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2022年3月の歌
題詠「流」
十六で光を失くした生徒から流れるピアノの音の輝く
六十で初めて知った梅干しの旨さが泳いだ身体に沁みた
大室やよい
厨からご飯の匂いが流れ来て夕餉つかさどる焼き魚一尾
外出は燦たるま昼の街の中ハワイに暮らす意味を味わう
大森久光
砂浜から持ち帰りたる流木のしっくり落ち着くエケベリアの鉢
注: エケベリアは多肉植物の 1種
菜心(チョイサム)の黄色い花摘み茶碗蒸しを飾れば春のお膳となりぬ
岡まなみ
水飲めず身体のすべてを使い終え自然死を待つ独り居の隣人(ひと)
葬儀場に田端義夫の歌流れ声を合わせる昭和の戦士ら
小野貴子
遠き日の春の小川はサラサラと流れてゆきぬもう八十路過ぎ
毎日は流れてゆくよ呆然と眺めている間に消えてしまいぬ
小島夢子
雪原の細き流れを産卵に来る鮭の居る餌になる為
注:鮭の卵は小魚の、産卵後の鮭は鳥や動物の餌になるという
幼らと雛を飾りし日もありし託かこちがちなる齢となりて
近藤秀子
自己流に絵の具重ねて画用紙に理解不能の傑作完成
流鏑馬やぶさめの陣笠ゆれる秋祭り蹄の音にどよめく馬場よ
関本なつ
このままで流れるように生きてゆく流れる先はしあわせだらけ
人々のやさしい気持ち感謝するそんな気持ちに支えてもらい
田中えり
タンポポの土手に遊びし友がきは風旅(ふうろ)の果てのいづこにぞ咲く
幾千の蜂の羽ばたき聞こえくる ブラシの木の花満開の朝
筒井みさ子
風に乗り流れくるなり甘き香は一月を咲く梔子の花
われを待ちまちくたびれて兄は逝き時空を超えてやがて葉桜
原 葉
流行歌(はやりうた)街に溢れて誰も彼も口ずさみたり昭和の頃は
堂々と自分へ褒美のチョコレートバレンタインを言い訳にして
藤代敏江
未来へのコンドミニアム購入に娘夫婦の来布四年振り
ロス住まいなのにハワイの人脈は年経るごとに拡がりており
三浦アンナ
のんびりと流れに逆らいマガモたち水中の足は全速力らし
宇宙へと技術は先に進みたれど未だ争いを止める術も持たず
森田郁代
山ほどの思い出残しゴン太逝く姿見えねど共に在りたり
悲しみの極限にあるも涙出ずふと目に留まる痕跡に泣く
山下ふみ子
なめらかな肌横たえる流木につと魅せられし朝歩きの浜
陽だまりに寝そべりて読むミステリー夢の迷路に犯人追い込む
楽満眞美
寝床より起こせる義母の二の腕に消えぬ指あと梅花のごとし
日を浴びて流れ揺蕩う春の海はるか彼方の戦も知らずに
六甲もこ
チラチラと流し目送る姫ちゃんは散歩に行こうと我を誘いて
注:姫ちゃんはトイプードル
薹立ちの畑の水菜は花付けし黄色い小花に元気を貰う
伊藤美枝子
流行の服などいらぬと娘(こ)は言いて今日も取り出す着慣れたるシャツを 退院せし娘と交わす何気ない会話が胸の奥まで沁みる
鵜川登旨