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BOOK REVIEW 「名作コピーに学ぶ 読ませる文章の書き方」

(鈴木康之 著/日経ビジネス人文庫/2008年)

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発行は2008年だけれど、2014年に第11版まで出ている良書。

著者は、40年以上にわたって広告界でコピーライターとして活躍した、鈴木康之さん。「広告批評」主催の広告学校で講師を務めたり、2011年には東京コピーライターズクラブの「コピーの殿堂」入りを果たした、凄腕だ。

鈴木さんが良いと思った広告コピーをピックアップ。それが出来上がるまでの過程を簡単に説明するとともに、どうしてこのコピーが素晴らしいのかを彼自身の言葉で解説し、コピーづくりのポイントを指南している。

挙げられているコピーはすべて、「なるほど…」と唸るような、納得感のある傑作揃い。そして、それに対する鈴木さんの、書き手への尊敬と、広告への愛情と、コピーライターとしての誇りにあふれた解説にしびれる1冊だ。

ここで扱っているのは、いわゆる「広告コピー」。ある企業のある商品、あるサービスをどれだけ魅力的に見せるかが勝負の、CMや、ポスターや、雑誌・新聞広告などの世界である。
私はそういうものを作っているいわゆる「コピーライター」ではないけれど、情報をより良い形で伝える文章を書くという点では、大いに共通している点があり、参考にしたいと手に取った。

同じことを伝えるにしても、言葉が違うだけで、まったく伝わり方が違う。伝わり方が違うと、人の動き方が変わる。
本書の最初に紹介されている事例を紹介しよう。

目が見えない物乞いが、「私は目が見えません」と書いた札を掲げ、目の前にお椀を置き、通行人からの施しを待っていた。ある日、それを見かけた詩人が、「その札の言葉を変えてみたらどうですか?」と提案する。物乞いはそれを承諾。詩人は彼のために言葉を書き直した。

するとどうだろう。それまで素通りしていた通行人たちが足を止め、次々とお椀にコインを入れていくではないか。さらには、物乞いに同情の言葉までかけていくようになったのだ。物乞いは詩人に尋ねる。「何と書いたのですか?」

札には、こう書かれていた。「春は間もなくやってきます。でも、私はそれを見ることができません」。

詩人が書いた言葉は、通行人に彼に対する憐れみを覚えさせ、施しという行動を起こさせた。お金をもらうという目的を果たすための、最適な言葉選びをしたのだった。

私たちの普段の生活でも、例えばレストランで「キノコとベーコンのクリームパスタ」と「香り高い新潟県産マイタケとシメジ、有機飼料で育った豚ベーコンの濃厚クリームパスタ」のどちらを選びたいかと言ったら、断然後者だと思う。

スーパーマーケットでも、「ブロッコリー148円」よりも「岩手県産・朝採れブロッコリー168円」を比べたら、20円高くても後者を手に取りたくなるはず。

「ペンは剣よりも強し」というが、本当に、言葉には人の心を変え、人を動かす力がある。この本を読んでいると、それを改めて思い知らされ、言葉を扱う仕事をする者として、とても勇気が湧いてくる。

ここで一つ、鈴木さんが「はじめてこれを読んだとき、あまりにお見事で、しばしふらふら、ただもうイヤになっちゃいました」と書いている、秀逸なコピーとその解説を抜粋したい。

児島令子さんという、著名なコピーライターの作品。ペットフードの広告コピーだ。

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<メインコピー>
死ぬのが恐いから、飼わないなんて、言わないで欲しい。

<ボディコピー>
おうちを汚すから飼わないというなら、犬はお行儀を身につけることができる。
留守がちだから飼わないというなら、犬はけなげにも、孤独と向き合おうと努力するかもしれない。
貧乏だから飼わないというなら、犬はきっと一緒に貧乏を楽しんでくれる。

だけど……死ぬのが恐いからって言われたら、犬はもうお手上げだ。
すべての犬は、永遠じゃない。いつかはいなくなる。
でもそれまでは、すごく生きている。すごく生きているよ。

たぶん今日も、日本中の犬たちはすごく生きていて、飼い主たちは、大変であつくるしくって、幸せな時間を共有しているはず。

飼いたいけど飼わないという人がいたら、伝えて欲しい。
犬たちは、あなたを悲しませるためにやっては来ない。
あなたを微笑ませるためにやって来るのだと。
どこかの神様から、ムクムクしたあったかい命を預かってみるのは、人に与えられた、素朴であって高尚な楽しみでありますよと。

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このコピーに対する、鈴木さんの解説の一部が、こう。

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ペットを飼わないでいる人に向かって書いているふりをしながら、すでに飼っている人の思いをこんなに深く表した文章はないのではないでしょうか。いや、ペットを飼っていながらここまで深く考えていなかった人たちに対して、思い方の道案内をしているのだと思います。

(中略)

死ぬのが恐いから とは刺激的です。旧来の感覚ではペットフード・メーカーのコピーとしては禁句だったかもしれません。少なくとも生き物の話では、マイナスイメージの危険な言葉です。
しかしボディコピーの中段でマイナスを補って余りある、犬の「生」の謳い上げをしています。

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これは2004年の作品で、本書で扱っているコピーはすべて2004年よりも前のものなのだけれど、不思議とどれも、古さを全く感じさせない。それは、それぞれのコピーが商品やサービスの本質をしっかりと訴えていて、それによって動かされるのもまた、人の心の本質の部分であるからなのだと思う。

永遠に変わらない、人の心の琴線に触れるもの。それを言葉一つで作ることができるって、すごい。言葉って、日本語っておもしろいなぁ。


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