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2023年のPoeticsより、未来の仲間たちへ。

名著『ハードシングス』にのっていない、レアかつ、なんだよこのう〇こみたいな出来事たちは・・・というハードシングスたちをかいくぐって、ようやくスタートアップっぽくなってきたなという2023年。何よりチームメンバーが笑ってくれている忘年会の写真を見て、みんなで一つも二つも三つもステージを進んできたな、というよろこびが大きく実った一年でした。

さあ、今年はもっとその先へみんなで行こう!という意欲がわいてくることがとても幸せなのですが、はたして「もっとその先」とはいったいどこなのか。2023年を振り返りながら、Poeticsという会社が向かう先を記述してみたいと思います。

社名変更からB Dash Camp Pitch Arena優勝

PoeticsはもともとEmpathという社名で、音声からの感情解析を祖業としていました。研究開発中心で、課題解決型のプロダクトまでなかなか至らずに苦戦していましたが、2021年に新事業として商談解析AI JamRollの開発をスタートしました。

JamRollの開発自体は順調に進んでいったものの資金面での不安がありました。また、もともとの祖業である音声感情解析に関しては研究開発の投資も継続して必要ということもあり、2023年5月に音声感情解析事業を株式会社シーエーシー様に事業譲渡する運びとなりました。

このタイミングで社名をEmpathからPoeticsに変更、まったく社名の認知もない状態からJamRollを成長させていくフェーズになりました。

そうした全く認知がない状況のなかで、B Dash Camptのピッチに参加させていただき、ありがたいことに優勝をさせていただきました。これを機にPoetics、JamRollという名前が少しづつ広がっていくとともに、JamRollの売上も加速度的にあがっていきました。

加齢とともに筋力もなくなり、腕に力が入っていない筆者。ただしメガジョッキはまだ持てます。

5年前にヨーロッパ最大規模のコンテストでアジア勢として初優勝したときよりも、はるかに勝負しにいったコンテストでした。ここで勝てるかどうかでJamRollの今後の成長速度が決まる、いまはどうしてもカンフル剤が欲しい・・・Q&Aではこれまで海外コンテストで戦ってきた経験と、それに加えてAIと哲学の融合という会社としての大きな世界観を率直に語ることが活きたように感じています。これまで突き当たってきた困難、期待に応えることができずに袂を分かつことになった仲間たちのイメージが時折脳裏にちらつきながらも、この舞台に立てている今がただただ嬉しかった。

ICT Springで優勝した際にどやっている筆者。このあと、下駄でこのパネルをもって、1時間弱深夜のルクセンブルク市内を歩くとになるとは知る由もない。。

ここからJamRollは成長の階段をのぼっていきます。

IVS3位入賞と世界観の大きさの問題

B Dash Campを終えてすぐに、コロナ後はじめてベイエリアへと飛び立ちました。かつては1年の半分近くを海外行脚についやしていたのですが、久しぶりにベイエリアの第一線で活躍されている方たちと交流することで、ともすれば目の前のことのみを注視してしまう視線を上へ上へとあげることができました(もっていったズボンのお尻が破れていたこともあり、シリコンバレーの風を直接地肌で体感できたことも風通しのよさの一因でしたが、それはまた別の話・・・)。

このときはお尻がやぶけていたので隠すのに必死だった。。

ベイエリアは猫も杓子もGen. AIということで、まさに生成AIが世界を席巻しようとしていく渦中。そんななかで、日本という特殊地理的な状況におかれた一つのスタートアップをどこまで未来へとつなげられるかは、経営者である僕の思考と世界観の広さ次第なのだなと痛切に感じました。目の前の個別具体的なことにしっかりと目を向けながらも、大きく大きく考えることでしが、Poeticsの未来はつながっていかない。

帰国してからはすぐにIVS Launchpad。結果は3位入賞で、とても悔しかったのですが、当時できるベストな構成で勝負できたと思っています。

実際、Launchpadでの自分のピッチを終えた直後からJamRollのお問合せをいただくようになり、その後の商談でも「IVS見ました!」とお声がけいただくことが非常に増えました。B Dash Campの優勝に加えてLaunchpadで認知度がさらにあがることで、JamRollの成長曲線は右肩上がりになっていきます。

とはいえ、僕らの本質であるAIの会社であるという側面と、人文科学×AIという世界的にも非常にチャレンジングかつ、AI研究がその萌芽のころより歩んできたある種の王道という本質を突き進んでいることをうまくアピールできたとはいえません。もっともっと大きな世界観で全体をとらえ、言葉を紡いで実行していかないとどんどん小さくまとまってしまう・・・そんな危機感が強くなっていった時期でもありました。

メンバーの拡張とGoogle for Startups

一方でPoeticsは創業以来、もっとも人数が多い体制へと移行していきます。パートタイム、業務委託、フルタイム、インターンを含めて、50名近くの会社へと成長していきました。二年前まではフルタイムのメンバーも一桁台まで減り、毎週送別の花を渡していたのがウソのようです。

研究開発色が強かったPoeticsですが、SaaSスタートアップやメガベンチャーでビジネスサイドの経験と実績をもつ新メンバーが多く加入してくれ、SaaS事業の伸ばし方・戦い方も少しづつそれらしくなってきています。

開発メンバーも増えて、経験値のあるメンバーと若手がともに議論しながら高速で開発を進めてくれています。本当にいつも頼りっぱなしです。顧客要望やビジネスサイドの意見を租借しながら、しっかりと議論して機能開発を進められています。

さらに新たな研究開発者の加入により、音声・言語解析AIの研究領域も大きくなってきました。特に9月にはAWS LLM開発支援プログラムにも採択。これまでの書き言葉偏重モデルから口語に特化したビジネス向けのVertical LLMの開発も開始しました(エクリチュールから話し言葉へ)。

一方で僕らは相変わらず北参道の狭いマンション・オフィスが本社。。フルリモート体制なのでなんとか人数おさまっているものの、まあ、テンションがある職場かと言われれば、ちょっと回答に困る・・・実際、大手企業の方が訪問したいと言って来てくれると、ほぼ100%「あ、アットホームな感じですね・・・」と顔を引きつらせながら回答してくれます。そりゃそうだよ、ここでメシつくったりしてるんですから「アットホーム」にきまっています・・・

北参道オフィスにて筆者の創作麻婆豆腐の実験体にされるメンバーたち。

そんななか、Google for StartupsのResidency Programにお誘いいただき、渋谷ストリームにあるGoogle Campus内に自社の席を持てることに!QOL爆上がりです。

Google for Startupsのみなさまと明らかに本社にいるときとは表情の異なる弊社メンバーたち。

Google for Startupsには創業以来、本当にいろんな局面でサポートをしてもらっています。2018年にGoogle Launchpad Acceleratorの日本一期生として採択いただいて以来、数々のアクセラレーターでの支援やパネル登壇、サンフランシスコやテルアビブへのimmersion trip、VPの方々とのディスカッション、海外スタートアップとの交流、経団連のイベントへの登壇など、本当に多くの支援とチャンスをいただいています。

7月にはJamRollリリース1周年のパーティーをGoogle Campusで開催させていただきました。多くのJamRollユーザー、投資家の皆様、起業家、アーティストのみなさまにお越しいただき、Poeticsがこれからどんな航路を描いていくのかを日ごろの感謝もこめてお伝えできる最高の場となりました。

Google Campusで行われたJamRoll 1周年記念のパーティー。

Google for Startupsからのオープニングのプレゼンテーションをはじめ、Poetics卒業生でもあるweb 3スタートアップ、shiftbase CEOの志村侑紀さんのパネル、Sales Markerの小笠原さんとスマートキャンプの阿部さんとのSales Techパネル、そしてメインはスプツニ子!さん、アーティストの長谷川愛さん、ima CEOの三浦亜美さんとのAIとアートを横断するセッションと、幅広いテーマを俎上に挙げることで、Poeticsの目指す世界感の広さを皆さんと一緒に体感できるような設計を試みました。

スプツニ子!さん、長谷川愛さん、三浦亜美さんとのパネル。

ここで、僕はなぜ人文科学、とりわけ哲学とAIなのかという話の端緒を開こうとしたのですが、あまりうまく説明できず、コンピューターサイエンス側からはあまり注目をあびることのない、しかしほぼNLPおよびLLMの根幹的な考え方を先取りしていた言語哲学者に焦点をあてました。

テリー・ウィノグラートがかっこいい。

ビジネスの場で研究者を目指していた時代にふれた哲学者を言及することなど数年前なら考えられなかったことですが、今になって自分のバックグラウンドとPoeticsという会社の事業がしっくりとくる形で一体化しようとしていることを感じ、これこそ僕らならではの世界観の大きさたりえる、そう感じた1周年記念パーティーでした。

「もっとその先」: 知の総合格闘技としてのAI

Poeticsという社名やJamRollというプロダクトに込めた思いは別のところで書いているのでここでは多くを語りませんが、僕らPoeticsが目指しているのは人文科学やそれ以外の学問領域とコンピューターサイエンスを結合することによるAIの可能性の更新です。

LLMの根幹的な発想、それは言葉の「意味がわかる」ということを成立させる最小単位が単語ではなく文にあるというフレーゲやウィトゲンシュタインの言語哲学の伝統を無自覚的に引き継いでいると考えることができます。その一方で、自然言語処理はまだまだ分析哲学の知見を十分に活かせていない、ないしはそもそもその存在に気付いてすらいないという現状です。

ところが歴史をたどればAIという言葉が提起されたダートマス会議後の1960年代以降の第1次AIブームに目を向けたときに、一般問題解決器(GPS: General Problem Solver)を考案したハーバード・サイモンがGPS考案にさいしてラッセルとホワイトヘッドの『プリンピキア・マテマティカ』を参照したように、本来コンピューターサイエンスおよびAIは分析哲学と非常に密に接続していたのです。

しかしながら(ここからは大いに仮説、というか妄想です)学問の専門化が進み、実学としての工学とその他の学問分野との接続が薄まっていくことで、こうしたAIと哲学との結合はそもそも考えることすらされなくなっていった気がしています(ここは学問的には非常に興味のあるところで、いつか調べてみたい。今はすごく適当な仮説を述べています)。

これはEmpathとして音声感情解析AIを開発していた時に何度も持った実感で、それは多くの感情解析AI(Affective Computing)研究がそもそも感情とは何かという大きな問題から目をそらしているという実態でした。これはAffective Computing分野の創始者ともいえるMITのRosalind Picardからしてそうで、彼女のAffective Computingという著書そのもからして冒頭の章で感情がそもそも何なのかという問題は問わないことを暗に宣言しているのです。

もちろん感情が何かなんてわからなくても実用に足ればそれでいいじゃないかというプラグマティズム的な発想は十分に認められるべきと担保したうえで、それでも大きな問題から目をそらすことによって、そもそもAffective Computingで解析されている対象は本当にそもそも「感情」なるものなのか、それは本当に「怒り」なのか、そんな漠然とした状況の中でそもそも「感情」なるものの教師データなど作れるのか、という問いにAffective Conputingはぶちあたってしまう。

実際、2019年にケンブリッジ大学で開催されたAffective Computingの国際学会であるACII(International Conference on Affective Computing)の基調講演で、神経学者であり心理学者であるLisa Feldman BarrettはAffective Computingが心や感情なるものを検知しているわけではないという議論を心の構成主義の立場から論じましたが、これに対してRosalind Picardは完全に回答に窮してしまうという状況で、当時この様子を実際に見ていた僕は、ここに現状のAffective Computingの終焉を感じました(ただし、「現状」です。心とは、感情とは何かという大きな問題をしっかり引き受けていくことで、この「現状」が打破される可能性は十分にあると思っています)。

したがって感情とは何か、という大きな問題を向き合うことが非常に重要であるように、言語とは何か、書き言葉とはどういうもので話し言葉とどのように異なるのか、なぜ異なる話者が同じ単語を用いていても誤解が生まれるのか(言語ゲームを応用できる可能性)、またはそもそも聴覚構造はどのようにできておりどのように音声が言語として知覚されるのか、なぜ複数の音を同時に聞き分けられると同時にある特定の音に注意を向けることが可能なのか(志向性の問題)、コウモリの聴覚はなぜある点において人間より優れており、どのような聴覚構造を持っているのか・・・こうした大きな問題に取り組むこと、すなわちこの世界と人間に対する理解を深めていくことこそがこれからのAI研究にとって非常に大切であり、それはコンピューターサイエンスの内側の中に閉じるものではない。したがって、必然的にAI研究は学際的にならざるをえず、だからこそ知の総合格闘技なのです

感情解析研究を経て得たこの広さ、大きな問題に取り組む姿勢こそがPoeticsであり、だからこそ僕たちはビジネス、人文科学、コンピューターサイエンスにとどまらずその他学問領域をも横断することでAI開発をしていく民間の研究所をめざします。そしてそれは従来の大学という象牙の塔にとどまらず、ビジネスという場を通じて現実世界に対して価値提供をしていく組織です。

新しい仲間を探しています!

大きな問題と格闘するためには仲間が必要です。僕は本当にビジネスの知見がないので、事業開発、セールス、カスタマーサクセス、マーケティングの経験があるビジネスサイドの方々はもちろん、ソフトウェアの開発者、言語哲学の研究者、言語学の研究者、音声の研究者、動物行動学の研究者、神経科学の研究者、心理学の研究者、AI研究者など多種多様な仲間ととともに、世界に類例のない領域横断的な組織でAI開発をしていきたいと思っています。

それはビジネスを進めて世界と積極的に接しながらも、世界それ自体の探求を深めていく旅路です。

アカデミアからビジネスの世界に来た時は戸惑いと嫌悪感しかなかった自分ですが、いまではビジネスだからできること、アカデミアだからできること、逆にできないことも見えてきており、これからの企業はビジネスのフレームワークをどんどん越境することで世界に価値を提供するだけでなく、世界それ自体を深く理解するための装置になると考えています。

別に小難しいことはなくて、単にこの世界に興味があって、自分一人では知ることのできなかった世界にふれながら多様な背景をもった仲間とともに遊ぶように働くことを求めている人にとってPoeticsは最高の場になる・すると思っています。

それでも小難しいかもしれないです。そんな時は言葉を尽くすよりも、この忘年会でのみんなの表情をみてもらうのが一番だと思っています。こんな素敵な表情をしている仲間たちと日々過ごせていることが、なによりこれから一緒に働いてくれる未来のメンバーの皆さんへ一番伝えたいことかもしません。

形容しがたいいい写真。。





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