慢性疲労症候群(CFS)に認知行動療法(CBT)がかなり有効だという話
AIを活用した認知行動療法の可能性を探ってリサーチしています。
少し離れたところにいる友人Aから、「慢性疲労症候群(以下CFSと呼びます)」と診断されたという連絡がありました。
「頑張りすぎな頑張り屋さん」な友人がCFSに
もともとAはかなり頑張り屋さんで、海外と日本を頻繁に行き来する業務をしていました。周りが心配するほどがむしゃらに働くタイプ。私も「いずれ身体を壊すだろうな」とは思いつつ、ひたむきに頑張るAの気を削ぐようなことも言えず、「何かあったらいつでも力になるから」と折に触れて連絡していました。
数年前Aから、国内勤務になった、しばらくはおとなしくする。という連絡があった時、正直ほっとしたのは私だけではなかったはず。そのくらいその小さな体に似合わず猛烈な働き方をしていました。
昨年夏にふと思い立ってAのところを訪ねたところ、以前のAとは別人のように生気を失った表情をしている彼を見て、驚きというより恐れていた時が来たかという感覚を覚えました。
頑張り屋さんな彼の生い立ち
というのも、Aは離島の出身で、働かない父親とパートで子どもたちを養う母親を見て育っていました。長男であるAは、自分は絶対に父親のようにはならない、一生懸命に働いてお母さんに楽させてやる、まだ小さい弟や妹たちを自分が食べさせてやるんだ、と思っていたと話してくれました。
私も一度、Aの里帰りに着いていったことがありますが、確かに生活水準の低さは否めなかったことを覚えています。
頑張り屋さんはトラウマ持ちが多い
頑張り屋さんの心にはたいていトラウマがある、この本にもそのことが書いてあります。
ちょっと長いですが、この本のプロローグ「がんばることをやめられないFさんの話」を引用します。
私は読んでいてこのFさんの気持ちが手に取るように分かり、胸が苦しくなる思いがこみ上げてきました。というのも私も過去に「頑張り屋さん」だったから。今でもその亡霊と戦ってはいますが。私の話はまたいずれ。
友人の話に戻します。昨年の夏に会った時、Aは職場の人間関係に悩んでいました。また、自身も睡眠障害と原因不明の微熱に悩まされているとのこと。後になって知りましたが、これはCFSの典型的な症状のようです。
彼の生気の失われた顔を見ながら話を聞いていて、うつ病を疑った私は、とりあえず心療内科を受診することを勧めました。Aに精一杯の気を使って「適応障害かもしれないよ」と一言添えて。せめて「自分の外に原因がある」というニュアンスを含めることで、抵抗なく心療内科にかかってくれたらという思いからです。
そして半年後のつい先日、AからCFSの診断が出たという連絡があったのです。先生いわく、メンタルはそれほど落ちていないのでCFSを疑っていたが、CFSの診断には6ヶ月以上の観察が必要なのでしばらく様子を見ていたとのこと。
慢性疲労症候群(CFS)とは
類は友を呼ぶというか、私の周りには何人かCFSを抱える友人がいます。この機会にCFSについて少し調べてみました。
CFSは種々のストレスが原因という説
CFSの原因や、それが引き起こされるメカニズムについてはいまだ確証されていないようですが、ストレスが主な原因だという説が優勢とされています。(最近では新型コロナウイルスがトリガーとなってCFSを発症している事例も少なくないとか)
関西福祉科学大学の倉垣教授は「種々の生活環境ストレスによって引き起こされた神経・内分泌・免疫系の変調に基づく病態であり、免疫力の低下に伴って種々のウイルスの再活性化が惹起され、これを制御するために産生されたインターフェロン(IFN)などのサイトカインが脳・ 神経系の機能障害を生じていると思われる。」と述べています。(「慢性疲労症候群」(Chronic Fatigue Syndrome ; CFS)について)
私の周囲を見ても、積年のストレスに身体が悲鳴をあげた、と考えると納得できるほど、頑張りすぎな頑張り屋さんがこの病気を発症していると感じます。
CFSの診断基準
CFSの治療法も分かっていない
原因が不明なため、治療法もまだ確立されておらず、漢方薬やビタミンC製剤の処方、抗不安薬による抑うつや不安の軽減といった対症療法に限られているのがCFSの厄介なところです。
CFSがかなり厄介な病気であることから、世の中には様々な「CFSに効く」とされる治療法があふれています。それら全てを一概に否定するつもりはありませんが、そうしたエビデンスのない治療法に大金を突っ込むのはソシャゲの高額ガチャにハマるのと同義。一部の「運の良い」人は早い段階で自分と相性の良い治療法にあたって回復するのでしょうが、大半は大金を毟り取られ、いっそう焦りが募るだけ。
慢性疲労症候群に認知行動療法が有効らしい
AはCFSの診断を受けて、半年前に心療内科の受診を勧めた私に報告しようと思ったようです。辛い状況の時に思い出してもらえる友で良かったと思いつつ、これからAをどうサポートしようかという思いが頭をよぎります。
というのも、Aは独り身で、私たちからは離れたところにいます。実家に帰ることは考えているのかと聞いたところ、Aは「離島暮らしは体力がないと無理」と力なく笑いました。
重症CFSの回復率は0~6%という現実
少し前に仕事も辞めてしまった彼は、病気が治るまでは貯金を取り崩して生活すると言います。しかし、重症CFSの回復率は0~6%とかなり低い(慢性疲労症候群患者の日常生活困難度調査)ことを彼はまだ知りません。貯金が底をつくのは時間の問題でしょう。
Aの主治医は行政の支援を受けるよう彼に勧めたようです。そこで私に行政の支援は何があるのか、自分はどんな支援を受けられるのか調べてくれないかと尋ねてきました。以前は何でも自分でやろうとしたAが人に頼み事をするとは、と嬉しいような切ないような複雑な気持ちになりました。
とりあえず私の持っている知識で、障害者手帳の申請ができるかもしれないから市役所の福祉課に行ってみるように。障害年金は診断から1年半以上経過する必要があるからもう少し我慢が必要、どうにも苦しい時は生活保護という手段もあることを伝えました。
CFSと認知行動療法
そんな中、最近の日課になっている認知行動療法のリサーチをしていたところ、興味深い研究を見つけました。
この研究の要旨に興味深い一節がありました。
どうやら、CFSの人に「まずはゆっくり休んで」というのは気休めにしかならず、場合によっては症状を悪化させることすらあるようです。
また、驚いたことに認知行動療法(CBT)がCFSの治療にも有効であるとのこと。
認知行動療法とは
認知行動療法とは「認知のゆがみ」や「不合理な信念」といった「自動思考」を訓練によって正常に戻していくことで、不安障害やパニック障害を治療していく手法です。私の妻も全般性不安障害の治療のため認知行動療法を受けています。
CFS患者に多く見られる非合理的信念
CFS患者になぜ認知行動療法が有効か、この研究が述べるところによれば、CFS患者に多く現れる「非合理的な信念」があるようです。
この研究のCFS純Ⅰ群とは、他の精神疾患を併発していない「メンタルが健康な」CFS患者のこと。メンタルが壊れていなくともCFS患者の多くに不合理な信念が見られるというのは、周りに何人もCFS患者がいる私の肌感覚に合っています。
ちなみに「自己期待」とは自分への過剰な要求のこと。例えば「私はいつも目覚しい行いをしなくてはならない」「私は常に業績を上げなければならない」「私はいつも頭がよく働かなければならない」「私は全ての点で有能でなければならない」などがあります。
「倫理的非難」とは他者への厳しい態度、例えば「泥棒はこらしめられて当たり前だ」「重罪を犯した人は厳しく罰せられて当然だ」「殺人を犯した人は死刑に処せられるべきである」「不道徳なことをする人間は堕落した人間だ」といった考え方です。
「問題回避」は言うなれば「事なかれ主義」のこと。「いざこざが起こった時には知らん顔をしているのにこしたことはない」「人と話をする時は差しさわりのないことだけを話したほうがいい」「物事を決める時はっきり賛否を表さない方が無難だ」「危険や困難には近づかないことだ」といった考え方がこれに含まれるようです。(不合理な信念測定尺度 JIBT-20調査項目より)
この研究では実際に認知行動療法を実施した3例が報告されており、どの症例も10回前後の面接(セッション)で「疲労の原因を探すことに労力を費やすのではなく、疲労とうまく付き合って生活を送る」という目的が達成できているようです。
「疲れずに動ける」ことを目指すことを止めて「疲労との付き合い方を学ぶ」、とても当たり前の考え方のように思えるかもしれませんが、頑張り屋さんには驚くほどこれができないんです。この「不合理な信念」を認知行動療法で修正していく、私にも腑に落ちる理論です。
海外での研究では57%がCFSから回復
ただ、この調査は症例が少ないことと少し古いことが気になったため、もう少し最近の、大規模な調査はないだろうかと探してみると、海外のものですが「慢性疲労症候群に対するウェブベースの認知行動療法の有効性」という2018年の研究を見つけました。
AIに概要をまとめてもらいました。
「臨床的にも意義がある結果」というあたりがとても気になったので、もう少しClaude3に尋ねてみました。
対面ではない認知行動療法でも57%もの患者が回復しているとは驚きの数字です。認知行動療法がCFSの治療法としてここまで有効だとは、不勉強にして全く知りませんでした。
友人にどう勧めるか
ところで、私の周りのCFS患者の多くはCFSを「心の問題」と絡めて語られるのをとても嫌がります。おそらくAもそのタイプでしょう。だからこそ心より早く身体(免疫系)が悲鳴を上げたのだと思いますが。。。
Aがいったん開いた心を閉ざさないよう慎重にアプローチして、認知行動療法を勧めてみたいと思います。
ただ、問題は上の論文にもある通り、CFS患者には専門の医療機関への通院がかなり苦痛であるということ。日本にもWEBベースで認知行動療法ができる医療機関があればいいのですが。
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