娘の自転車練習で気づいたこと
5歳の娘は自転車の練習をしている。
ここ数週間、毎週末私はその練習に
付き合ってきた。
私たちが子供の頃は自転車の練習というと、
ひたすらにコツをつかむまで
自転車に乗り続けたものであるが、
今の時代はそんなことをしなくても
簡単に乗ることができる。
なぜならストライダーがあるからだ。
ご存じない方もいらっしゃるかもしれないが、
ストライダーとはペダルのない小型の自転車である。
ペダルがなくてどうするのかというと、
足でトントンと地面を蹴って前に進むのである。
普通の自転車でこれと同じ動きをしょうとすると
ペダルが邪魔でできないのだが、
ストライダーなら足の可動域が広がって
案外スピードを出すこともできる。
これを乗る練習をすれば、
知らぬ間にバランスを取る感覚が身に付くので
自転車に移行したときに
ハードルが大幅に下がるのだ。
実際、息子はこれにしばらく乗っていたおかげで
自転車を買って初めてまたがった時から
乗ることができた。
その経験があったので、娘にはしばらく
ストライダーに乗らせて様子を見ていた。
最初は恐る恐る前に進んでいた娘も
車輪が転がりスムーズに前に進む感覚が
面白いらしく、
1日もするとストライダーを上手に
乗りこなせるようになっていた。
そして、おおむね危なげなくストライダーに
乗れるようになったので、
次に息子のおさがりの自転車のサドルを下げて
乗せてみることにした。
ところが、息子の時のようにスムーズにいくかと
思いながら見ていたがどうもうまくいかない。
しっかりと補助していれば進むのだが
こぐことばかりに集中してしまい、
バランスを取ることがおざなりになってしまうのだ。
私が背中を押すので漕がずにバランスを
取ることだけに集中しろと言っても
どうもストライダーと勝手が違うらしく
上手くできないようである。
結局その日は娘を補助しながら
何度も道を往復したのだが、
あまり明確なコツをつかむことができず、
中途半端な体制で練習し続けた私の腰が
悲鳴を上げただけで終わってしまった。
息子が自転車に乗れるようになったのは
年長の歳だったので、
今の娘とほとんど時期的な条件は変わらない。
もちろん兄妹とはいえ、体格に差はあるので
一概に比較はできないが、
息子が最初に自転車に乗った時は
あまり苦戦しなかったことを思うと、
体格意外に何かうまくいかない要素があるはずである。
そこで、その日の練習を思い返してみると
娘はペダルをこぐことばかりに集中していて
私はそれを何度も指摘していたことに気が付いた。
ではなぜ娘はこぐことばかりに集中したのだろうか。
それはペダルをこぐことに
全く慣れていなかったからである。
息子は小さい頃に小さなペダルをこいで進む
車の形をしたおもちゃによく乗っていたが、
娘が生まれたぐらいのタイミングで
それを手放していたので、
娘はこれまでペダルをこぐという経験が
ほとんどなかったのだ。
それに気が付いて、
昨日の練習では方針を変えることにした。
まずはペダルをこぐことに慣れるために
あえて自転車に補助輪をつけて
ペダルをこぎながらハンドル操作をする
練習に特化してみたのである。
最初は補助輪がついていながらも
上手くこぐことができなかった娘であるが、
何度かやっていると徐々にコツをつかみ
すいすいとペダルをこぎながら
ハンドル操作ができるようになった。
とはいえ、まだまだペダルをこぐ力が弱く
少し傾斜のある場所に差し掛かると
一気に進めなくなってしまう。
そこで、次はひたすらに漕ぐトレーニングを
することにした。
車が入ってこない100mほどのストレートの道を
娘と共に何度も往復して、
そのタイムを競ってみたのである。
次こそはタイムを縮めてやると
意気込む娘。
何往復かするとさすがに娘も足が疲れたらしく、
その日の練習は終了したが、
かなり危なげない感じになっており
この様子だと来週にでも補助輪を
外して乗れるようになるであろう。
練習を終えてヘルメットを外す娘の顔は
なんだか達成感のようなものに
満ち溢れていた。
私たちは何かうまくいかないことに
直面したとき、「なぜうまくいかないのか」を考え、
そして行動している。
しかし、その仮説がいつも正しいとは限らないし、
必ずしも前例通りにいくわけではない。
仮説の検証をして上手くいかなかったならば
新たな仮説をしっかりと立てて、
再検証をしなくてはならないのだ。
そのプロセスは多くの場合エネルギーが必要となる。
上手くいかない原因となる要素を変化させて
何度も検証をしなくてはならないからである。
中にはその過程で挫折してしまう人も
いるであろう。
しかし、その検証を乗り越えた先にある
達成感は間違いなく嬉しいものである。
今回の話では娘が仮説検証をしたわけではないが、
娘自身も「なぜうまく乗れないのか?」を考え、
そして悩んでいたに違いない。
その答えが見つかっただけでも
娘にとっては十分な達成感だったようである。
これは子供たちに対してだけの話ではない。
職場で部下に対しても、
上手くいかないことへの仮説検証をサポートして、
自分なりに答えにたどり着かせてやることで
達成感を感じさせてやることが
私たち上司のミッションなのだ。
来週は土曜日の朝からまた練習することを
娘と約束したが、
次こそは補助輪なしで乗ってやると
気合いに満ちた娘の顔は
親ながら見ていて頼もしかった。
子育ては本当に色んな事に気づかせてくれるなと
改めて感じた日曜日であった。