#60「コミュニケーションにおけるナッシュ均衡・バブリング均衡とは?(ゲーム理論#3)」
「ナッシュ均衡」という言葉はゲーム理論の文脈でよく登場するが、実は日常生活のコミュニケーションにこそ、その本質がわかりやすく表れていることが多い。
ナッシュ均衡をひと言でまとめると「相手の戦略(行動方針)が固定されているとき、自分だけ戦略を変えても損をする状況」だ。これをコミュニケーション場面に当てはめると、「相手がどのように情報を発信し、どのように受け取るか」という戦略に対して、自分が一方的にメッセージの送り方や受け取り方を変えても、うまくいかない(あるいは利得が低くなる)という状態が起こりうる。これが「コミュニケーション戦略のナッシュ均衡」だ。
以下では、まずナッシュ均衡をざっくり振り返ったうえで、身近なコミュニケーションの事例をいくつか挙げ、それぞれがどのように“ナッシュ均衡的”な構造を持っているのかを考えてみる。最終的には、「悪い均衡」から「良い均衡」へどう移行できるのかという示唆も含め、日々のやりとりで使えるヒントを探ってみたい。
1. ナッシュ均衡のざっくりした概要
ナッシュ均衡とは、複数のプレイヤー(参加者)が戦略を選び合うゲームで「他者の戦略が固定されているとき、自分だけ戦略を変えても状況が良くならない」という戦略の組合せを指す。たとえば二人のプレイヤーAとBがいるとき、
AはBの行動を見て「それなら自分はこれがベストだ」と考える
BもAの行動を見て「それなら自分はこれがベストだ」と考える
という状態が同時に成立していれば、それはナッシュ均衡である。
ゲーム理論の例として有名な「囚人のジレンマ」では、お互いに協力する方がいいとわかっていても、相手が裏切るかもしれないリスクがある限り、自分も裏切りを選ばざるを得ない。その結果、両者が裏切ってしまう状態がナッシュ均衡になる──という具合だ。コミュニケーションの文脈でも、「どうせ本音を言っても信じてもらえない」「どうせあいつは信用ならない」と互いが考えてしまうことで、誰も正直に情報を共有しないという均衡が成立してしまうケースがある。これを「バブリング均衡(babbling equilibrium)」などと呼んだりもする。
2. コミュニケーション戦略のナッシュ均衡を日常に当てはめる
コミュニケーション戦略のナッシュ均衡というと、学問的には「チープトーク(cheap talk)」や「シグナリング(signaling)」といったモデルが取り上げられることが多い。しかし、もっと身近なところに目を向けると、たとえば「飲み会で誰が払うか」「友人が本音を隠すのはなぜか」「家族やパートナー同士でどうして遠慮し合うのか」といった局面は、いずれも相互依存の読み合いが発生しやすい。その場の駆け引きをゲーム理論的に眺めると、知らず知らずのうちにナッシュ均衡が形作られていることに気づく。
以下に、いくつか具体例を挙げてみよう。
2-1. 飲み会・食事会での支払い問題
状況例
AとBが二人で食事したあと、会計をどうするか悩む
Aは「自分が出したほうがスマートかもしれない」と思いつつ、相手に甘えられたら損と感じるかもしれない
Bも「割り勘を言い出すのはケチっぽいかな」「かといっておごられっぱなしは悪いな」と考えている
戦略の例
A: (1)「自分が払うよ」 (2)「割り勘にしよう」 (3)「何も言わず相手に任せる」
B: (1)「ごちそうされる」 (2)「自分も出す」 (3)「スルーする」
お互いに相手の出方をうかがっていると、なかなか会計がスムーズにいかない。Aが「相手が払うと提案してくれそうだから、言い出さずに待とう」と考え、Bも「Aが払うの好きそうだから任せよう」と考えると、結果としてどちらも口をつぐんで気まずい時間だけが流れる──これが一種のナッシュ均衡だ。一人が一方的に「じゃあ私が払う」と動いても、「なんだよ、そこまでされると申し訳ないし次どうすればいいんだ」と相手が思うかもしれず、むしろ微妙な空気になるリスクもある。
一方で、「最初から割り勘にしよう」とAが言い出し、Bも「わかった」と応じるパターンが確立すると、お互い無用な駆け引きを避けられるうえに気持ちよく支払いが進む。これは“割り勘”という戦略プロファイルがお互いにとって安定(相手が割り勘を支持しているなら、自分もそうしたほうがベター)となっているため、一度定着すると揺るがないナッシュ均衡として機能しやすい。
2-2. 友人にお金を貸す・借りるシーン
状況例
Aは急な出費でお金が必要になり、Bに借りようか迷っている
Bは貸してもいいが「本当に返してくれるのか」「ギクシャクするかも」と懸念している
戦略の例
A: (1)きちんと返済プランを提示して借りる (2)なんとなく借りる (3)そもそも他から借りる
B: (1)明確な返済条件を提示したら貸す (2)断る (3)適当に少額だけ貸す
曖昧な状態が続くと、「期日を決めずにちょっとだけ貸す」「返すとは言うがタイミングや額ははっきりしない」というバブリング均衡に陥りやすい。ここでAが一方的に「きっちり契約書を作ろう」と切り出すと、Bに警戒されるかもしれないし、「友達相手にそこまでやらなくても…」と思われる可能性もある。Bが「細かい約束なんていいから自由に使って」と言えば、今度はAが借りパク状態になるかもしれないし、後で返さなかったら友情にヒビが入る。
したがって、最初から「返済計画をしっかり立てる」「双方が納得するルールを作る」戦略を共有できると、後々トラブルを避けられる。その形が安定すると、どちらも一方的にごまかす戦略に走るメリットがなくなり、“正直ベースでのやりとり”がナッシュ均衡化する。友人や知人同士という微妙な距離感が故に、コミュニケーション戦略が複雑になる事例だ。
2-3. オンラインショッピングのレビュー
状況例
A(購入検討者)がネット通販サイトや口コミサイトで商品を探している
B(レビュー投稿者)はすでに商品を買った人だが、本当に正直な感想を書くかどうか迷う
企業からの依頼でサクラレビューを書く人もいるかもしれない
戦略の例
B: (1)正直なレビューを書く (2)報酬目的で誇大評価 (3)面倒だから書かない
A: (1)レビューを信じて購入 (2)レビューを疑って他の手段で確認 (3)そもそも買わない
お互いに「レビューなんて信用できない」「投稿してもどうせ見られない」と思えば、適当な情報が氾濫して誰も投稿も閲覧もしなくなるバブリング均衡に陥る可能性がある。逆に、レビューサイトが「公平で正直な投稿をするとポイントが貯まる」「サクラやウソ投稿には厳しい罰則やBANがある」といった仕組みづくりで、正直なやりとりをインセンティブ化すれば、投稿者は正直に書くのが得策となり、閲覧者も信用して参考にする。こうして“まともなレビューコミュニティ”がナッシュ均衡となれば、サイト全体の質が上がり、利用者が増える好循環に入りやすい。
2-4. グループ旅行の幹事問題
状況例
A・B・Cの三人が旅行に行くことにしたが、誰が計画や予約をするのか決まらない
幹事役は大変だが、ポイントを集めたり、計画通りに進めたりするメリットもある
しかし周囲に押し付けられると不満がたまる
戦略の例
各自: (1)「自分がやる」と名乗り出る (2)他人にやらせるつもりで待つ (3)役割分担を呼びかける
三人全員が「他の誰かがやってくれるだろう」と待ち続けると、結局いつまでも予定が固まらないし、土壇場でやむを得ず誰かが尻拭いする形になる。これは一種のナッシュ均衡で、誰か一人が「じゃあ自分がやるよ」と出ても、「なんだかんだ面倒な雑用を押し付けられた」と感じるリスクがある。そうなると次回からはもうやりたくなくなる。
逆に「役割分担をしよう」とAが言い出し、BとCも乗り気になれば、「飛行機や宿はAが予約する」「レンタカーはBが手配」「全体予算の管理はCが担当」といったかたちで、全員がそれぞれメリット・デメリットを受け入れつつ納得して進むことができる。この状態が出来上がると、次回以降も「この分担法がうまく機能したからそれでいこう」となるので、ある意味“協力均衡”として定着するわけだ。
2-5. お互いにアドバイスし合う関係
状況例
AとBは同僚や友人で、仕事の進め方やプレゼン資料などをお互いにチェックし合っている
AはBの資料に明らかなミスや改善点を見つけても、厳しく言うと嫌われるかもしれないから言いづらい
Bは本当は建設的なフィードバックが欲しいが、あまりに厳しく言われるとモチベーションが下がるかもしれない
戦略の例
A: (1)率直に指摘する (2)やんわり褒める (3)何も言わない
B: (1)アドバイスを素直に受け入れる (2)反論や不快感を表す (3)聞き流す
どちらかが遠慮する方向の戦略を取り、もう片方もそれを受け流すような関係になってしまうと、「いつもお世辞ばかりのコミュニケーション」として安定してしまう。ここでAが「本音を言おう」と切り替えても、Bが「そんなにキツいこと言うなんて…」と反発したら関係が悪くなるリスクがある。BもAに「何か率直にアドバイスしてくれ」と求めたくても、Aが乗り気でない場合には言い出せない。
一度「厳しい意見でもお互いにちゃんと受け止めよう」という取り決めが共有されると、Aは指摘しやすくなり、Bも真摯に受け止める流れができる。これが続けば「お世辞ばかり言って本当の改善が得られない状態」よりもずっと建設的で、双方にメリットが大きいから、一度軌道に乗ればそのやり方がナッシュ均衡として維持されるだろう。
3. 悪い均衡から良い均衡へ移行するためのヒント
上記のような身近な事例で浮かび上がるのは、「バブリング均衡」とも呼ばれる“お互いが本音を言わない・正直に情報を伝達しない”状態が意外と成立しやすいという点だ。相手に合わせて自分も曖昧な態度をとったほうが衝突を避けられる場合、自分だけアクションを起こしても損するおそれがあるため、ずるずるその均衡にハマってしまう。
一方、「分離均衡」や「協力的均衡」にあたる、“正直で透明性のあるコミュニケーション”のほうが社会全体・集団全体の利益は大きいことが多い。職場での情報共有が円滑になればミスが減るし、家族やパートナー間で遠慮なく意見交換すれば問題が早期発見できる。実際には「一度リスクをとって踏み込む人」が出なければ、この良い均衡には到達しづらい。
具体的には以下のような手段がありうる。
ルールや仕組み化を導入
たとえば「金銭の貸し借りをするなら簡単な契約書を書こう」「割り勘にするなら常にアプリで細かく割り勘しよう」といった具合に、個人間の気まずさを最小化する制度を設ける。すると、一方的に曖昧戦略を取り続けても得をしないため、“ルールに基づく正直さ”が安定して実現しやすい。裏切りや嘘が起きる場合のペナルティを明確化
職場でのホウレンソウ(報告・連絡・相談)なら、「報告を怠って大きなトラブルになったら罰則がある」ことをはっきりさせる。恋愛や友人関係でも、「裏切りが起こった場合は信用を失う」というリスクが大きいと認識されているほど、“最初から正直に行動する”戦略が魅力的になる。長期的な繰り返しの重要性を意識する
短期的には、正直に話したほうが損することもあるが、長期的には「正直なほうがリターンが大きい」と互いにわかっていれば、比較的リスクをとって踏み込んだ行動を選択しやすくなる。これはゲーム理論で言う「繰り返しゲーム(repeated game)」の考え方で、将来的な協力メリット(長期的信頼)が大きいほど、裏切りが減るとされる。コミュニケーションの“最初の一歩”を明確に示す
「自分から真面目なフィードバックをする」「自分から割り勘を切り出す」といった、少しだけ勇気がいる行動を誰かが先行してみせるだけで、他者が「それなら自分も合わせよう」と動きやすくなることがある。最初の一歩は大変だが、一度“誠実なやり方”が成功体験となれば、全体の均衡がシフトするきっかけになる。
4. 「コミュニケーション戦略のナッシュ均衡」を意識する意義
コミュニケーションにおけるナッシュ均衡を意識する意義としては、まず「なぜ相手も自分も行動を変えないのか」を客観的に理解できる点が挙げられる。多くの人間関係や組織内の悩みは、「どうせ〇〇しても無駄」「相手はどうせ変わらない」という思い込みからズルズルと進展がないまま続く。しかし実は、その状態は双方にとって「相手が変わらないなら自分も変えないほうが無難」というバランスによって維持されているにすぎない。
また、そこから抜け出すには「仕組みを変える」「リスクをとって先に変わる」というアクションが必要であり、それがいかに難しいかもわかる。ゲーム理論の言葉で言えば、ナッシュ均衡の外にあるもう1つの均衡、つまり“より好ましい均衡”に移動するには、同時に戦略を切り替えるか、罰則やインセンティブを設定して“まず誰かが変われるようにする”仕掛けが必要になる。これは単なる精神論ではなく、理屈に裏打ちされた見方なのだ。
さらに、「コミュニケーションのコストがほぼゼロなら嘘も言いたい放題」や「コストがかかる証明方法(シグナリング)を導入すれば正直さが生まれる」といった発想は、実社会でもあちこちで導入されている。たとえば資格試験や学歴証明は、低コストで嘘をつきにくいように設計されているし、インターネット上の本人確認(二段階認証)も不正アクセスやなりすましを抑止する仕組みだ。こうした構造を理解することで、「正直な情報が伝わりやすい環境づくり」の重要性がよくわかる。
5. まとめ
コミュニケーションの場面には、必ず「相手がどう出るか次第で、自分の最適な行動も変わる」という相互依存関係が存在する。こうした状況は、まさにナッシュ均衡の考え方を適用できる領域だ。身近な飲み会の割り勘問題や、友人との貸し借り、職場での意見共有、家族の家事分担など、あらゆるところに「自分だけ先に行動を変えても損するかもしれない」と感じる瞬間があるはずだ。
しかし「どうせ無理」「相手は変わらない」とあきらめるのではなく、ゲーム理論の視点で見れば、「複数の均衡のうち、どれが安定するかは仕組みや初期条件によって大きく変わる」こともわかる。バブリング(曖昧コミュニケーション)のまま固定されるのか、分離均衡(正直かつ透過的なコミュニケーション)に移行できるのかを左右するのは、ほんのちょっとしたインセンティブ設計だったり、最初にリスクをとって踏み込んでみる勇気だったりする。
大切なのは、「すべてを自分ひとりの意志の力で変えようとしない」ことでもある。場合によっては制度づくり、罰則設定、信頼の積み重ねといった外部的要因が必須だというのがゲーム理論の示唆だ。コミュニケーション上の問題が起こるたびに、こうした視点で「なぜ皆が今の状態から動かないのか」「どうすれば全員にとって望ましい行動がとれるような仕掛けを作れるか」を考えてみると、意外な打開策が見つかるかもしれない。
繰り返しになるが、ナッシュ均衡自体は「誰にとっても最善の結果」とは限らない。囚人のジレンマのように、実は全員が損をする結末になる場合もある。コミュニケーションのバブリング均衡も、みんなが本音で語らず建設的なやりとりが滞るので、決して望ましい状態とは言えない。しかしながら、一度そこに落ち着くと、一方的には動きにくいという頑強さを持っている。だからこそ、その状態を突破する仕組みや先行者の行動が鍵になるのだ。
日常の中で「なぜ素直に話し合えないんだろう」「なぜお互いに様子見してしまうんだろう」と感じたら、それはもしかすると“コミュニケーション戦略のナッシュ均衡”にはまり込んでいるサインかもしれない。ゲーム理論のフレームワークを思い出しながら、少しだけ勇気を出して“先に動く”アクションをとったり、ルールや第三者の力を借りたりして状況を変えられないか、試してみる価値はあるだろう。
以上が、コミュニケーションにおけるナッシュ均衡のざっくりとしたイメージと具体例である。すべてのやりとりがゲーム理論通りに進むわけではないにせよ、「自分の行動は相手の行動次第」「相手の行動も自分の行動次第」という前提を意識してみると、「なんで誰も変えないんだ」「自分だけ変わるのは損だ」といった気持ちの背景が理解しやすくなるかもしれない。そこから抜け出すヒントも、案外シンプルな場所に隠れているはずだ。
■ 専門用語解説
1. ゲーム理論 (Game Theory)
複数のプレイヤー(意思決定主体)が、互いの行動に影響を与え合いながら最適な戦略を選択する状況を分析する理論。経済学や政治学、心理学など広範な分野で活用される。
2. ナッシュ均衡 (Nash Equilibrium)
ゲーム理論において、他のプレイヤーの戦略が固定されているときに、自分ひとりが戦略を変えても利益(利得)が大きくならない状態のこと。誰もが自分の戦略を変えるインセンティブを持たないため、一度成立すると動きにくい均衡となる。
3. コミュニケーション戦略
プレイヤー(人や組織)が「どのように情報を伝えるか」「相手からの情報をどう受け取るか」を決める方針のこと。嘘をつくか正直に言うか、メッセージを詳しく伝えるか隠すかといった行動選択を含む。
4. チープトーク (Cheap Talk)
メッセージを送ること自体にコストがほとんどかからない状況を指す。嘘をついても大きな罰則や費用が発生しないため、メッセージの信ぴょう性を保つのが難しくなる。
5. シグナリング (Signaling)
送信側が「ある行動」や「証拠」を示すことで、自分の情報やタイプを相手に伝える行為を指す。たとえば学歴証明や資格試験は、能力を証明するコストが大きいため、嘘をつきにくいシグナルになる。
6. バブリング均衡 (Babbling Equilibrium)
送信者(話し手)が常に同じようなメッセージを送り、受信者(聞き手)がそれをまったく信じないというコミュニケーションの均衡。互いに「どうせ本当ではない」「どうせ信じてもらえない」という前提のもと、情報交換が実質的に成立しなくなる。
7. 分離均衡 (Separating Equilibrium)
高タイプのプレイヤーは正直なシグナルを送り、低タイプのプレイヤーはそれに便乗できないようなコスト・構造があるため、結果としてプレイヤーのタイプがはっきり分離される均衡。受信者もシグナルを見て正確に判断できる。
8. プーリング均衡 (Pooling Equilibrium)
高タイプでも低タイプでも同じメッセージを送り、受信者が区別できなくなる均衡。嘘をついてもコストが小さい場合などに起こりやすく、結果としてメッセージの信頼性が下がる。
9. 囚人のジレンマ (Prisoner’s Dilemma)
ゲーム理論の代表例。相互協力が最良の結果を生むとわかっていても、相手が裏切るかもしれない恐怖から、自分も裏切りを選択してしまう状況。結果的に双方が損をするにもかかわらず、そこから抜け出せないというジレンマが生じる。
10. 繰り返しゲーム (Repeated Game)
同じゲームを何度もプレイする設定。単発(一回きり)のゲームでは裏切りが最適に見えても、繰り返しになると長期的な信頼の構築や、裏切りに対する報復(ペナルティ)を考慮する必要が生まれ、戦略が変化する。
11. インセンティブ (Incentive)
プレイヤーの行動選択に影響を与える動機づけや報酬・罰則のこと。報酬を与えるシステムやペナルティの設計によって、プレイヤーがどう行動するかが変化する。
12. ペイオフ (Payoff) / 利得
あるゲームにおけるプレイヤーの「最終的な利益(報酬)」や「満足度(効用)」のこと。戦略の組み合わせによって各プレイヤーのペイオフが決まり、それを最大化するように行動するという前提で分析するのがゲーム理論の基本。
13. ホウレンソウ
「報告・連絡・相談」を略したビジネス用語。職場内でコミュニケーションを円滑にするための合言葉だが、上司が厳しすぎたり部下が本音を言いづらかったりすると情報共有が滞り、“悪い均衡”にはまりやすい例として取り上げられる。
14. 信頼関係 (Trust Relationship)
繰り返しのやりとりを通じて「相手が裏切らない」「誠実に情報を共有してくれる」と認識できる関係性。信頼が高いほど、相手の言動を信用したうえで協力や正直なコミュニケーションが行われやすい。
15. バブリングからの脱却
バブリング均衡状態(曖昧コミュニケーション)を抜け出して、より望ましい“協力的均衡”に移行すること。具体的には、コストや罰則(ペナルティ)を設定したり、最初に誰かがリスクを負って正直な戦略を示すことで、全体を変えられる場合がある。