【本棚から冒険を】とび丸竜の案内人(児童書)
本を読むのが好きです。小学校から帰ると本棚に直行していました。
しかし、読み終えた後、母親から「イオレクっていう熊が出てくるんでしょ?」「衣装ダンス以外にもナルニア国への入り口があるの?」「マイスター・ホラってどんな人?」などの質問をされると答えられませんでした。
読んでいる間は物語を楽しんでいたはずなのに、細かいことはよく分かっていないことが多かったのです。
ではいったい本のどこに惹かれていたのだろう--最近気付いたのですが、細かい設定や世界観、話の内容は分かっていなくても、物語に登場した食べ物・料理はしっかり覚えています。登場人物と一緒においしい食べ物や料理を楽しみたくて、本を読んでいたのかもしれません。
前置きが長くなりました。「物語に登場するおいしそうな食べ物ランキング」と言われると甲乙つけがたいところですが、「食べてみたい果物ランキング」なら1位は決まっています。「マルメロ」です。
大好きな作家、柏葉幸子さんの作品『とび丸竜の案内人』に登場する果物で、この年まで実物を目にしたことはありませんでした。
実はこの作品、現在は手にすることが難しくなっています。マルメロを食べる前にもう一度読みたいと思って探したのですが、新品を手に入れたい場合は電子書籍の購入以外にないようでした。
でも読みたい!ということで、今回は「ブックライブ」で購入しました。
主人公は体が少し弱くて、でも食い意地が張っている理子(さとこ)。おばあちゃんと同居しているのですが、このおばあちゃんがとても厳しいのです。昔は教師をしていたのだそうで、70を過ぎた今も背筋をピンと伸ばして歩いています。そんなおばあちゃんのことが、理子は苦手です。
さて、ある秋のこと、理子が学校から帰ると、家の中にいいかおりがあふれていました。どうやらおばあちゃんの部屋から漂ってきている様子。おばあちゃんのところに行きたくない気持ちよりも食べたい気持ちが勝った食いしん坊の理子は、おばあちゃんの部屋でマルメロ(作中ではマルメ)に出会います。
マルメロは生では食べず、砂糖煮にするとおいしいようです。
ただしこのマルメロ、恐ろしい(?)言い伝えがありました。
秋以外にマルメロを食べると、怖い魔物が飛んでくるのだそうです。その話を聞いた理子は笑いますが、おばあちゃんは信じているようでした。
はじめに読んだときは「〝旬を大事に”ってことかな?」と思っていましたが、そうではありませんでした。
理子はマルメロを冷凍庫にこっそり入れておき、次の年の夏に食べようとします。すると理子の元へ、一匹の竜がやってきました。名前は「とび丸竜」。
なんでも、竜には「竜の世界」があり、そこでは「秋の太陽」がなくなって困っているのだそうです。そして、春~夏の間にマルメを口にした人間が「案内人」となり、「秋の太陽」を探す冒険をするのだそうです。
なぜマルメを口にした人間かって?それは、竜の世界の太陽に秘密がありました。竜の世界には太陽が4つあり、季節によって太陽を掛け替えています。そして、使っていないときは太陽倉で保管しておきます。その際、
春…菜の花の蜜
夏…桃のシロップ
秋…マルメの汁
冬…ハッカ液
につけておくのだそうです。聞いただけでよだれが!!
ちなみに、竜の世界では月はパンケーキで、星は金平糖でできています。月は毎日満ち欠けするため、前の日に使った月は不要になります。そのパンケーキは竜(主に竜王さま)のおやつになるのだそうで…竜たちも食いしん坊ですね。
2つの世界の住人(人間界の理子・竜界のとび丸竜)が一緒にいれば、どんな世界でも旅することができます。そしてその入り口は、私たちが住む世界のどこにでもあります。ただし、日本は少なめ、イギリスには溢れているのだそうです。「妖精の小径」「河童の洞穴」といった地名がそのヒントなのだそうで、確かにイギリスにはたくさんありそう。
理子ととび丸竜は過去の世界を冒険し、そこで竜の世界を統べる「竜王さま」とおばあちゃんの秘密に気付いてしまいます。
秋の太陽を見つけたものの、すでにしわしわの状態。早くマルメの汁につけないとひび割れ、カピカピになってしまう--そこで、理子はよいアイディアを思いつきます。
誰もが幸せになれる方法を。
主人公の理子は、美奈と同じように普通の子どもです。完璧なわけではなく、なんなら作中で大人(妖精や竜含む)たちから何度も注意をされ、諫められ、励まされます。そんな子たちがちょっとした非日常を経験する物語が、私は大好きです。
蛇足になりますが、改めて読んでから、理子ととび丸竜の関係が近づいていく描写「一礼」がとても好きだったことを思い出しました(読む前までは「マルメロ」しか覚えていませんでした!)。
はじめはとび丸竜が「竜王さま」と口にするたび一礼するのを眺めていただけの理子が、だんだん一緒に頭を下げるようになり、終盤では自分自身が「竜王さま」と口にしながら一礼するほどに竜の世界(と、とび丸竜)になじんでいくのです。
この文章を書きながら、私も心の中で一礼をしています。そうしたら、少しでも竜の世界に近づけるような気がして…。
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