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環境省のエコチル調査は、宮崎県人会のいもがらぼくとの合唱から始まった

1997年5月に、先進8カ国の環境大臣会合(いわゆる環境サミット)が、米国のマイアミで開催されることになりました。

議長となる米国EPA(環境保護庁)のブラウナー長官が、「子ども環境保健」をテーマにすると通告してきました。

当時の環境庁では、こうした国際案件は、地球環境部が担当しておりました。

しかし「環境保健だから、環境保健部が担当しろ」と丸投げをしてきました。

「国際案件だから地球環境部がやれ」と押し返して、具体的な中身は環境保健部が対応するが、窓口などの事務は地球環境部が担当することで決着しました。

日本の代表は、国会開催中ということで環境庁長官は出席できず、代理として外務省の地球環境担当大使が出席することになりました。

当時はそういうポストが外務省にありました。
今も謎ですが、最初に聞いたときマグマ大使かと思いました(相当古い……)。

さて、この日本国代表の大使の発言要旨を作成するという仕事が、回り回って私にたどり着きました。

「えーっ? 自分が書くとですか?」
「他に誰がいる? おまえは環境保健部の保健専門官だろう」と突っ込まれ、涙を流して納得しました。

前例もないので、すべてまかされました。

さて、何を書くべきか……。
昔、大学で受けた講義を思い出しました。

「環境科学」という超レアな講義で、臨床とはあまり関係がないので、睡眠時間となることが多いものでした。

その講義の中で、神経内科学のM教授が水俣病について講義をされたのです。

教授は宮崎出身で、県立宮崎病院での勤務経験もありました。

大学の宮崎県人会では、M教授がトリで尺八を披露して、その後全員で「いもがらぼくと」を合唱することが恒例になっておりました。

冬の一限目の講義で、しかも出席をとらなかったので休もうかと思っていたら、宮崎県人会の教授に恥をかかせるわけにはいかん、と出席を決意しました。

M教授の水俣病の講義は、発端となった話や、胎児性水俣病の発生、原因を突き止めた話など、興味満点でした。

教授は、イギリスの有機水銀の農薬を作っていた工場の労働者の中毒症状がヒントになったことを説明し、産業医学というものは大事な学問だと結んだのです。

そうだ、あのM教授の講義内容を使わせてもらおう、とひらめきました。

今から約40年前の4月のある日、日本の西南地域にある地方都市の病院の小児科医がひとりの女の子を診察した。

重篤な神経症状を呈していた。

小児科医は、それから間もなく、もうひとりの女の子を診察した。

同じ症状で、二人は姉妹だった。
小児科医は驚いて、母親に尋ねた。

「近所に似たような症状の子どもがいるか?」

母親の答えは、YESだった。

これが、後に Minamata Disease と呼ばれる日本最大の公害病の一つとなった疾患の公式な発見の契機となった。

さまざまな研究により、原因企業が環境に排出した水銀が、有機水銀となって魚介類に蓄積され、それを食した人間の健康を破壊することが判った。

母親の口から摂取された有機水銀は、胎盤を通過して、次世代にも影響することも明らかになった。

環境の異変の影響は、最初に子どもの健康に現れる。

日本に住む我々は、水俣病の経験によって「子どもの環境保健」が大事あることを、世界のどの国よりも理解している。

環境サミットの中で、子どもの環境保健をテーマに選んだ米国環境保護庁のブラウナー長官に経緯を表するとともに、我が国としても積極的に子どもの環境保健問題に取り組む所存である。


確か、こうした趣旨の文章でした。

水俣病を担当している特殊疾病対策室にも、原稿を見てもらいました。

どこからもクレームは出ず、英語に訳されて、日本代表の大使の発言原稿としてセットされました。

マイアミでの環境サミットに、大使に随行して出席した環境保健部長から、報告がありました。

日本代表の大使が発言した後に、議長のブラウナー長官が、大使の席までわざわざ歩いてきて、握手して感謝されていたとのことでした。

2011年から、環境省では子どもの健康と環境の調査(通称「エコチル調査」)をやっています。

日本の10万組の子どもとその両親が参加した大規模な疫学調査です。

質問票での調査、健康状況調査、血液・尿・毛髪などの試料を採取しています。

宮崎県では延岡市が対象地域となっています。
昨年、その会議に出ました。

宮崎大学医学部の公衆衛生学教室が、その調査を受け持っています。

県立延岡病院の産婦人科医をはじめ、延岡市内の産婦人科医・小児科医・延岡市・延岡市教育委員会が協力をしております。

私が書いた発言の原稿が、回り回ってこうした大規模疫学調査になって帰ってきたと思うと感無量です。

講義をされたM先生に、大変感謝しております。

合唱した「いもがらぼくと」の歌が懐かしい!

ちなみに、東村アキコさんの漫画「まるさんかくしかく」の2巻には、いもがらぼくとを歌うシーンが出てきます。

腰のいたさよ 山畑開き
春は霞の 日のながさ
焼酎五合の 寝酒の酌に
おれも嫁女が ほしゅなった ヤレ
もろたもろたよ いもがらぼくと
日向かぼちゃの よか嫁女
ジャガジャガマコッチ エレコッチャ


小学生が遠足で歌う歌じゃない、という突っ込みが面白いです。

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