LOVE PHANTOM
「LOVE PHANTOM」はB'zが1995年にリリースした楽曲だが、一時期俺たちの間で流行った。
なぜ流行ったかというとある動画にこの曲が使われていたからだ。
確か、「リアルアンパンマン」という子どもの夢を粉砕するリアルなアンパンマンの動画だったと記憶している。
誰かがこの動画を見つけてきて、よく部室で見ていた。
今聴いてみると、この歌は深過ぎて高校生にはかなり過激だったと思う。
「LOVE PHANTOM」を直訳すると
「幻想の愛」
そんなことも知らずに、よく口ずさんでいた俺たちは本当恥ずかしい(笑)
この歌をマイル(4×400メートルリレー)メンバーで、レース直前に口ずさんだことがある。
それは俺たちが高2の夏に出場した、宮城県陸上競技選手権のときだった。この大会は、それまでの公式戦で一定のタイムを出した者だけが出場できる大会で、大学生も出場していた。
榴ヶ岡は直前にあった総体で、標準タイムを出せなかったが、2つ上の先輩達が東北大会まで出場していたという恩恵を受けて、この大会に出場できたと記憶している。
俺たちはこのマイルに、以下のメンバーで臨むこととなった。
1走:隼人
2走:渉
3走:宗弘
4走:寺田
なぜこのメンバーになったのか忘れてしまったけれど、おそらく先生がチョイスしたのだと思う。
俺と渉は既にマイル経験があったが、宗弘と寺田は初めてだった。
マイルは何度経験してもレースの前は多少の恐怖がある。短距離としては最長の400メートルをリレー形式で全力で走るからだ。
正直言ってこの大会は、全くプレッシャーはなかったし、周りは大学生など明らかに格上ばかりなので緊張もなかった。俺たちからしたら、世代交代をしてから最初の公式戦だったので、今後に向けて経験を積むというくらいの位置づけだったと思う。
だがレース直前になり、俺にあのなんとも言えない恐怖感が襲ってきた。渉はどうだったか分からないが、初めてマイルに出場する宗弘や寺田も少なからず恐怖があったと思う。
アップを終え、4人で召集所から競技場へ向かう途中で寺田か宗弘がこんなことを言い出した。
「試合前だし、あれ歌うか?」
「あれ」とは、俺たちで大流行している「LOVE PHANTOM」のことだ(笑)
俺や寺田は、冒頭で書いた動画をよく見ていたし、宗弘はもともとB'zが好きだったため、暗黙の了解だった。
「いらない何も 捨ててしまおう♪」
「君を探し彷徨う my soul♪」
渉は苦笑いしながら俺たちを見ていた。
「LOVE PHANTOM」のおかげ(!?)で、一つになった俺たちは無事マイルを走り終えた。
レースはというと悪くはない出来だったと思う。
俺は数ヶ月前の総体ではアンカーをやったが、自分は走り方的にもスターターだと思っていたのでこの大会は1走を走り、確かな感触を掴んでいた。俺が1走向きだというのは、渉も同じ考えだった。
渉は確かこの大会で初めてエース区間と呼ばれる2走を経験した。新人戦や翌年の総体に向けて、いい実戦の場となった。
3走を走った宗弘は初めてとは思えない出来だった。宗弘は100メートルや200メートルよりも長い距離が向いていると思っていたので、このマイルはそれをより明確にしてくれた。
アンカーを走った寺田も、宗弘と同様に初めてとは思えない走りだった。陸上経験が長いこともあり、走るフォームもきれいで、マイルでも乱れることはなかった。
宗弘と寺田がマイルを経験でき、新人戦がかなり楽しみになってきた。
新人戦は「楽勝で準決勝までいける!」とさえ思っていた。
だがそれは単なる「幻想」に過ぎなかった。