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昆虫の面白さに改めて気づかされた本

私は昆虫が好きである。

子供のころから昆虫が好きで
よく虫捕りをしていたし、
昆虫の図鑑を眺めるのが好きだったので
いつの間にか「昆虫博士」などというあだ名を
拝命したこともある。

そんな私も中高生になった頃には
昆虫よりも釣りに興味を持つようになり、
心の中にある昆虫への興味は薄れていた。

だが、周りの友人たちのように昆虫を嫌悪したり
恐れたりすることはなく、
興味の対象としてずっと見続けてきた。

そうして大人になり、結婚し子供が生まれると
子供が昆虫に興味を示すようになった。

息子とバッタ採取に出かけたり、
クワガタを獲りに行ったりする中で
私の昆虫への興味が再び湧き上がってきて
今に至っている。

とは言え、特別なことをしているわけではない。

趣味としてオオクワガタをブリードしていたし、
暖かい時期には娘と蝶を採りに行ったりするぐらい。

後は、時々昆虫館に行ったり昆虫関連の本を
読んだりして密かに昆虫の世界を楽しんでいる。

そんな私であるが、先日とある本に偶然出会い
読んでみた。

恐らくこの記事を読まれている大半の方は
昆虫が苦手だと思うので、
こんな本に出会っても読もうと思われないだろう。

だが、本書は昆虫が苦手な方にこそ
ぜひ読んでもらいたい本なのだ。

それはなぜか。

昆虫の面白さが本書の中には驚くほど
詰まっているからである。

私はこれまで昆虫の面白さを伝えるような
本や動画を何度も観たことがある。

例えば息子が小さい頃に買った図鑑には
DVDが付属されており、
その中には世界の珍しい昆虫が
紹介されているものも少なくなかった。

確かにそれらに紹介されている内容も
面白かったのが、
私は何だかずっと腑に落ちずにいた。

それは、どれも珍しい昆虫の行動を
擬人化して伝えていたからである。

もちろん、これらは子供向けのコンテンツなので
擬人化することでより具体的に
イメージを持ってもらいやすくしようと考えて
あえてそうしているのであろう。

だが、昆虫の行動を擬人化することで
昆虫の面白さが半減すると私は思っている。

なぜなら、昆虫が起こす珍しい行動を
擬人化してしまうことで
どれも昆虫が「生きる」ということに対して
持っているミッションが見えなくなるからである。

例えば私たちにとって身近なミツバチを例に
考えてみよう。

ミツバチにとって大きな敵一つが
肉食であるスズメバチである。

しばしばスズメバチはミツバチの巣を襲い、
その中にいる幼虫を捕食することで知られている。

スズメバチに比べるとミツバチは体も小さいし、
スズメバチのような強靭なアゴも持っていないので
まともに1対1で戦ったならば簡単に負けてしまう。

そこでミツバチたちは集団でスズメバチを囲み
体を動かして発熱することで
スズメバチを熱で殺そうとするのである。

この話は有名なので一度は聞いたことがある方も
多いかと思うが、
実はこの作戦をとる際にも味方のミツバチは
スズメバチにかまれたり、
自ら出した熱で自らも死んでしまう個体が
出てしまうことがある。

このようなシーンに出くわしたとき、
私達人間はついドラマのように捉えて、
お涙頂戴の話に持って行こうとしがちである。

確かに擬人化して考えるならば、
自分の子供たちを守るために
親が身を挺して敵と戦い、
その結果散っていったように見える。

しかし、昆虫たちにとってはそのようなドラマは
何の意味もなさないものなのだ。

昆虫たちが絶対的に持っているミッションは
”自分たちの遺伝子をいかにつなぐか”に
尽きるからである。

例えば、先ほどのミツバチの例でいうならば
戦いの末死んでしまったミツバチは
巣の中にいる幼虫からすれば兄弟になる。

私達人間からすれば兄弟というのは
全く別人格であるが、
昆虫たちにとってみれば兄弟というのは
同じ遺伝子を次に残すための分身のような
モノに過ぎないのである。

そもそもスズメバチと戦っていたのは
いわゆる働きバチ(メス)なので
生殖行動には一切関与しないし、
極端な言い方をすれば、遺伝子を後世に残すために
犠牲になるべくして生きているとも言えるのだ。

なんだかこのように言うと残酷な仕組みのように
思えるかもしれないが、
これこそがミツバチが選択した
遺伝子を後世に残すための戦略なのである。

そして、このように昆虫が持ったミッション前提に
昆虫たちの面白い戦略を見ていくと
その面白さが驚くほど見えるようになると
私は思っている。

今回読んだこの本は筆者の丸山宗利氏が
昆虫の分類学に携わってる方でもあり、
九州大学の大学博物館で教員をされている方なので、
妙な擬人化をすることなく
昆虫の面白さがとても伝わってくる内容であった。

「昆虫の本なんてとても読めない」と
思われるかもしれないが、
私達が住むこの世界には私達哺乳類が約6000種、
昆虫は200万~300万種が存在していると言われている。

まさにこの世界は昆虫の世界でもあるのだ。

ある意味昆虫の面白さを知ろうとすることは
世界の面白さを知ることだとも言えるだろう。

そんな面白い昆虫の世界をぜひ本書を通して
覗いてみてほしい。

ちなみに私が小学生の頃、
クラスで育てていたモンシロチョウの幼虫が
サナギになったかと思うと、
しばらく経つとその中から何匹もの
ハチが出てきて騒ぎになったことがある。

今となっては蝶の幼虫に寄生するハチなど
ごく自然なものとして受け止めているが、
当時の私達にとってはこの出来事は
なかなかショッキングだった記憶がある。

この時私が先生であったならば、
この出来事から寄生する昆虫の面白さを
子供たちに伝えてやれたのかもしれない。

この面白い世界を子供たちに気づいてもらうためにも
一人でも多くの大人がまずその面白さに
気づいてほしいものである。

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