【連載:はたらくひとのウェルビーイング】<2>幸せホルモンを増やす
はたらく人の健康を現場でみまもり続ける産業医であり、合同会社ひとしずくメディカルスーパーバイザーの丸山崇先生による新連載、今回は2回目です。
第2回目は幸せがテーマです。
幸せになりたい、と思わない人はいないと思います。思えない時もあるかもしれません。
幸せとはどんな状態を指すのでしょうか
どうしたら幸せな毎日をおくることができるのでしょうか
どんな時に、ひとは幸せを感じるのでしょうか
逆に、どんなときに人は自分が不幸だと思うのでしょうか
私自身はこの会社を運営しながら、社会福祉の業界にもかかわっています。社会福祉の基本的な考え方として「健康で文化的な最低限度の生活」というものが憲法25条で規定されていますが、様々な方と接するなかで”幸せとはいったい何だろう”と考えてしまう状況に陥ることがあります。
私たちの生活の基本的にあるものでありながら、人それぞれの感覚によるものであり説明が難しい概念の「幸せ」。今回は医学的なアプローチで幸せのメカニズムを解説していただきました。
皆様の明日に役立つ情報になりますように。
はたらくひとのウェルビーイングをヨガで実現したい、という想いで事業を展開する合同会社ひとしずくより、必要な方へ、願いを込めてお届けします。
幸せホルモンを増やす
「オキシトシン」というホルモンがあります。
オキシトシンは、もともとは出産する時に子宮を収縮させて赤ちゃんを誕生させるホルモンとして知られていました。
このオキシトシンが、最近では、人と人との信頼関係を良くするとか、ストレスを軽減し気持ちを落ち着ける働きがあることが分かり、「幸せホルモン」や「絆ホルモン」などと呼ばれ、注目されています。
自閉症の子供に、オキシトシンを鼻から投与することで、
対人コミュニケーションが良くなったという研究が発表されたことでも話題にもなりました。
また、痛みを軽減することや
食欲を抑えることも知られています。
どうすればオキシトシンを増やすことが出来るのか?
このように、我々を幸せに健康にしてくれる「オキシトシン」は、どのようにしたら増やすことが出来るのでしょうか?
まず、オキシトシンは、脳の視床下部で作られ、下垂体から血液に分泌され、全身に運ばれます。
女性だけでなく、男性でも分泌することがわかっているので、男性も心配しないで下さい。
スキンシップ
オキシトシンを出すための一つ目のポイントは、「スキンシップ」です。
人と触れ合うことで、オキシトシンの分泌が増えることが分かっています。
今は、新型コロナの影響で気軽に握手も出来ない世の中ですが、いつも一緒にいる恋人同士や夫婦、親子で、積極的に触れ合いを持つことで、オキシトシンが分泌され、心が穏やかになり、良い関係を築いていくことが出来るのです。
アイコンタクト
目を合わせることでもオキシトシンが増える
科学雑誌Scienceに興味深い研究論文が掲載されました。
犬と目を合わせるとオキシトシンが増加するというのです。
この実験では、人間と犬がしっかり目を合わせることで、人間も犬も、双方のオキシトシンが増加していました。
目をしっかり見て会話することで、お互いの信頼につながるという、これまでの経験則は、この研究から、脳科学的に証明されたことになります。
また、アニマルセラピーで動物によってストレスが軽減され、心が穏やかになり癒されるというのも、科学的に根拠があると言えます。
瞑想や深い呼吸をする
自律神経(副交感神経)の一つである、迷走神経を刺激することでオキシトシンの分泌が増えることが分かっています。
迷走神経は、腹部の内臓から脳に情報を送る神経です。
大きくゆっくり、横隔膜を動かしながら呼吸をすることで、この迷走神経が刺激されてオキシトシンの分泌が増加します。
瞑想をすることも効果的です。
瞑想の中でも、
特に「慈悲の瞑想」がオキシトシンを増加させたという研究結果があります。
「慈悲の瞑想」
3つの文章を頭のなかで唱えてみます。
May you be happy. あなたが幸せでありますように。
May you be healthy. あなたが健康でありますように。
May you be peaceful. あなたが平和でありますように。
慈悲とは、コンパッション(Compassion)と言われ、
「思いやり」「利他の心」「共感」「人の痛みを知る」
などという意味が含まれています。
人を慈しみ、行動する
「人を思いやる」「人のために、何かをする」ことでも、オキシトシンが分泌すると言われています。
「人を思いやる」「人のために何かをする」という行動は、人間の本能でもあります。
人のための行動は、実は、自分の中でも幸せホルモンを増やし、自分の健康や幸福につながっているのです。
これを実感出来る方法があります。
まず、身近な人で、あなたが普段から気になっている人、心配している人に対し、1週間で良いので、その人のために献身的な行動をとってみましょう。
メールを送ってみる、
何かちょっとしたものを送ってみる、
ただ、毎日その人のことを考えるだけでも良いかもしれません。
伝わっても、伝わらなくても大丈夫です。
行動に繋がらなくても、ただ、気持ちを送ります。
この時に、
あなたの中で、
そして、あなたの周囲で、
どんな反応が生まれるか、観察してみましょう。
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まずはご自身のメンテナス
呼吸を整え
「思いやり」「人のために何かをする」余裕をはぐくみませんか?
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コラム著者:丸山 崇 氏
産業医科大学准教授 専門:睡眠生体リズム、産業医学
2001年産業医科大学医学部卒業。脳神経外科レジデントとして臨床研修をおこなった後、産業医として、旭化成(株)、新日鐵住金(株)等で企業従業員の健康管理業務を行う。2014年よりスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所客員研究員として睡眠とスポーツパフォーマンスの研究などに従事。2018年より産業医科大学医学部准教授。脳内ホルモン(バゾプレッシン、オキシトシン)やストレス反応、睡眠生体リズムの生理機構に関する研究に従事している。
スタンフォード留学中にSearch Inside Yourself(Googleが採用しているマインドフルネスプログラム)やスタンフォード大学CCAREのCompassion Cultivation Trainingなどのコースを修了。また、スタンフォード大学マインドフルネス教室で知られるスティーヴンマーフィー重松先生のワークにも参加。現在は、医療従事者向けのマインドフルネスワークショップなども行っている。