「目が覚めたら昼」など日常茶飯事

 寝室の窓から聞こえるトイレの流水音。揺れるカーテンの隙間から一室の電気が消えるのが見える。

「ああ、あそこは洗面所か。」


 六月末の朝六時、19度。やや冷たい風に半袖。布団とイチャイチャするには丁度いい。自分とは違う体温と足を絡ませた暑さで、思わず足の先が布団から覗くような、そんな気温。生憎、寝返った先にいるのは、絡めるに至る長さの足と体温を持たない、IKEAのタグを身につけた犬。挙げ句の果てには、その彼にさえそっぽを向かれている。腕の中に引き寄せ戻した後、布団を口元まで引き上げ、肌に触れる布団の心地良さで再び瞼が下がっていく。



 彼にもらったBurberryのニットを着て、雨後の外気を吸いに行く。玄関を開けた瞬間、イヤホンから耳に流れ込んでくる好きな曲のAメロ一行目。ペトリコールと調合されていく彼の匂い。

 道路脇の植物が生き生きとしている。いつにも増して青臭い彼等とすれ違うと思い出す、小学生の頃喧嘩をしたあの子のこと。遠距離を承知で気持ちを伝えてくれた一週間後「遠距離は耐えられない」と遠距離になる前に私をフった元彼のこと。そして、その切り出された別れ話が翌日の四月二日にまで及び、エイプリルフールの嘘じゃないことに唖然としたこと。



 午後十二時を少し回った頃。私を起こしたのは携帯のアラームでも愛しの彼でもなく、隣のビルの工事音。小鳥の囀りが喧騒に変わっている。

「ああ、仕事に行かなくちゃ。」

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