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原発事故で失った多様な機会の損失 今ここから 高校生の挑戦を伴走支援する(一般社団法人 未来の準備室)

助成先団体の活動内容や、被災した地域の現在の課題をご紹介する連載シリーズ。

今回は、福島県白河市で活動をする「一般社団法人 未来の準備室」です。

未来の準備室は、高校生の第三の居場所となることを目指してつくられた「コミュニティ・カフェ EMAMON」を拠点に、探究学習のサポートや、地域と高校生を繋ぎながら若者たちへの多様な機会をつくり挑戦を後押ししています。

未来の準備室の佐々木郁哉さんに、現在の白河市の子ども・若者における課題や、支援によって高校生や地域に起きた変化についてお話を伺いました。

未来の準備室 佐々木郁哉(ささき ふみや)さん
1994年岩手県盛岡市生まれ。高校の部活動中に東日本大震災が発生。大学卒業後に福島県白河市の公共ホールに就職し、文化芸術による心の復興事業などに従事。現在は、未来の準備室のスタッフとして、高校生と地域をつなぐボランティアマッチングプラットフォーム「うずうず」の運営などを担当。キュレーターとして、高校生の課題に文化芸術の手法からアプローチする事業にも取り組んでいる。

原発事故による幼少期からの機会の不足が 高校生の成長に影響を及ぼす

震災と原発事故の影響を受けた福島県では、全国平均を大きく上回る人口減少が起きました。年少人口の大きな転出超過、子どものいる世帯の流出により、少子高齢化が加速しました。

もともと、福島県は全国の中で、県民数当たりの大学生の割合が最も少ない地域でしたが、大学が一つもない白河地域では、高校卒業を機にとりわけ多くの若者が故郷を離れていきます。地域の特性と震災の影響が重なったことで、地域で育つ若い世代がますます少なくなりました。

中間支援機能や社会教育を担うソーシャルセクターの基盤も十分に整備されていないため、地域で若者が活動できる機会が限られており、学校以外に家を出ることがほとんどないという高校生も少なくありません。

若者が自分の興味関心を体験を通じて深めたり、地域の魅力や課題に出会う場が少なく、一人一人に合った個別最適の機会が不足している状況です。

また、今の高校生は、幼児期に震災・原発事故を経験した子どもたちです。育った地域や家庭によって個人差はありますが、外遊びに制限があったことで、県外に住む子どもたちと比べ協調性やコミュニケーション能力を育む機会が限られた時期がありました。

さらに、震災時より、福島では原発・放射能への不安が特に母親のストレスレベルを高め、子どもに影響を与えている可能性も指摘されてきました。高校生の母親との会話のなかでは、震災時から様々な我慢を強いてしまったことが、子どもの感情をコントロールする力や、自分で物事を判断し自立する姿勢、自尊心などに影響があったように感じているという声も聞きました。

震災から13年半が経過し、子どもの発達に震災・原発事故による影響が今現在どれだけあるのかを測ることは難しいのですが、福島・白河地域の高校生のなかには、幼児期から続く様々な体験機会の欠如によって、自分の選択や活動に自信を持ちづらい若者も多いと感じています。

高校生と地域をつなぐ「うずうず」とコーディネーター

ハタチ基金の助成によって、ボランティアプラットフォーム「うずうず」の運営をはじめとした多様な機会提供を通じて、高校生が自分のテーマに出会い、新しい課題解決プロジェクトに取り組んでいける伴走モデルを構築しています。

助けが必要な地域の人たちと高校生をつなぐプラットフォーム「うずうず」様々な機会に高校生がボランティアとして参加する中で、地域について感心を持つきっかけや大人たちとの交流が生まれている。

「うずうず」では、コーディネーターが地域のニーズと高校生のやってみたい気持ちがつながるように「ボランティア」の企画を検討し、高校生が自分自身や、自分を取り巻く地域社会のありたい姿に気づく学びの場を提供しています。
地域の方々との交流や、協働しながら目の前の課題を共に解決していく場を通して、若者が他者から必要とされ、自己有用感を得られる機会をコーディネートしています。

活動の前後には、振り返りと対話を通じて、自分自身のあり方と地域社会のあり方、その両方について考えを深めるサポートをコーディネーターが行い、次のアクションを一緒に探しています。

ボルダリングジムの壁を綺麗にペイントしたボランティア。

「うずうず」に参加した高校生のAさんの変化が心に残っています。

Aさんは活動後、地域の方との対話のなかで外国人ルーツである自身の生い立ちや、将来の進路選択について話をしました。Aさんは人見知りをしやすいようで、初めて出会う大人にそのような話ができたことに自分でも驚いていました。活動を共にすることで安心感が生まれ、自分のこれまでと将来について自己開示をすることができたからだと考えています。
家族や教師以外の大人から将来の選択についてアドバイスをもらえたことが新鮮だったようで、このボランティアをきっかけに「うずうず」の他のボランティアにもたくさん参加するようになりました。

また、Aさんは、私たちが運営する地域の居場所「コミュニティ・カフェ EMANON」にも多く通うようになったことで、取り組みたいと思っていた国際交流活動に関しても、日常的に伴走支援ができるようになりました。「うずうず」による多くの機会提供とEMANONの居場所機能が相乗効果を生み、Aさんのなかで様々なチャレンジが起こっています。

伴走者による多様な機会提供と、「コミュニティ・カフェ EMANON」で行われるユースワーカーによる日常的な対話や振り返りを統合し、高校生一人ひとりの探究を支えています。それらの活動の集大成として、高校生が自らのあり方と活動からの学びを発表する「マイプロジェクト白河Summit」を開催することも計画しています。

伴走者がつくる多様な機会 高校生に生まれる変化

キュレーターが舞台芸術の手法を用いた「体験型ワークショップ」を企画し、自己と他者の違いを肯定的に受け入れ、自分の声を大切にする姿勢を育む場。教科的なアプローチとは違った角度から社会を捉えてみる機会もつくっています。
「体験型ワークショップ」で自己理解や自己開示を舞台芸術の手法を使った遊びを介して行い、若者が自分の声を大切にしていける体験を届けています。

さらに今年度は、高校生が専門的なスキルを持った大人と共に地域に関わる「プロボノ参画ボランティア」の仕組みをつくり、より本質的な課題解決に挑戦できるプロジェクトの開発にも取り組んでいます。

自分のマイプロジェクト(探究学習)をどう始めて良いのか分からない高校生などを対象とした「先輩マイプロ」では、ジェネレーター(※1)が、ロールモデルとなる大学生の活動に高校生を巻き込む役割を果たし、様々な先輩からアドバイスを受ける場を設けています。
(※1 ジェネレーターとは、自らも当事者として悩み、発言をしながらも、場を盛り上げ高校生をサポートする役割の人。)

一人一人に合った個別最適の機会としては、「先輩マイプロ」や「プロボノ参画ボランティア」などにより、地域外の大学生や専門的スキルを持った大人との交流・協働の場を設け、若者の興味関心を深められるコミュニティを育てていくことを考えています。

地域を舞台に映画をつくる「うずうず」のプロジェクト。

通信制の高校に通うBさんは、ほとんどの授業を家で受けており、ある日、人との交流を求めて初めて「コミュニティ・カフェ EMANON」を訪れました。その日、EMANONでは「うずうず」で高校生が映画撮影を手伝うボランティアが行われており、表現することに関心のあったBさんも飛び入りで参加することになりました。

映像表現に詳しい大人や、同世代の高校生との交流が生まれ、自分の新しい居場所を求めていたBさんにとって、人との繋がりが生まれた1日に。表現に興味のあるBさんには、ダンサーと美術家の方が講師を務める「体験型ワークショップ」を紹介し、翌週参加することになりました。

ワークショップは、自分や他者の性やカラダにまつわる様々な悩みについて考えてみる内容で、相談者とカウンセラー、観察者の3者をロールプレイ形式で演じるワークがありました。

性やカラダの様々な問題について考えてみた体験型ワークショップ。

Bさんは日頃から他者の目が気になり自分の容姿に自信がないこと、親の機嫌を気にして行動する傾向が強いことなどを相談者として打ち明けていました。他者との対話を通じて、Bさんは自分が物事を考えるときに他人軸でいることに気づいていき、これからは自分軸で行動できるようになりたいという意識の変化が生まれました。

こうした自己開示と意識の変容は日常の会話だけでは生むことが難しいのですが、演劇等の手法を用いた体験が、高校生の自己認識を深め、自己を尊重する姿勢に良い変化をもたらすことになりました。

Bさんはその後、「先輩マイプロ」にも参加し、「自分でも何かやってみたい」という気持ちが大きくなったようです。初めは、EMANONの扉を自分で開いたことから始まった出来事ですが、「うずうず」のボランティアや「体験型ワークショップ」、「先輩マイプロ」といった体験機会の循環により、新しい物語が生まれています。

また、これらの機会提供をいずれも高校生の居場所であるEMANONを拠点に発信・実施していくことで、それぞれの機会と居場所を繋ぎ、高校生のモチベーションの変化やプロジェクトの変更にも柔軟に対応できる中長期的な伴走支援を行っています。

ハタチ基金
「東日本大震災発生時に、0歳だった赤ちゃんが無事にハタチを迎えるその日まで」というコンセプトの下、東日本大震災発生直後から20年間継続的に、被災地の子どもたちに寄り添い支援を行う基金。皆さんからいただいたご寄付は、東北被災地の子ども支援団体に届けています。
詳しくはこちらをご覧ください。


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