかなかったんだよな…
そんな北条の後輩なのが店長の島村(赤羽さん)。
最初は客同士の揉め事を蒸し返す「厄介な奴」だと思ってたけど、後半は北条の教えに洗脳された「可哀想な人」に見えてきた。
赤羽さん、いかつい人の役が似合っててなんだか意外だった。
きっと北条たちにお酒を教えられ、「彼らの飲み方」が正しいと思っていたけど、店を開いてから他所の「穏便な飲み方」を見てカルチャーショック受けただろうな。
両方の飲み会を知ったところで、彼はどちらを正しい飲み方だと思っているのだろうか。北条のいない場では。本心では。
印象的なセリフとシーン
店長登場まで
▼目黒「ほら、もう11時半だぞ?」阿部「あ、まだ11時半か」
なんてことないセリフだけど、目黒が飲み会苦手だと知った上で見ると、彼らの飲み会に対する感情が対極であることがよくわかるセリフだと気づいた。こういう細かいところが後に活かされるのが良いな。
目黒はここで主役の根本に挨拶をさせて、飲み会を締めようとしてたのね…
▼目黒「え、俺?」
なんか関町さんってこういうセリフ多くないか?前作でも言ってたし。
第1回でもこのセリフがあっておかしくない役回りなような。
▼根本VS阿部
キレると早口になるところがリアルな演技だなあと思った。あと、後輩にガンガン言われて「先輩だぞ!!」しか言い返せない情けなさもいい。後輩に向かって偉そうになりきれてない感じがする。
▼阿部「藤井、俺はお前に何を話した?」
藤井よ、あんなに話に出てきた「多様性」をいうだけでよかったのに。
▼阿部「言ったろ?社会人には我慢が必要だって」藤井「言ってましたっけ?」
初回は藤井と全く同じ感想だった。しっかり見てたはずなのに全然阿部の話入ってきてなかった。
店長登場後
▼店長「阿部は?」阿部「えぇ…?」
再度呼ばれた阿部の表情が印象的だった。
明らかに怒られると分かって恐る恐る座った根本の演技といい、このシーンでの5人それぞれの動きが好きだ。
▼阿部なりの「先輩らしく」
3回目の観劇の時の席が下手側の端だったので、しっかりとこの表情がみられてよかった。店長の根本への説教中、ずっとこの顔してるの大変そうだなぁ…と思っていた。
本当に阿部は自分を大きく見せたい割に「偉そう」に見せるのが下手な人だなあと思う。逆に言うと、酒の席以外、例えば仕事中はいい上司なんじゃないかと思い始めた。
▼店長「上の人間の話をありがたいと思えないのは、下の人間に落ち度がある」「上の人間の話の内容は、いい」
明確な理由がないあたり、店長は納得する間も与えられずにこの考えを北条達から叩き込まれたんだろう。だからどこかでモヤモヤしていただろうし、上に歯向かう根本が許せず、説教したんだろうな。
根本に説教することで、店長本人の中で北条達からの教えを正当化させようとしていたのかも。そう思うと、店長は根本の姿をみて「飲み会における後輩の立ち位置」の考え方が揺らぎ始めていたのかもしれない。
▼藤井「あそこなんですか」目黒「わかんない、なんだあそこ」
下手の説教部屋となった座敷を指す言葉。私は3回とも心の中で「魔界」と呼んでいた。
▼阿部と目黒
藤井と共に出ていこうとしたり、不自然に口数が増えたり、座るときに一回阿部に背を向けてから座ったり。「酒が入った状態の阿部が苦手」っていう目黒の心情がよくわかる。
飲み会って、飲んでる人は本音を言えるけど、下戸はなかなか言えないよね。
和解後の「俺、大丈夫じゃねえ」とか、「あー!真っ暗になったぁ!!」とか、このあたりの阿部の喋り方も面白くて印象的だった。
ショックを暗転で表す演出も素敵。自分たちも「徐々にショックで暗くなる」のを体験できるのは良い。観劇中は「4DXやん」と思ってたけどそれはまた違うか。
▼藤井と目黒
「はい」しか言わない藤井。コミュニケーションが下手な様子が見てとれる。相手がどう感じるか、を感じ取るのが壊滅的に苦手なのかな。
「共通の敵を作るのが仲良くなるために一番早い方法」って聞いたことあるけど、このシーンでの彼ら2人がまさにそうだなと思った。
あと、録音機買うほどこの部署は飲み会多いのか…
▼阿部VS目黒
「副担任会議」では関町さんが児玉さんにいじめられていたけれど、今回はそのリベンジのように見えた。
第1回も第2回も今回も、児玉さんの怯える演技が毎回あって、毎回ちょっとずつ違うし、毎回面白い。
そしてこのお2人のやり取りも毎回面白くて好き。ふざけすぎて注意されてるようだけど。
それから、目黒の「もしかして、俺、アイツの事下に見てんだわ」という発言。徐々に皆の「人間らしい嫌なところ」が見えてきたのも良い。
北条登場後
▼店長「逃げろ」
ヘコヘコしていた状態からの、一息ついて、このセリフ。
面白さって「間」も大事なんだと体感する瞬間。
この直前の、北条の強くドアを閉める動きは振動が座席に伝わってきた。生の舞台の良さ。
▼店長「間違った飲み方に飲み込まれた人間のなれの果て」
お酒って大人になってから学ぶもの。
つまり学校とかでちゃんと「正しい飲み方」を教わるわけじゃないから、学び方、教わり方を間違えるとそのまま間違いにも気づきにくく、軌道修正できずに突き進んでしまうこともあるのだなあと改めて感じた。
そういう見方では、北条も被害者だし、一つ間違えるとあんなモンスターが爆誕してしまうのかと、お酒が少し怖くなった。
▼北条「体質は作るもんだってわかってねえんだよ」
コイツにまだ先輩がいるのかと思うと末恐ろしいし、このセリフはシンプルにアルハラでは。(メモにでっかく「キライ」って書いてあった。ごめんなさい。)このあたりの北条と店長の会話の時に、背を向けつつチラチラと様子確認をする阿部と藤井の演技が好きだった。
これに限らず今回は舞台に背を向けたり、暗転したりと、表情を想像させられる機会が多くあってそれもまた面白い楽しみ方だった。
▼やけに名前を覚えるのが早い北条
その上、フルネームで呼ぶあたり、なんかヤバそうな人感出てる。フルネームで呼んでくる人にロクな人はいないイメージ。不気味だよ…
▼北条「あのなあ、アマゾネス」
この人の怒りのスイッチがどこについてんのかわからない。というか多分何してもキレるんだろな。全選択肢がアウト。最悪やん。
▼傍若無人な北条
机に乗ってジャンプするこの豪快さが初回は怖く、2回目以降は痛快。
これもまた振動が伝わるので、より一層彼の迫力が大きく感じられる。
「荒川」という飲み方を説明されている時の根本の絶望的な表情との対比も良かった。
タイトルにある「大好きな」と「最悪な」が近距離で入り混じっている。
▼店長「こんなんじゃ尊敬できないです」
北条「下の人間はよォ、従うだけの人間に成り下がれ」
店長のセリフは、さっきの「阿部に対する根本のセリフ」と重なる。
その状態で、自分と同じように「上の者に意見した店長」に対する北条のセリフを聞いて、根本はどう思ったのだろうか。私は「阿部を面倒くさい奴だと思ってたけど、まだマシやったのか…」と思った。
同様に、北条のNetflixの話は内容が薄いのに同じことを何度も言っている様子が阿部の最初のくどい話と重なる。阿部はこの場面をみてどう感じたんだろうか。
▼北条と根本の会話
熱弁する北条の話を聞いているフリをしながら、意識が朦朧としたり、吐きそうになったりして、それをまたリアクションでうまく誤魔化すところが、お酒を全く飲めないというKAƵMAさんならではの繊細な描写だなと思った。
あと、3回目(千穐楽)は座敷の近くの前の方の席だったので、根本がお酒を飲むときに喉が鳴る音が聞こえた。演技が細かい…細かすぎる…と感動。
▼北条「うるせえな、こっちは昼から飲んでんだよ」
初回(土曜昼公演)を見たときに、どこかのシーンで北条は「明後日の昼まで飲ませてやる」と言っていた気がする。(多分根本にサシ飲みに誘われたシーンだったはず)
11時半以降に飲み会してる時点でこの飲み会の日が金曜の晩だとして、「明後日の昼」は日曜日。ちゃんと土日休があるのに金曜も休みって、北条は何の仕事してんだよ、と思った。
▼根本「でも、俺たちだって誰一人わかりあえないじゃないっすか」
KAƵMAさんの紡ぐ言葉って毎回一つは心にブッ刺さるところがある。今回はここらの一連のセリフ。
無礼講はなくせないし、信用していた同期に秘密を暴露された。それでも、そんなことがあっても、自分は最後まで部署のみんなが好きだった、という根本の気持ちが表れていた。
▼復帰後の北条
2回目(土曜日夕方)を見たとき、北条が投げたおしぼりを店長がキャッチしていたところにひっそりと感動した。
複数回見る魅力、そして生の舞台の良さを感じた。
▼皆で盛り上げ始めたら
4人が盛り上がりだすとそれに反比例して、徐々に北条が冷めていく様子が印象的だった。自分中心に盛り上がって楽しくないと嫌なんだろうな。
▼どじょうすくい
まさかの展開に笑った。緊張感の中で急にこれはダメだ…
目黒が登場して、いち早く「まずいって…」という顔をする根本。お酒を大量に飲んでヘロヘロだったのに勘が冴えてるなんて。
結果的に「飲み会が苦手」と言っていた根本と目黒の方が北条の扱いが上手いのがなんとも皮肉だなあと思った。
千穐楽は座敷側前方の席だったので、「シラフでどじょうすくいをする目黒×喜ぶお酒モンスター北条」というカオスなライスさんが目の前で見られてよかった。
その他に思ったこと
衣装
セットも毎回すごいんだけれど、毎回衣装にも感動する。
今回はスーツ姿のサラリーマンが4人。でもみんな、ジャケットの有無、革靴の色、時計のベルトの材質(金属か革か)で違いが出ていて良い。
特に対極なのが阿部と目黒。
阿部の方が「周囲からの見られ方」を気にしているからか、目黒より少しおしゃれなものを身に着けている気がする。ジャケットを脱いでいるのも、熱弁して(お酒も入って)暑くなってきたんだろう。
そしてなんといっても北条の服装。
語弊があるかもしれないけど、何とも言えない野球部引退直後の「イキりファッション」のまま大人になった感が出ていた。
なぜかロールアップした白スキニーとか、ゴツいネックレス(しかも2個付け)とか、金の時計のゴテゴテしさとか、そういうディテールまでこだわっているからこそ、より彼への嫌悪感が増した気がする。
あと、お手洗いから戻ってきた北条のTシャツが濡れている演出もリアルでいい。もしかしてそれが見やすいようにグレーのTシャツを着てるのかな。
ちなみに、観劇以来、ツーブロックの人が少し苦手になった。
机の上の…
ティッシュ箱の色。土曜日はピンクだったけれど千穐楽はオレンジになっていた。この7公演でどれだけ消費したんだろう。
そして配信で机の上の調味料が中濃ソースだとわかり、「わぁ、関東だ」と1人で要らぬ感動をした。買って帰ればよかった。こっちで売ってるかな?
ポスターと公演
タイトルとあらすじを観て思ったのは「何か日本語が変」だということ。
タイトルには「な」が多いし、あらすじの
最悪の雰囲気が揉め事になろうとしたその時、彼らの背後から「飲み会」がやって来て…。
この独特の書き方も気になるなと。
だけど見てみると「なるほど」となった。
前回同様、ポスターやタイトルなどの事前情報が、観劇前後で違う受け取り方をできるって素敵な仕組みだな。それ含めての作品なんだなと改めて思い知らされる。
ちなみに、ポスター写真では全員スーツ姿だったので、勝手に今回は6人全員サラリーマン役だと思っていた。なので赤羽さんが店長で出てきた時にすごくびっくりしてしまった。
ポスターが伏線になってたりもするけれど、ポスターを全て信じ切ってはいけない。難しいけど面白いし、だからこそ観劇前から楽しみが広がる。
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気がつけば今回も6000字ほど書いていました。
メモから端折った部分もあるけれど、それでもこれだけ長くなるほど魅力が多いのです。
今回の物語自体は全くハッピーエンドじゃないし、見ていて気持ち良いものでもありません。
それでも、複数回見るとその都度見方が変わるし、新たな発見もあって、何度見ても面白い。
そこが7人皆で作品を創り上げていかれる、メトロンズの魅力なんだろうなと思います。
忘れちゃならないのが、今回は直前まで7人揃っての稽古が出来なかったのに、そんなピンチがあったのにこのクオリティだということ。
千穐楽が終わった時、拍手の長さに皆さんが若干苦笑されていたけれど、本当に拍手が止まらなかったし、何故か止めることができなかったのです。こんな感覚は初めてでした。
毎回テイストがガラリと変わるので、次回作も今から楽しみです。
次は12月の頭。遠方なので行けるかはわからないけれど、また劇場に足を運べますように。
赤坂RED/THEATERってなんか独特の匂いがして、あの匂いさえも恋しくなってきました。