労働力確保としての、健康経営
こんにちは
『健康を企業文化に』を理念に健康経営アドバイザーの
健康マネジメントスクール
水野雅浩です。
今回は、経営者、人事向けの記事になります。なぜ、「日本で」健康経営になのかをFACTをもとに整理していきます。社内で、なぜ、健康経営なのか。なぜ、待ったなしの状態なのかをプレゼする上で役立つことでしょう。
労働力確保としての健康経営
人口ボーナス、人口オーナスという言葉を聞いたことがあるでしょうか。ハーバード大学の人口学者、デービッド・ブルーム氏によると、「人口ボーナス」は、労働力増加率が人口増加率よりも高くなり、人口に対する労働力が豊富な状態となることで、経済成長が促進される時期と定義されます。
またこの対義語にあるのが「人口オーナス」。人口オーナスは、人口減で生産性が低くなり、経済成長にブレーキがかかる時期と言われます。
日本においては、1960年代の高度成長期に人口ボーナス期に突入し、豊富な労働力が経済発展に寄与しました。ところが1990年代に人口ボーナス期が終了し、先進国の中では少子高齢化が進行します。まさに、日本は人口オーナス期に突入したのです。2025年には人口の6割が45~55歳となり、若者の数と比率が低下、60歳以上が70歳まで働く時代に(これから人口ボーナスを享受できるのはアセアン諸国、中国、インド、アフリカと続きます)。
人口が減っていくということは、2つのことを意味します。1つは、労働人口が高齢化していくという事。50歳を基準とした日本の人口変遷を見ていくと、19世紀(1860~1960)は16~17%程度だったのが、21世紀型(2020~2110年)は50~60%になると予想されています。日本の高齢化は、2060年には日本38.1%を超えることが予測されています(韓国37.1%/台湾36.8%)。
社員の高齢化は、事業リスクを高める
今の会社の中で勤務している50代を見渡してみると、いわゆる中高年の生活習慣病(高血圧、高血糖、高コレステロール)や体力の衰えが顕著になっている人が目につくはずです。この割合が50%を超えると想像してみてください。病気になってから慌てて行動を起こす対処療法を続けていてよいのか。それとも、小さな投資で予防に投資をしていった方がよいのか。
もう一つは、労働力を確保するために、新卒・中途社員、さらには海外の人材を含め採用戦略を練る必要があります。
総務省の『2050年までの経済社会の構造変化と政策課題について』(平成30年9月)を見ると、今後日本は、労働人口が800万人減り、34%が65歳以上になると予想されています。
そして、この人口構造の変化の影響を受けるのが中小企業です。総務省の就業構造基本調査によると55歳以上になるほど、中小企業に勤める傾向が高くなることが指摘されています。このことは、社員の高齢化と、経営者の高齢化という2つの側面を持ちます。
まず、社員の高齢化は、何を意味するのか、健康という切り口から見ていきましょう。40代前半の男性は、30代前半の男性に比べて心筋梗塞の死亡率は3倍。50代前半には7倍にたかまります(出典:日本災害医学会会誌「JJTOM」VOL.45.No.11(1997) )。これは、特にメタボ型肥満に多い傾向ですが、コレステロール、中性脂肪、血糖値が高いため血管の内部がボロボロになり、心臓や脳に大きなダメージを与えるのです。さらにWithコロナで気をつけなくてはならないのは、厚生労働省によると、腎臓や心臓、呼吸器などに持病を抱える人が、感染で持病を悪化させて亡くなる事例が目立つと報告しています。
次に、経営者の高齢化という側面です。アクサ生命保険の『社長さん白書2020年』を見ると、経営者自身が就業不能となった場合の経営への影響について、88.1%の経営者が「影響がある」と回答。後継者の育成前の事業承継が必要になる、売上に影響が出る、経営の意思決定が停滞するといった影響が認識されています。そして、経営者自身が就業不能になる原因として、40.5%の経営者が「がん、心筋梗塞、糖尿病などの生活習慣病の悪化による入院」と回答しています。
つまり、経営者を含め社員の平均年齢が上がるということは、事業リスクに直結する時代なのです。さらに、新しく若手社員が採用できなければ、『未来年表』の著者の河合雅司先生の言葉を借りれば「看過してはならないのは、勤労世代の絶対数が減るだけでなく、この世代の中で、高齢化が進みながら減っていく点」です。
社会人なのだから「健康管理は自己管理」とする時代は終わりました。これからは、事業を永続させるために、健康に関わっていく時代なのです。
出社している人が、欠勤している人の20倍コストという現実
突然ですが、あなたは花粉症があるでしょうか。もしくは、職場に花粉症の社員はいるでしょうか。
私も花粉症があるのですが、一定の季節になると、鼻はズルズル、くしゃみは止まらない、頭は霞がかかったようで、集中力が続かない。給料は一定に支払われているけれど、健康的なときと同じパフォーマンスかと言われれば、いつもと同じ生産性は、出せてないという状態です。
学術的には、会社に出社しているけれど、労働生産性が低い状態のことを、「プレゼンティズム」と言います。花粉症でなくとも、慢性疲労、寝不足、肩こり、腰痛、冷え性、などなど。あなたも心当たりがあるのではないでしょうか。これに対して、「アブセンティズム」とは、何らかの健康リスクがあり、出社できない状態を指します。例えば、メンタルヘルスや事故などの治療でそもそも出社できない状態です。
東京大学政策ビジョン研究センターデータヘルス研究ユニットの「健康リスクと労働生産性損失の関係」という興味深い調査があります。これによると、従業員一人当たり年間76.7万円の生産性損失と報告されています。気になるのはその内訳、プレゼンティズムコスト従業員一人あたり年間73.0万円。アブセンティズムコストが従業員一人当たり年間3.7万円と、なんと、出社している社員の労働生産性損失のほうが多くかかっているというのです。
具体的には、①更年期、不定愁訴の有無、②喫煙、③アルコール、④運動習慣、⑤睡眠休養、⑥主観的健康感、⑦家庭満足度、⑧仕事満足度、⑨ストレスの計9項目の数に応じて、低リスク層(0~2項目)、中リスク層(3~4項目)、高リスク層(5項目以上)の三つの群に分け、それぞれの群での労働生産性損失(プレゼンティーイズムコストとアブセンティーイズムコストの合計)を調べました。
その結果、中リスク層では低リスク層の1.2倍、高リスク層では低リスク層の3.0倍、となっており、健康リスクの増加に伴って労働生産性損失が大きくなる傾向があることが分かったのです。
健康リスクが労働生産性に大きく影響していることが分かっている今、健康マネジメントに企業が介入していくことには大きな意味があるのではないでしょうか。
次回は、新しい人材確保という視点で、健康経営の必要性をご紹介します。
ぜひ、参考にしてください。
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