家族になった証だにゃ!?
動物愛護団体から、ハチワレのメス猫とキジトラのオス猫(ともに生後半年)を迎えるべく、トライアル期間に入ったものの、ひとつ懸念があった。
わたしには、じつは動物アレルギーがある。
子どものころ、友人宅の犬や猫をなでまくった帰り道、必ず目がかゆくなり、くしゃみが止まらなくなった。こすりまくった目は、白目の部分に膜のようなものができて腫れ、かみすぎた鼻も皮がむけた。
ただわたしのアレルギーには、一縷の望みがあった。
小学5年生から20年近く飼っていた犬と猫には、アレルギー症状が出なかったのである。これ、アレルギーが治ったんじゃないんですよ。よその犬猫には、症状が出たから。つまり、わたしの場合、ひとの家の動物は免疫を過剰に刺激するけれど、うちの動物は大丈夫、ということ。他人の家の埃にはくしゃみが出るけれど、自分ちは平気、ってことありませんか? それです、それ。
愛護団体に見学に行ったときも、マスクをしていたにもかかわらず、帰る頃には、目がかゆくてたまらず、くしゃみも頻発。
で、ついに猫たちがやってきた夜、やっぱり目がかゆくなって、くしゃみも出た。
翌日、薬局でマスクを買った。30枚入り。そのうちアレルギーがおさまるに千点かけているけれど、10年以上、動物と暮らす生活から離れてしまっている。そのあいだに、うちの子にもアレルギーがおさまらない身体になってしまっていたら、どうしよう。家の中で、年がら年中、マスクをしているなんて、きっとつらいだろう。
猫の毛をまめにブラッシングして、体も頻繁にふいてやり、掃除も毎日すれば、大丈夫だろうか。いやいや、ずぼらなわたしのことだもの、そんなこと、できっこない。
葛藤を抱えながら、帰宅。前日と変わらず、晩ごはんを猫の魔の手から守り、キジトラにソファをがりがりされても叱らず、ハチワレには前日のうんにょに続き、ベッドでおしっこされても黙々と片付けているうちに、更けていく2日目の夜。
やっぱり、目がしぱしぱ、鼻がもぞもぞして、買ったマスクを装着。
トライアル期間は、1、2週間と言われていた。1週間経っても、アレルギー症状が出るようならば、やはり、愛護団体に返すべきだろうか。
足元にまとわりつき、トイレにまでくっついてくる猫たちを見ていると、そんなことできない、って思う。
3日目。昼間は会社だから、そのあいだ愛護団体の指示に従い、ケージに入れて出勤。帰宅。
最初からマスクをして、猫たちとだらだら。ごはんを襲うのはハチワレ、ソファをがりがりするのは、キジトラ。
「やめて、ぴーちゃん。ぴーちゃんのごはんは、あっちにあるよ。わたしのごはんのほうが、おいしそう?」
わたしはハチワレに声をかけた。
「やめて、よっちゃん。爪とぎは、あっちにあるよ。ソファのほうが、爪とぎやすい?」
よっちゃんにも声をかけた。
ハチワレはピール、キジトラはよっちーというのが、愛護団体がつけた名前だった。自分で名前をつけていいのだけれど、この2頭にミルクをあげ、死の淵から救ってくれた愛護団体のボランティアさんへの感謝の気持ちもあって、そのまま引き継ぐことにした。
でもね、なんて言ったらいいのだろう。つきあうことになったばかりの彼氏を呼ぶときのように、照れがあった。声に出して名前を呼ぶのが、恥ずかしい。
その恥ずかしさが薄れ、「ぴーちゃん! ぴーっ! やめてってば、もうっ!」とか、「よっちゃん、こら、よち坊! だめだったら、もうっ!」とか、「ぴー、よちー、あとで遊ぶから、ちょっと待って!」とか、自然と呼べるようになったのは、猫たちがやってきて、1週間くらい経ったころだったろうか。
そのころになると、いつのまにか、アレルギーもおさまっていた。
大量に残ったマスクをクローゼットの奥にしまいながら、とうとう、うちの子になったんだなぁ、と実感。
つぎの週末、正式譲渡のために、愛護団体を再び訪れるべく、キャリーにふたりを押し込み、電車に乗った。猫たちは固まっておとなしくしていた。
愛護団体に到着、書類を渡し、ふたりを抱っこして写真を撮ることに。
「おいで」
と声をかけても、キャリーから出ようとしないふたり。ここで育ったのに、怖いのね。もうここは、このふたりにとってよその場所なのね。
引っ張り出して抱きかかえて撮影。
愛護団体の代表に聞いてみた。
「どうしてピールとよっちーなんですか」
「ピールはうちにきたころ鼻の頭の皮がむけてたから。よっちーはわからないですね。ボランティアさんがつけたので」
「あぁ……」
名前の由来がわからないことに、少しがっかりした。猫たちは人間と違って、自分の名前の由来を知りたがったりはしないだろうけれど。
当時はまだやせていた猫たち、それでもふたり合わせて7、8キロはあったと思う。ずっしりと肩にかかる体重は、行きより帰りのほうが重く感じて、家に帰りついたころには、へとへとだった。
ただいま、って言いながら、猫たちの入ったキャリーケースの扉を開けた。一瞬、かたまっていたけれど、すぐにひょっひょと出てきて、うろうろして、ごろんとなった。
アレルギーも無事におさまり、猫たちの名を堂々と呼べるようになり、正式譲渡も済ませて、ついにわがやの一員になった猫たち。
顔がほころんでしまううれしさが心の底から湧き上がってきたけれど、家族になったらなったで、わたしの心配は尽きなかった。その話は、また今度。
帰宅後、キャリーが気に入った様子のピーちゃん。
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