【にゃんぞぬデシ】ポップに始まる朝のルーティーン
カーテンを開ける。
南側の窓。すでに朝の陽ざしが、ぼくを目覚めさせようとこれでもかこれでもかと言わんばかりに強く降り注いでいた。
ぼくはまぶしそうに目を細める。
コーヒーを淹れるためのお湯はまだ沸かない。
だが、すでに豆は仕込んである。部屋の中にはコーヒーのかすかな甘い匂いが香り始めていた。
「起きたな、起きた。今日も起きたよ。アレクサ?」
小さくつぶやくだけでアレクサは反応した。ブルーと白の光線がクルクルと、まるで追いかけっこするみたいに回っている。
「にゃんぞぬデシの、魔法が使えたみたいだった
を、かけて。」
ぼくは最近、なぜかこの曲に惹かれ、毎日のように何度も繰り返し聴いている。夢中になるとやや突き進むタイプだ。
あいつが出て行ったのも、今はうなずける。
アレクサは、あまり感情のない声で応えた。
これでも初めの頃より、ずいぶんとマシになったのだが。
「アマゾンミュージックで、はいだしょうこの、
下の前歯が抜けちゃったを、再生します。」
歯が、ぬけた。歯が、下の前歯がぬけちゃった。
三年と、八かげつ・・・
ぼくの発音が悪かったのか、アマゾンミュージックのライブラリのせいなのか。ぼくのリクエストにアレクサが出した答えは、ぼくの求めているものではなかった。
とはいえ、今日はじめてアレクサにお願いしたぼくが悪かったんだと思う。
「ポップ・・・だ、けれども!」
仕方ない。一昨年の発売直後に買った
にゃんぞぬデシのアルバム「魔法が使えたみたいだった」
ラジカセのテープにすでに仕込んである。
いつもみたいに、はじめからこいつで聴けばよかったんだ。
おっくうな動きでボタンを押す。
機械の音は走りすぎる時代の、ささやかな置きみやげだ。
「また、明日ね。が、また今度ね。変身しなくていいのに。進化をやめられない僕らだね。しっかり前に進もう。進もう。」
クリアな音ではない。だけど、ぼくはこいつの音が好きだ。
どこかノスタルジック。だけど新しい。
にゃんぞぬデシの、澄んだ歌声にはピッタリだろ?
それに、ずいぶん前だけど、
あいつにもらったラジカセだからな。
白い蒸気が勢いよく吹き出している。
お湯が沸いたみたいだ。
さ、ぼくも。
しっかり前に進まなきゃな。