たんぱく質ってどれくらい摂ればいいの?
たんぱく質は不足しやすい、そんなイメージですか?
たんぱく質は不足するのでしょうか?不足するまたは過剰摂取するとどのような身体的影響が生じるのか?過剰のリスクと不足のリスクを知ることができればその間のバランスを取り健康な状態を保つことができるはず。また、たんぱく質のみならず、身体活動、エネルギー摂取量によってもたんぱく質の体内での利用状況は変化します。つまり、エネルギーバランス(カロリーゼロ理論)を把握し、その上で各種栄養素のグラデーションについて理解を深めばければ健康な状態は分かり得ないということ。です。それでは、たんぱく質について見ていこう!
<食事摂取基準2020 まとめ>
1.推定平均必要量(1歳以上の推定平均必要量は、個人では不足の確率が 50% 、集団では半数の対象者で不足が生じる と推定される摂取量であることから、この値を下回って摂取することや、この値を下回っている対 象者が多くいる場合は問題が大きいと考える。しかし、その問題の大きさの程度は栄養素によって 異なる。)は、窒素出納法で得られたたんぱく質維持必要量を用いて策定した。近年、指標アミノ酸酸化法を用いた研究結果も増えてきているが、まだその質・量ともに十分ではないことから、これらは今回の策定では採用しなかった。
2.目標量は、たんぱく質摂取量は低すぎても高すぎても他のエネルギー産生栄養素とともに主 な生活習慣病の発症予防及び重症化予防に関連することから、範囲として設定した。目標量 の下限は、推奨量以上であり、かつ高齢者においてはフレイル等の発症予防も考慮した値で あることが望まれる。しかしながら、フレイルの発症予防を目的とした量を算定することは 難しいため、少なくとも推奨量以上とし、高齢者については摂取実態とたんぱく質の栄養素 としての重要性を鑑みて、他の年齢区分よりも引き上げた。目標量の上限は、成人における 各種の代謝変化への影響や、高齢者における高窒素血症の発症を予防する観点などから、1歳以上の全年齢区分において 20% エネルギーとした。
3.耐容上限量は、最も関連が深いと考えられる腎機能への影響を考慮すべきではあるが、基準を設定し得る明確な根拠となる報告が十分ではないことから、設定しなかった。
1 基本的事項
1─1 定義と分類
たんぱく質(蛋白質、たん白質、タンパク質、protein)とは、20 種類の ʟ─アミノ酸がペプチ ド結合してできた化合物である。たんぱく質は他の栄養素から体内で合成できず、必ず摂取しなけ ればならない。したがって、たんぱく質は必須栄養素である。たんぱく質が欠乏するとクワシオル コル(クワシオルコール又はカシオコアとも呼ぶ)となる。 たんぱく質はこれを構成するアミノ酸の数や種類、またペプチド結合の順序によって種類が異な り、分子量 4,000 前後のものから、数千万から億単位になるウイルスたんぱく質まで多種類が存 在する。ペプチド結合したアミノ酸の個数が少ない場合にはペプチドという。たんぱく質を構成す るアミノ酸は 20 種である。ヒトはその 20 種のうち、11 種を他のアミノ酸又は中間代謝物から合 成することができる。それ以外の9種は食事から直接に摂取しなければならず、それらを不可欠ア ミノ酸(必須アミノ酸)と呼ぶ。不可欠アミノ酸はヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシ ン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、バリンである。
1─2 機能
たんぱく質は、生物の重要な構成成分の一つである。また、酵素やホルモンとして代謝を調節 し、ヘモグロビン、アルブミン、トランスフェリン、アポリポたんぱく質などは物質輸送に関与 し、γ─グロブリンは抗体として生体防御に働いている。たんぱく質を構成しているアミノ酸は、 たんぱく質合成の素材であるだけでなく、神経伝達物質やビタミン、その他の重要な生理活性物質 の前駆体ともなっている。さらに、酸化されるとエネルギーとしても利用される。
1─3 消化、吸収、代謝
体たんぱく質は、合成と分解を繰り返しており、動的平衡状態を保っている。たんぱく質の種類 によりその代謝回転速度は異なるが、いずれも分解されてアミノ酸となり、その一部は不可避的に 尿素などとして体外に失われる。したがって、成人においてもたんぱく質を食事から補給する必要 がある。なお、授乳婦は、母乳に含まれるたんぱく質も同様に補給する必要がある。 このほかに、成長期には新生組織の蓄積に必要なたんぱく質を摂取しなければならない。妊婦の 場合は、胎児及び胎盤などの成長もこれに相当する。
1-3-1 適応
適応的代謝要求量を代謝の面から説明すると, 最低の必要性を超える食事タンパク質を急速に処 理し,毒性を示す可能性がある分枝,芳香族,含 硫アミノ酸を非常に低い組織濃度に維持できるよ うにするために,これら特定のアミノ酸の酸化的 異化経路の能力を習慣的タンパク質摂取量に合う よう適応する仕組み,ということになる.この経 路は摂食と絶食によりある程度調整されている が,その調整は完全なものではないので,食事タ ンパク質が処理された後も,空腹状態までアミノ 酸酸化が引き続いて起こる.
重要 なのは,習慣的摂取量に特有の適応速度は,食事 タンパク質摂取量の変化または摂食と絶食に反 応してごくゆっくりとしか変化しないことであ る.そのために起こる重要な現象は以下の2つである.まず,摂取量が習慣的摂取量より少なくな ると組織タンパク質が動員され,低摂取量に適応 するまでは負の窒素出納となる.これについては すでに易動性タンパク質貯留として確認されてい る.Millward & Rivers18)の適応的要求モデルで は,最小必要量よりも高い摂取量では,新しいレ ベルへの完全な適応には,摂取量に合った適応的 代謝要求量の変化だけでなく,適応への移行の間 に失われる多くの組織窒素の補充も含めるとして いる.しかし,この仮説を支持する実験的証拠は なく,このことが証明されなければ,体タンパク 質が満たされない状態は不利であるとみなされる にちがいない.
次に,適応的なアミノ酸酸化の速度は空腹状態 になってもある程度持続するため,習慣的摂取量 の変化に応じて変動する組織タンパク質の損失と 窒素の排出が生じる.そのため,適応的代謝要求 モデルには空腹時の損失を置換する正味のタンパク質合成の要素を含める.その程度は,食事摂取 パターンにより,また習慣的タンパク質摂取の量 と質(アミノ酸スコア)により,複雑に変動する.
1-3-2 エネルギーとたんぱく質要求量
食物摂取量全体は,ほとんどの場合エネルギー 支出量によって決まり,もっとも大きな変動は活 動量の差を反映したものである.活動量が多い人 のほうが多くのエネルギーを必要とし,多くの食 物を摂取し,タンパク質の絶対的摂取量が多くな る.活動量が増えた場合に,アミノ酸と窒素の要 求量増加は(仮に増加したとしても)エネルギー 要求量の増加よりもはるかに小さいので,窒素要 求量を満たすのは簡単になり,食事のアミノ酸パ ターンはそれほど重要な問題ではなくなる.対照 的に活動量が低下すると,食物の摂取量が低下し タンパク質の絶対的摂取量が低下する結果,食事 によって供給されるアミノ酸パターンと身体が要 求するパターンとの間の相対的不均衡が顕在化し てくる.したがって,食物の摂取量が少ない場合, 活動量が多かったときにはタンパク質として十分 であった食事でも,活動量が低い状況では十分で はなくなることがある.
2 指標設定の基本的な考え方
乳児に目安量を、1歳以上の全ての年齢区分に推定平均必要量、推奨量及び目標量を定めること とし、耐容上限量はいずれの年齢区分にも定めないこととした。 たんぱく質の栄養素としての重要性に鑑み、全ての性・年齢区分において、数値の算定に当たっ ては四捨五入でなく、切り上げを用いた。また、必要に応じて、前後の年齢区分における値を参考 にした数値の平滑化も行った。
3 健康の保持・増進
3─1 欠乏の回避
3─1─1 必要量(たんぱく質維持必要量)
3─1─1─1 窒素出納法によるたんぱく質維持必要量:
特に性差及び年齢差について たんぱく質の必要量は、窒素出納法を用いて研究が進められてきた。各国の食事摂取基準は、窒 素出納法によって得られたたんぱく質維持必要量を用いてたんぱく質の必要量を算定している。具 体的には、これらの測定結果に基づき、アメリカ・カナダの食事摂取基準では 19 歳以上の全ての 年齢区分において男女ともにたんぱく質維持必要量(平均値)を 0.66 g/kg 体重/日としており 1)、 2007 年に発表された WHO/FAO/UNU によるたんぱく質必要量に関する報告でも同じ値を全 年齢におけるたんぱく質維持必要量としている 2)。また、ほぼ同様の値を用いて、イギリスは NRI(nutrient reference intake)を、オーストラリアは RDI(recommended dietary intake) を定めている 3)。
また、15〜84 歳を対象として行われたメタ・アナリシス(28 研究、合計対象者数 348)は、 維持必要量は 0.66(平均、95% 信頼区間は 0.64〜0.68)g/kg 体重/日であったと報告している(表 1)4)。
また、このサブ解析では、性差、年齢差〔若年・中年(60 歳未満)と高齢者(60 歳以上)の間〕は共に認められなかった。なお、窒素出納法を用いて高齢者を対象としてたんぱく質の維持必要量を測定した研究の中には、0.83 g/kg 体重/日、0.91 g/kg 体重/日といった高い値を報告した研究もあるが、この理由についてはまだ十分には明らかになっていな い 12,13)。
しかしながら、窒素出納法の実験は、全て良質のたんぱく質を用いて行われている。したがっ て、この値をそのまま食事摂取基準の推定平均必要量とはできない。そこで、ここではこの種の研 究で得られた数値をたんぱく質維持必要量と呼ぶことにする。
3─1─2─2 推定平均必要量
3─1─2─2─1 維持必要量
・良質な動物性たんぱく質における維持必要量 前述したように、アメリカ・カナダの食事摂取基準では 19 歳以上の全ての年齢区分において男 女ともにたんぱく質維持必要量(平均値)を 0.66 g/kg 体重/日としており 1)、2007 年に発表さ れた WHO/FAO/UNU によるたんぱく質必要量に関する報告でも同じ値を全年齢におけるたん ぱく質維持必要量として用いている 2)。また、ほぼ同様の値を用いて、イギリスは NRI を、オー ストラリアは RDI を定めている 3)。さらに、前述のメタ・アナリシスでも、成人で 0.66 g/kg 体 重/日 4)、小児で 0.67 g/kg 体重/日 5─11)と報告されている。 以上より、1歳以上全ての年齢区分に対して男女ともに、たんぱく質維持必要量を 0.66 g/kg 体重/日とすることにした。 ただし、窒素出納法は良質な動物性たんぱく質で行われ、その利用効率(消化率)は 100% と 見積もれる。したがって、この維持必要量は、良質な動物性たんぱく質における維持必要量であ る。
・日常食混合たんぱく質における維持必要量
成人を対象として日常食混合たんぱく質の利用効率を実測した研究では平均 92.2% と報告されている 24)。そこで、日常食混合たんぱく質の利用効率を 90% と見積もった。また、1〜9歳小 児における利用効率には、9〜14 か月児について検討された結果(1歳児における体重維持の場 合の利用効率が 70%)5)を用いた。体重維持の場合の利用効率は成長に伴い成人の値(90%)に 近づくと考え、表 4 に示す値を用いた。
日常食混合たんぱく質における維持必要量は、すなわち、
(維持必要量)=(良質な動物性たんぱく質における維持必要量)/(日常食混合たんぱく質の利用効率)
とした。
ところで、たんぱく質維持必要量は kg 体重当たりで報告されている。そこで、これに参照体重 を乗じて1人1日当たりのたんぱく質維持必要量とした。すなわち、
(維持必要量(g/日)=(維持必要量(g/kg 体重/日)×(参照体重(kg))
とした。
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