【読後感】ソシュール『一般言語学講義』影浦・田中訳(東京大学出版会)
ソシュールの言語学の講義録。ソシュールはスイスの言語学者。1857年に生まれ、1913年に亡くなった。ソシュールの思想は彼の講義に出席した学生のノートで知られてきた。中でも、バイイとセシュエが編集し出版された『一般言語学講義』は、近代言語学の確立に大きく貢献し、近代言語学の祖と言われている。だが近年、この講義録はバイイとセシュエがかなり大胆に編集したので、ソシュールの考えの流れを忠実に反映していないことが問題になっている。そこで本書が翻訳の元としたコンスタンタンのノートは、ソシュールの思想を最もよくまとめて表現しているものとして評価が高い。
ソシュールの思想は後に構造主義と呼ばれる。彼は構造主義を始めた人の一人となる。これは実存主義の流行のあとに出てきた現代の思想。構造主義は、ソシュールなどの影響で、現象を記号の体系として捉え、個別的・歴史的な記述よりも、規則や関係などの構造分析を重視する。言語学や人類学のほか、心理学、精神医学、数学などの分野に広く展開される。そんな構造主義に関わるところは本書では主に第2部で語られている。いま語られている、と書いたが、この本の訳は話し言葉の「です・ます調」で書かれている。そのため、講義を受けているような臨場感がある。この本の解説にはソシュール入門に最適とある。確かに読みやすかった。私としては読んでいて氣づきや発見がいろいろあった。おかげで楽しく読むことができた。例えばこんな記述がある。
この部分は面白く読んだ。これは言語だけではなく、人間関係の個人と集団の間柄にも言えると思った。
この本は200頁ほどで少ないが、氣づきをたくさんもらった。言葉に興味のある人は一度目を通してみると良いかもしれない。
氣づきにちなんで、ある人は発見と理解についてこんなことを言っていた。
「人間はどんな状況でも幸せを見出せる。特に知的な喜びは普遍的だ。生活に発見と理解の喜びを見出そう。それが成功の秘訣でもある。」
本書は言葉に興味のある人にとって、そんな知的な喜びにあふれていると思う。もちろん、人によって相性はあると思うが。少なくとも私にとっては、知的な喜びの多かった本だった。
(2013.1.27 読了)