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独り言多めの読書感想文(朝井リョウさん『スター』③)



家に生後7ヶ月の子猫(メス)がいるのだが、3ヶ月前まで猫のネの字も興味なかった私からすると彗星の如く現れた異物である。まず言葉が通じない。叱ってもほぼ意味がない。四六時中甘えたがる。そもそも「四六時中甘えたがる猫」って何だ。そこからして想定を大きく外れている。

愛らしい、癒されるのは前提として、けれども想定外の時間消費が生じていることもまた、確か。今も階下から「アオーン」という朗々とした鳴き声が響いてきている。とてもじゃない。スマホもiPadも本もペンも紙もかじる彼女とネット上の私は共存できないのだ。

そうでなくても「口癖は『効率』『コスパ』『正義』」と称される人間だ。残念だけれど君に割いている時間はない、と、新しいおもちゃを買い与えて、すかさず書斎(現在地)に駆け込む。ネットで検索すれば「声をかければ構ってもらえたと感じる」「最低限一日10分遊んであげれば大丈夫」と出てくる。逆にここにプラスアルファ、一回り長く見積もったコミュニケーション時間を確保すれば、この籠城は正統な行為として許される訳だ。しまった。電波の混線が起こった。おかゆツイートと混同している。話を戻そう。ここは「独り言多めの読書感想文」会場。ペットは立ち入り禁止。

さて、『スター』3本目。今回取り上げるのは『むき出しの額と、そのままの唇』主人公尚吾の彼女、千紗ちゃんです。私個人は彼女のことを「つるっとおでこのプリチー彼女」と称している。語呂いいでしょ? 言いたいだけだけど。

さてこの彼女、非常に大人である。物語は主人公二人の視点切り替えと共に進んでいくのだが、例えばこれが一人の目線で「仕事」「私生活」を切り替えるならまだしも、夢を追う二人の視点がパンパン切り替わって進んでいくのだから、千紗の登場シーンなんてほんのわずかだ。むしろ情報量が少なすぎて、主人公が覚えられない上司の名前は簡単に覚えられる程。そんな夢追い人の横顔を見つめながら、寂しさも不満も表に出さず、自分は自分で夢を追える千紗のすごさを、私なりに分析してみる。

本当の所は知らない。知らないが、一般的に男女の脳のつくりの違いで、男性は一つの物事に集中する力に長けていて、女性は何かをしながら並行して別のことを考えると聞く(主に海馬の太さが関係していると思うのだが)その通りだと思うのは女である私であり、事実仕事しながら夕食、飼い猫、踊ってみたのbakeくんの腹チラを(よぎるレベルとはいえ)考えたりする。同様に、何かに集中しているときでも、頭の片隅にパートナーは存在する。だからどんな形であれ、負の感情を持ち込めば、それはやることなすことに影を落とす。良好とは言えない二人の関係は、千紗の仕事に支障をきたしてもおかしくない。そんな彼女がこん詰めた仕事の合間、やっととれた時間に打ち明けた思いが今回取り上げる一文だ。これだけのエサで今回も目一杯増殖してる。ウイルス絶好調。違う。紹介しよう。


『ある人の顔が頭をよぎって、決意できた』『尚吾の顔』


なんだこのいじらしさは。生物学上女に分類される私でもキュンときたぞ。そこに寂しさ、不満といった負の感情は一切見受けられない。あくまで自分と同じ形をした生き物、理解し得る生き物を助けようと、彼女なりの「正しさ」の物差しで舵を切る。傷ついても、自分の思いよりも相手の望むものに照準を合わせる。それが「料理人が料理以外のものに対価を支払わせること」だった。作中に類似する要素が散りばめられているため、例えを追加する。

「ボクサーがリング上のパフォーマンスではなく、容姿を利用して別の稼ぎを生み出すこと」「映画監督を志す人間が、一般の『何かを発信したい人』の動画を撮影、編集することで稼ぎを得ること」

いずれも本人が望む在り方ではない。本人が大切にしているものは大切にされない。それでも、当の本人達は必ずしも不満顔ではない。何故なら自分がどうしたいかではなく、自分に何ができるか、需要に対して供給出来るものは何かということに重きを置いているから。

対価。結局金に替えられるのは能力だ。需要、そこから利益を生み出すために、あなたに何ができますか? そこに本人の意思、好き嫌いは関係ない。あくまで要求されるのは換金出来るコト、モノ。やりたいこと、出来ることは必ずしも一致しない。あれ、これ林先生が話してたことだな。若造が一丁前に啓発じみてんじゃねぇぞ。やだなぁもう。話を戻そう。

千紗もまた「苦しい時、自分ではなく相手を優先できる人」ここに当てはまる「相手」は、にくらしい「料理人の傍で完全食を食べながら仕事に打ち込む彼氏」なのだ。一時はヒヤッとしたが、修復が間に合って良かった。この子は逃しちゃダメだ。

「自分がどうしたいかではなく、自分にできることは何かを優先させること」「自分が苦しくても相手を思うこと」私自身、楽しむためとは言え、 公共の電波を拝借する分「多少なりともあなたにとって有益かもしれない」と思ったあれこれをここに書き残している。一方私生活では「ボールルームへようこそ」のガジュによる『つまらんダンサーだで! どうなりたいんじゃ!』に依り、結果如何ではなく自分がどうしたいかを行動指針にしている。そんな訳でそろそろ私も「口癖『効率』『コスパ』『正義』」の顔を解こう。いい加減おかゆが待ってる。


相手を思うこと。それは「声をかければ」「10分相手をすれば」いいってもんじゃない。それじゃあやるべきこと、ノルマ、仕事だ。

君が鳴き止む時を知っている。私がソファで横になる姿を見つけて飛び乗ってきた時。ぐーっと伸びをして、人の頬に肉球を押し付けて、そのまま目を閉じる時。5秒ごとに目を開けて、スマホもiPadも本もペンも紙も見ずに、自分を見ていると分かった時。その時ようやく声を出さずに、口だけで「にゃあ」と鳴いてみせる。考えてみればそれが子猫の君に最も必要なことだったね。

愛らしい、癒しの生き物。異物ではなく一部になる。私自身、君ありきの生き物に変わる。それは我が家の幸福度をぐんと上げる。

いつだってお互いを大事に出来る、そんな関係でいたい。


ねぇ、おかゆ。





派生二本目終わり(〆ザツ!)



※一部電波の混線がありました。猫アレルギーをお持ちの方、大変失礼致しました。








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