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チェロ弾き

僕が見た魅惑のチェロ弾きは

彼女の記憶を風船にして何処か遠くへ飛ばした。

どうしてそんな事をするのかと尋ねると

チェロ弾きは何も言わずに透明な瓶を僕に

手渡した。

中身はベラドンナだ。

チェロ弾きは言った。

「瓶の中身は彼女が持っていたものだ。
ただの花ではない。
いわば彼女の哀愁と希望。先程の風船みたく飛ばされたくなければ、これは君が持っていくといい。」

受け取った瓶を持って、僕は歩いた。

ぽかぽかとした陽だまりが交差する銀杏の並木道を行く

陽の光に反射し、シルバーのペンダントが輝いた。

先を進めば 透明な湖が周りの木々を鏡の様に映しだしている。

赤い実を沢山つけた大きな木の下。

僕はそこに穴を掘って瓶を埋めた。

何故そんな事をしたかと言えば

彼女にとってこれが本当に必要なものならば

きっといつか自分の力で探し出し

瓶を開けて真事を思い出す。

そう僕は盲信したからである。

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