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広い視点で見てみると見えるもの

昨日仕事で工場に入ったときのこと。

とある作業を作業員の方に依頼していると
その方のすぐ横にスポットクーラーが置かれていた。

あまり工場になじみのない方には
ピンとこないかもしれないが、
工場などで決まった場所で作業をする人の
作業環境を保つため、
個人用のエアコンのようなものが多くの工場では
導入されている。(下記のようなもの)

工場の敷地面積は広いので、
その空間全体に空調をかけるとなると
莫大なコストがかかってしまうが、
作業員の方がいるところだけを冷却すれば
コストも抑えられるし、作業員の方も比較的快適に
仕事をすることができる。

作業員の方が作業をしてくれている数分の間、
私はこのスポットクーラーを眺めていた。

するとふとあることに気が付いた。

下記の画像を見て頂いてわかるように
スポットクーラーには二つのダクトがあるのだが、
てっきり片方は吸気をして片方で排気をしているのだと
私は思っていた。

しかし、両方のダクトから風が出ていたのである。

両方から風が出るとはどういうことか?と思い
両方のダクトから出てくる風を確認すると
あることが分かった。

それはまっすぐ上に伸びたダクトのモノは生暖かく
斜めに向いた人に向けられるダクトは
冷たい風が出てきているということである。

これはよく考えてみれば当然の話である。

本体で吸気した空気が持つ熱は
エアコンを通したからと言って
どこかに消えてなくなるわけではない。

その熱は何かをキャリアとして排出しないと
エアコン自体がいくらでも暑くなってしまう。

なので熱を排出する空気の流れが
必要になるのだ。

これは私達が屋内で使用しているエアコンも
全く同じ。

室外機がその役割をして交換して出た熱を
外に排出しているのである。

スポットクーラーの場合はそれが同じ場所から
出ているのでそのことに気付きやすかったのだ。

だが、ここであることに気が付いた。

このスポットクーラーは作業員の方にとって
冷たい空気を自分の元に提供してくれるものであるが、
目線を工場全体に向けてみると
スポットクーラーを何台動作させたとしても
工場内の空気が冷たくなることはない。

それは同じ空間に熱が放出されているからである。

スポットで当てられた冷気はすぐに
周りの空気の熱を奪い温かくなるし、
エアコンから放出された熱も同じく
外気に混ざって薄まっていく。

結局プラスマイナス0になるのだ。

では室外機のように暖かい空気を
工場の外に出すようにすればどうか。

確かにそうすることで工場内の空気は
冷たくなるかもしれない。

だが、それは工場の外の空間で見た時には
結局プラスマイナス0なのだ。

これはとても当たり前のことであるし、
ここまで約1000文字も使って説明するようなことかと
思われるかもしれない。

だが、これは何もエアコンに限った話では
ないのだ。

例えば私は仕事で商品を開発しているが、
とある商品を開発して世に出したとする。

私自身はその開発にとても労力をかけて
ようやくこぎつけた発売なので
とても感慨深いものがあるだろう。

しかし、これは新しいモノが開発されることで
これまで世の中にあった原材料が一つの場所に移動して
組み合わされて販売され、
顧客の元にに移動して使用されて、
最終的には廃棄されていくという流れを作ったにすぎない。

モノを組み合わせて新しいモノを作ることは
とても面白いことではあるが、
分子・原子レベルで見てみると
少し場所が移動したに過ぎないのである。

「いやいや。モノは使い終わったら廃棄されて
焼却されるではないか」

そう思われる方もいるかもしれないが、
焼却して燃焼することで
別に原子自体が消えてなくなるわけではない。

燃焼するということは単純に考えると
そのモノの分子を酸化させて
二酸化炭素をはじめとするガスに変換するプロセスに
過ぎないからである。

原子の目線から見てみると
モノに使われていた炭素が燃焼されたことで
二酸化炭素というガスに形を変えただけなのだ。

つまり、何が言いたいかというと
私達は一生懸命日々何かをしているが、
それは大きな目線で見てみると
ほんの少しだけそこにあるモノの位置を
動かしているだけだということである。

こんなことを言うと何だか自分のやっていることを
否定されたような気分になるかもしれない。

だが、この視点はとても大切な事だと
私は思うのだ。

私達が人生でできる事などたかが知れている。

どうあがいても1000年は生きられないし、
人一人が一生懸命一日動いたところで
動かせるものはごくわずかなものである。

そのわずかなエネルギーを使って
動かした結果、
いずれその動いたモノが散り散りになるとしても
自分が動かしたいと思えるものを
探すことこそが人生なのではないだろうか。

まさにスポットクーラーで
特定の人を冷やしているようなものである。

広い目線で見ればちっぽけで
何の意味もなさそうに見えるけれど、
そんな中でも自分がやりたいと思えることに
エネルギーを投下すべなのだ。

会社や組織で行動をしていると
色んな行動に対して大義名分が用意されており、
その行動をすることがいかに素晴らしいか
説明されている。

だが、それも広い目線で見れば結局
ちっぽけなことに過ぎない。

広い目線で物事を見るということは
ニュートラルな視線で物事を見るには
とても大切なことなのだ。

偶然現場で見たスポットクーラーが
そんなことを教えてくれているような気がした。

今日もちっぽけながらこの記事が
誰かに届き、ほんの少しでも読んだ方の心に
残れば嬉しく思う。

ちなみにかなり以前に某大手家電メーカーの工場を
訪問させて頂いたことがあり、
その工場は天井が低く設定されており
フロア全体で空調管理がされていた。

同じ工場でもこんなに違いがあるのかと
その時はただただ感心するとともに
何だか自分の会社の工場が劣っているように
思えたものであるが、
これも広い目線で見れば大した差ではない。

とはいえ、この経験をもとに
自分が家を建てる時に
リビングを吹き抜けにしたいという妻に反対し
天井を高くしないことに
こだわったのはここだけの話である。
(私が家を作る際に唯一口出ししたポイントでもある)



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