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異なる高さのハードル

昨日出張に出た際、とある駅で電車を乗り換えた。

その駅はいわゆるターミナル駅で
色んな行き先に行く電車が出ているので
朝から多くの人であふれていた。

私が次に乗り継ぐ電車まで10分ほど時間があったので
念のため用を足しておこうとトイレに向かった。

すると、トイレの入り口に行列があった。

確かに利用者が多い駅なのはわかるが、
男性用トイレで行列ができるのは珍しい。

一体どういうことかと思い見てみると、
その行列は個室トイレを待つ人の列だと
ちゃんと明記されていた。

個室トイレを待つ人のレーンと、
小用のみの人がいくレーンが分けられており、
そうすることでどちら側の人も
余計な気遣いをしなくてもよくなる。

非常に理にかなった方法だと思いながら
用を足して、手を洗おうとすると
その洗面台はちょうど個室トイレを待つ人の
列の目の前にあった。

別に彼らを横切るわけではないので
邪魔になるわけではないのだが、
個室トイレ待ちをしている人たちを目の前に見ると、
何だか妙な気持ちになってきた。

なぜなら、この列はほぼ間違いなく
「便意をもよおしている人の列」だと
言えるからである。

この感覚は男性特有のモノかもしれないが、
私は公共の場所で大用を足すことに
大きな抵抗がある。

もちろんやむを得ない場合には
することはあるが、
基本的には外ではしたくない。

これは子供の頃に学校で大用をして
仲間にそれをからかわれたことが
あるからである。

個室トイレから出た後、「やめろや」などと
笑いながら彼らには応対したが、
結構この経験は私の心に強く印象付けられ
大人になった今でも外で大用を足す事に
強い抵抗があるのだ。

なので、洗面台の前に並ぶ人たちの列に
自分が入っていたらと想像すると
何だかとても嫌な気持ちになる。

だが、当然ながらそこに並ぶ人たちは
何もそんな様子はない。

そのギャップに私は何とも言えない
不思議な感覚を持った。

薄々自分でもセンシティブになりすぎだと
思っていることに対して、
他人が当たり前の様にそれを行っている姿をみるのは
何とも奇妙な気持ちになるものである。

この妙な気持ちを抱えながら次の電車に
乗り継ぐとふと私の頭の中に
昔の経験が蘇ってきた。

まだ大学生だった頃、
クリスマスイブの日に私は当時の彼女と
大阪の街でデートをしていた。

デートと言っても買い物をして
食事をするだけであるが、
クリスマスシーズンというだけで
街の雰囲気も変わるのでそれを楽しんでいた。

そうして食事を終えて帰ろうかと
駅まで向かう際に、
私達は近道のために裏通りを通って
向かうことにした。

その道沿いにはいわゆるラブホテルが
何件も並んでいるが、
私たちと同じように駅に向かう人が
多く通行をしているので
特に抵抗なくその道を選んだ。

だが、通りながら私は奇妙な光景を見た。

ラブホテルの前にカップルの
列が出来ていたからである。

クリスマスイブはホテルがいっぱいになると
過去に聞いたことはある。

だが、それは高級ホテルなどの話だろうと
思っていたのに、
そこには紛れもなくカップルの列があった。

その光景を見ながら私は
自分ならばこの列にはとても並べないと思った。

なぜならこの列に並ぶ時点で
自分たちが今からすることが周りに
わかってしまうからである。

先ほども書いたようにこの道は裏路地ながら
駅に向かう人たちが結構行きかっている。

その人たちに「私達は今からSEXをします」と
宣言するようなことは
とても恥ずかしくてできないと私は思った。

そのことを彼女に言うと、「私も無理」と
言っていたので、
私は内心安堵した記憶がある。

言うまでもないが、性行為に及ぶことは
何ら悪いことではない。

だが、それは人に宣言してするようなものでは
ないと私は思っている。

別に列に並んでいた人たちも宣言をしたくて
しているわけではないだろうし、
本音を言うならば隠れていたいだろう。

だが、その恥ずかしい思いに対するハードルは
私が思っているものと比べれば
彼らのものは低いということである。

人は誰しも色んな行動に対して異なる高さの
ハードルを持っている。

その高さは人によってまちまちであるが、
自分にとってあまりに高いハードルを
やすやすと超える人を目の当たりにすると
私はいつも何とも言えない奇妙な感覚に
陥ってしまう。

長らくこの奇妙な感覚を感じることなく
生きてきたが、
偶然入った駅のトイレで久々にこの感覚を
思い出してしまった。

今日もどんな一日が待ち受けているかは
わからない。

だが、私なりのペースでハードルを跳んでいこうと思う。

もちろん外で便意を感じないように
しっかり対策したうえで出かけるのは
言うまでもない。



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