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ジョブ型人事制度の導入実態|人事指針の先進20社から見える現状と課題
2024年8月「ジョブ型人事指針」を内閣官房、経済産業省、厚生労働省が共同で発表しました。新しい資本主義の実現に向けた三位一体の労働市場改革の一環として、20社の先進企業の取り組みが詳細に示されています。
もしまだご覧になっていない方は、下記の実リンクで各社の具体的な取り組みをご参照ください。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/pdf/jobgatajinji.pdf
■指針内容
1.制度の導入目的、経営戦略上の位置付け
(1)導入目的
(2)経営戦略上の位置付け
2.ジョブ型人事の骨格
(1)導入範囲
(2)等級制度
(3)報酬制度
(4)評価制度
3.雇用管理制度
(1)採用
(2)人事異動
(3)キャリア自立支援
(4)等級の変更
4.人事部と各部書の権限分掌の内容
5.導入プロセス
ここでは、20社の先進企業の事例から見えてきた日本企業の現状と課題を、データを基に論点解析してみます。果たして、日本企業はどこまでジョブ型への転換を進められているのか、その実態に迫ります。
ジョブ型を導入するか悩んでいる、ジョブ型を簡潔かつ体系的に理解したい方にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。
なぜ今、ジョブ型なのか
政治的な要請だけでなく、経済的、社会的、技術的にも企業を取り巻く環境が大きく変化しています。
・労働力不足の進行
・多様な働き方のニーズ
・デジタル技術の進化
日本では少子高齢化が進行しており、労働力の供給が減少しています。その一方で、技術の進化に伴い、新しいスキルや知識を持つ人材の確保がより重要になっています。また、コロナによりテレワークの働き方が普及し、ハイブリッドワークが主流となってきています。
従来の日本型雇用モデルでは、これらの変化に十分対応できなくなってきているのです。
従来の日本型雇用との違い
ここまでご覧いただいている方は、ご知見がある方が多いとは思いますが、念のため「ジョブ型」とは何なのか簡単に示しておきます。
従来の日本型雇用と揶揄される「メンバーシップ型」では、社員(=メンバーシップ)ありきで雇用され、社員が持つ能力に紐付けて報酬が決められていました。
一方、「ジョブ型」とは、職務(=ジョブ)ありきで雇用され、職務内容に紐付けて報酬が決められることを意味しています。
したがって、「ジョブ型」に変わるためには、人材がいることを前提に仕事を振り分けていた今までの仕組みから根本的に転換して仕事ベースで人材マネジメントを実践していけるかが問われているのです。
先進20社から見える実態分析
さあここからは、論点ベースで各社の導入状況を分析してみます。
企業規模
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・従業員数は、10,000人~99,999人が60%、10,0000人以上も15%と業界を代表する大企業が大部分を占める
・対象範囲は、グローバルが60%と過半数を占める
大企業には参考になることが多いかもしれませんが、中小企業にとっては参考になる情報が多いとはいえず、この情報だけを頼りに全ての企業がジョブ型に飛びつくのは早急と言えます。
導入概要
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・導入目的は、経営と密接の事業変革や価値創造が過半数を占めるが、組織変革も40%と一定数ある
・導入プロセスは、一斉導入が過半数を占めるが、段階的・部分的導入も45%と半数近く占める
・導入職種は、全階層が90%とほとんどを占める
・導入階層は、全階層が過半数を占めるが、一部階層も35%と一定数ある
先進企業でも、一気に導入しなかったり、管理職層にのみ導入したり、非常に慎重に導入している企業は多いことが窺えます。
等級制度
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・等級体系は、ジョブグレードが95%とほとんどを占める
・JD(職務記述書)導入範囲は、全部と一部が共に50%と拮抗している
さすがに先進企業が紹介されているだけあり、等級体系についてはジョブグレードを導入しているものの、肝心なJDに関しては、整備は道半ばであり、全て用意していない企業も半数も存在しています。
JDに定義する職務内容については、アメリカでも標準的な職務記述に留まり個別詳細化できていないことも多数実在します。
また、「日々起こりうる現場での問題を解決する」や「職務記述書に記載されている職務がすべてではない」などの記載を含めて柔軟な運用を行っていることが通例です。
しかし、それでも職務定義ありきでスタートするジョブ型に対して一通り作成できていないことは、厳密にはジョブ型と呼べない実態があることが分かります。
報酬制度
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・報酬体系は、職務給中心が45%と半数近く占める
・報酬水準は、市場相場準拠が70%と大部分を占める
・職種別報酬差異は、ありが65%と過半数を占める
・管理職報酬レートは、レンジレートが80%と大部分を占める
報酬レートに関しては、本来論であれば、職務と報酬が1対1に紐づく単一レート(シングルレート)であることが望ましいです。しかし、アメリカでも実際は一定の上下幅をもつレート(レンジレート)で運用されていることが多いため、レンジレートでも問題ありません。
しかし、その他については、ジョブ型と呼ぶにはまだ早い企業も存在しているように見えます。
特に一番大きいのが報酬体系の部分です。職務給以外の手当で報酬をカバーしていたら競争環境で戦える組織にはなりえません。報酬水準については、内部公平性の論理から市場相場を参考にするという外部公平性の論理へシフトできているのは素晴らしいと思いますが、職種によって職務の難易度や貢献度は異なるので、当然同じグレードでも職種別に報酬が違うというのがジョブ型の本質です。
大企業では、これまで人に対して給与を決め、総合職で様々な職種を経験させてきたことから、この辺りに急激にメスを入れていくことは難しいことを示しています。
人材マネジメント
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・採用は、職務別採用が70%と大部分を占める
・異動は、計画的配置中心が45%と半数近く占める
・育成は、共通型が45%と半数近く占める
・代謝は、降格やPIP(パフォーマンス改善計画)が85%と大部分を占める
採用については、日本特有の雇用慣行である「新卒一括採用」が存在します。新規ポジションや欠員の補充として採用してきた海外に対して、そのような採用を補完的に行ってきた日本ではどうしてもメンバーシップ型にならざるをえない事情もありました。ただし、先進企業では、中途採用比率を増やし、新卒にも職務別採用を課し、入社後の配属職種を決めて募集を行うことで、ジョブ型傾向を強くしています。
代謝についても、「解雇権濫用法理」という独自の解雇規制がある日本では、基本的には正社員に対して終身雇用を保障しています。ただし、降格したり、PIPを行ったりと業績健全化に向けた代謝の仕組みを整えつつあることは非常に改革的であると言えます。
一方で、異動については、社員起点で会社主導で行うジョブローテーションの仕組みを変更するまでに至っていない企業も多数存在しています。
育成についても、会社主導の階層別研修や全社員研修を中心とし、選抜型研修や選択型研修のように戦略的・個別的に育成する仕組みにはなっていない企業も多数存在しています。
採用や代謝については、非常に善処しているものの、異動や育成についてはまだまだジョブ型と呼ぶには改善の余地があることを示しています。
運用方法
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・処遇は、調整変更が70%と大部分を占める
・人事権は、現場移譲型が45%と半数近く占める
処遇については、ジョブ型で運用する場合、職務を担えない場合には下位等級に変更されてしまうケースが出てきます。そのような場合には、一気に報酬を下げるのではなく、年間の減額幅に上限を設けるなど一定の緩和措置を取りながらも数年かけて職務にふさわしい報酬に合わせていく企業が多いようです。
人事権については、従来行われてきた、人事部が中央管理していることから改革がなされつつあります。これまでは、要員計画や採用は人事部主導で各事業本部に人数を割り振り、昇給・昇格・賞与の決定権限も人事部にありました。事業戦略に向け要員計画・採用人数を現場に移譲し、部下の昇給・昇格・賞与支給額についても各組織予算の中で自由に決められるように変わってきつつあります。その中で、人事部としても各事業組織の相談役としてHRBPを配置してサポートするよう役割が変わってきています。
現状のジョブ型ステージ
以上を踏まえ、現在の日本のジョブ型ステージをフェーズ1:萌芽、フェーズ2:展葉、フェーズ3:開花と3段階に分けて区分けしてみました。
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萌芽ステージは25%、展葉ステージは60%、開花ステージは15%と先進企業でも多くは展葉ステージに留まっていることが分かります。
ちなみに、萌芽ステージでは以下の特徴を多くもっています。
・一部職種/階層のみの限定導入
・既存の報酬体系との混合型
・計画的異動配置が中心
・中央管理型の人事権
一方、開花ステージでは、以下の特徴を多くもっています。
・グローバル統一の制度
・全社的に導入
・職務給中心の報酬体系
・現場移譲型の人事権
ジョブ型転換の4つの壁
上記から、ジョブ型を進めていく上では、以下の4つの壁があることが類推できます。
①職務定義の壁
・職務記述書作成の負荷が高い
・職務範囲の柔軟性確保が課題
・現場での運用放棄対策
②報酬制度の壁
・完全職務給への移行は反対意見が出やすい
・職種間給与格差への労働組合による抵抗
・既存社員の処遇調整に苦心
③人材育成の壁
・ジョブローテーションの制限
・専門性育成とキャリアパスの再設計
・新卒一括採用との整合性
④組織文化の壁
・終身雇用意識からの脱却
・評価・異動に関する価値観の転換
・現場マネージャーの意識改革
先進企業に見る3つのポイント
ジョブ型が進んでいる企業ほど、①経営トップのコミットメント、②丁寧なコミュニケーション、③人事機能の変革が進んでいます。
経営トップが明確なビジョンと方針を示し、従業員へ継続的な改革メッセージをトップダウンで発信することで本気度が浸透してきます。その上で、社員へ度重なる説明会を実施し、相談窓口も設置しながら従業員の理解を促しています。
一方、人事機能としてもCoEが全社的な人事戦略を検討し、HRBPが各事業部における人材マネジメントをサポートできる体制へ進化し、これまでより多く昇給や昇格の事例を作り従業員からの指示を得ています。
どこまで本気で経営と人事が変われるかがジョブ型の進展に関わってきています。
万能薬は存在しない
1990年代に流行した、成果主義は、客観成果の把握が難しく評価の仕組みが整っていなかったため、失敗に終わりました。何に対して評価するのか、何に対して給与を払うのか、制御できない要素が原因で成果が出なかった場合どうするのか明確に考慮できず、結果として年功序列で経験が長いほど高評価となってしまっていたのです。
2000年代には、役割主義を導入し、日本的雇用を活かしながら、一人ひとりが担う役割を明確にし、仕事内容と処遇・評価の連動を高めることができるようにしました。それでも結果的には、無理に役割が作られ、かえって組織効率が落ち、年功序列が悪化してしまうケースが多発しました。
現在も一部の先進企業を除き、ねじれの中で苦労しながらジョブ型を導入しているようにも思えます。
例えば、ジョブ型では職務がなくなったら期間満了をもって雇用契約も終了することが許されますが、日本の雇用システムでは現実的にはかなり厳しいです。また、新卒一括採用が存在する限り、一企業だけの努力では、新卒の即戦力化は難しく、独自の育成体系が求められます。
こういった中では、どうしても人事異動による人材育成の重視やゼネラリスト志向の風土が色濃く残ってしまい、ジョブ型を推し進める上でのねじれが生じてしまいます。
現場では、前任者と全く同じ仕事なのに、当人にとってはグレードがダウンすれば給与が下がってしまうのを避けて結局、当人のグレードに合わせるという人ベースでの運用をしてしまうことが起こり得ます。
結局はどの制度もただ導入すればよいのではなく、企業の組織文化に合わせたレベル感の調整が必要ですし、運用の度合いで成功するか失敗するか決まります。
現場状況を加味してどこまで制度変革していくか、どこまで本気で運用で年数かけて現場浸透を行い、働きがい向上のための実効性をどう確保するか、が求められています。
どんな制度もどんな会社を作りたいのかがまず最初にあり、従業員の主体的な挑戦と成長を後押しして、最終的に会社にとっても従業員にとっても良いものとなるのか。この議論や検証を経て適切な制度やレベルが決まります。
もし、この記事を読んで「うちの会社ならではの制度・運用は何か気になる」と思った方がいらっしゃれば、ぜひお話ししましょう。ぜひ情報交換やディスカッションをご一緒したいです。