マニアック項目からクラウド給与ソフトの使い勝手を考える
こんにちは。林です。
労務アドベントカレンダー2020の2日目担当です。
今回は多くの労務担当の方がご覧になることを想定し、通常のクラウド給与ソフト説明ではなく、よりマニアックな項目からクラウド給与ソフトとの付き合い方を考えていきたいと思います。
何故このテーマにしたのか
私は企業に勤務しつつ、開業社労士として他社様の人事労務サポートを行っています。その過程で労務関係者や代表の方とお話する機会があるのですが、その中にはクラウド給与ソフト導入を「ボタンクリック一つで全ての処理ができる魔法のツール」と思っている方々が少なからずいらっしゃることに気づきました。
サービス会社のHPを見ると確かにすべてが簡単にできるように書かれてはいますが、実際は出来ることと出来ないことが当然あります。そんな事実をお伝えすると、理想とのギャップの大きさに驚き、導入熱が少し冷めてしまうこともあります。
なのでここではクラウド給与ソフトに対する期待値調整を目的とし、実際に自分が導入時に検討した細かいポイントと、最終的にどのようにしたかを見てもらえればと思います。
※なおこれからお伝えする内容は、私が経験したクラウド給与ソフトでの結果となります。全てのソフト共通というわけではない点ご注意ください。
クラウド給与ソフトの代表的なメリット
まずは各サービスが宣伝しているクラウド給与ソフトの代表的なメリットを見ていきます。
1.効率化
1-1.給与明細がワンクリックで一括メール配信
1-2.残業代、保険料、通勤費、所得税等が自動計算
1-3.振込作業がワンクリックで終了
1-4.給与仕訳がワンクリックで経理チームと共有できる
1-5.勤怠データ自動連係
2.法令・税制に自動対応
3.どのPCからでも作業ができる
ワンクリック多いですね笑
きっと法令やPCを選ばないのは前提としてあって、一番惹かれるポイントはやはり効率化の部分でしょうか。
項目①:年俸制社員の時間単価を自動算出できるか
求人情報を見ていると、年俸制を採用している会社が結構ありますよね。
年俸制時に注意すべきなのは時間単価の算出方法です。時間単価は残業代や遅早控除時の根拠となるものです。
月給制の時間単価計算方法は、
月給制の時間単価=対象月給÷1か月の平均所定労働時間
で算出されます。
多くの給与ソフトも月給制をベースに考えられていますので、月給の場合であれば大抵は問題になりません。
では年俸制の場合の計算はどうすべきでしょうか。
年俸制の時間単価=対象年俸÷1年間の合計所定労働時間
年俸制の時間単価は年間所定労働時間を元に計算します。また、年俸額を14等分した額を月額とし、夏冬賞与としてそれぞれ1ヶ月分支給する際は賞与も計算対象となります。
結論:年俸制時間単価は自動計算されない。
給与ソフト上は月給に入力された金額と1か月あたり平均所定労働時間で計算されてしまいました。つまり、月給制は自動計算されますが年俸制は別で計算し直す必要が出てきます。
項目②:使用人兼務役員の雇用保険料は正しく計算できるか
次に使用人兼務役員についてみてみましょう。使用人兼務役員は、従業員と取締役2つの性格を併せもっている方のことです。
つまり、役員報酬と従業員給与の両方があるわけです。問題になるのは雇用保険です。
雇用保険は、従業員給与部分に対して雇用保険料がかかってきます。(役員報酬は雇用保険対象外)果たして上手く計算できるでしょうか。
結論:雇用形態設定が「取締役」だと算出できない
給与ソフトには雇用形態を設定できる項目があり、「取締役」にすると元々基本給だった部分の項目が役員報酬に変更となり、仕訳がラクになるように作られています。
ただ雇用保険設定をオンにすると、役員報酬を含めて雇用保険料が計算されてしまい、正しい計算ができない仕様です。(取締役は雇用保険対象外なので設定できること自体が不思議だったのですが設計上仕方なかったのかもしれません)
項目③:401k(選択型確定拠出年金)の掛け金は社会保険料項目に入るか
福利厚生の一環として401kを導入している会社も多いと思います。
従業員メリットとしては、iDeCoよりも掛けられる金額が多くなります。(iDeCoは23,000円、選択型は55,000円)
さらに定時決定の算定では掛け金を控除した金額で算出するので社会保険料が安くもなります。
一方、掛け金は社会保険料の部類となり、源泉徴収票発行する際には社会保険料欄上段に金額を記載する必要があります。
結論:選択型確定拠出年金用の項目はない
項目が無いのでそのままでは使えません。掛け金用の控除項目を作成する必要があります。本来とは違う使い方になるので源泉徴収票の数字も正しく反映されません。源泉徴収票を作成する際は、いったん賃金台帳をcsv等でダウンロードして数値を調整し、改めて作成する必要があります。
項目④:住民税は途中で変更できるか
住民税は年額を12等分し、毎年6月~5月で徴収していく仕組みです。
(端数は6月分で調整)
既存社員は問題無いのですが、中途採用時は注意が必要です。
(例)
・入社時期は11月
・前職は8月末で退職
・特別徴収を希望
上記の場合、採用者の市区町村に特別徴収切替届出書を提出し、市区町村から届く通知を元に徴収額を決定していくと思います。
その際、「12月分は〇円で1月分以降は△円」と初月と2か月目以降で金額が異なった場合に対応できるかどうかです。
結論:途中からの一括変更はできない
住民税項目は、毎月の徴収額を入力できる設計にはなっていなく、入力項目は下記3パターンのみでした。
・前年5月支払い分までの住民税額
・当年6月支払い分の住民税額
・当年7月支払い分以降の住民税額
キツい。。対応方法としては、12月・1月支払いの都度、当年7月支払い分以降の住民税額欄を変更する必要があります。これはミス発生の可能性が大きいと感じました。
項目⑤:月末〆当月払い・みなし残業制度ありの時、給与改定時に残業代は正しく計算されるか
最後の検討ポイントです。複数条件重なっているようにみえますが、実態としては発生する確率は一定数あると思います。
・給与は月末締め当月25日払い
・みなし残業代制度あり(30時間分)。超過分は翌月支給
・当月昇給した
・昇給前月の残業時間は35時間だった
上記ケースの場合、昇給月に前月超過分(5時間分)の残業代を支払う必要があります。その際の計算方法は、「昇給前の給与÷1か月あたり平均所定労働時間×1.25×5時間」です。これは正しく計算されるでしょうか。
結論:正しく計算されない
給与ソフトも昇給後の給与をベースに残業代が計算されてしまう仕組みになっています。
原因は通常の給与が当月払いであることから、他の計算ロジックも当月払いルールが適用されてしまうようです。
各項目検討結果と対処方法
今までお伝えした内容と実際にとった対処方法をまとめてみました。
対応方法としては、エクセル使うか本来とは別用途で仕組みを利用するかになっています。ただし別用途で使うと他の部分で影響が出てきます。(源泉徴収票自動作成できない、仕訳正しく切れない等)
大事なのは、メリットとデメリット両方があることを正しく認識することです。その上で何を優先(犠牲に)していくか、ミス防止の為どんな対策が有効か、を精査して導入に進めていくのが良いと思っています。
最後に:クラウド給与ソフトは数ある選択肢の1つとして考えよう
給与は企業の特色がとても強く出る部分だと思っています。なので当然、すべてを叶えるソフトは殆どないと思った方が良いかもしれません。
加えて企業の特色はずっと同じではなく、フェーズによって変化し、変化に合わせて色々な企画が生まれたり、無くなったりしていきます。
「周りがみんなそうだから」「昔からずっとこうだから」「何となく万能感がありそうだから」ではなく、常に最善の方法を考えて最適解を見つけていって欲しいなと思います!
ちなみにこの労務アドベントカレンダー発起人である高谷さんは「Gozal」というサービスを展開されています。ご興味のある方はぜひ!!
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