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おばあちゃんのこと

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#死

おばあちゃんと大往生

おばあちゃんと大往生

 大正生まれで、昭和、平成と生きた祖母は、一昨年逝った。93歳だった。

 戦争中に顔も知らない人と結婚し、戦後、わたしの父を産んで、離婚。水商売をしながら子育て、両親の介護を経て、30代後半からは、ずっとひとり暮らしだった。

 最期も、ひとり暮らしをしていた自宅で迎えた。

 90歳のときに、何度か入院していた病院の担当医から「もうできることはないから来ないでほしい」と暗に言われたときは愕然と

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おばあちゃんと拉麺

おばあちゃんと拉麺

 わたしの父は、祖母が戦争中に親の決めた相手と結婚して産んだひとり息子だ。戦後、祖母は離婚すると、水商売をしながら父を育てた。

 高校を卒業した父は映画会社で大道具の職を得た。就職試験で書いた作文のことを自慢げに話していたのを覚えている。何十年経っても、就職試験のことを話すくらい思い入れのあった会社を、父は2年で退職した。斜陽産業だったからと言っていたが、ほんとうのところは知らない。

 映画会

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7.おばあちゃんと心中

7.おばあちゃんと心中

ある朝、会社に行こうと準備をしていたら、電話が鳴った。いまから20年くらい前だから、家の電話が鳴ることはそれほどおかしなことではなかったけれど、朝早かったこともあり、いぶかしみながら受話器を取った。2歳下の弟からだった。

「お父さん、死にそうみたい」
「はっ? どういうこと?」

夜中、背中が痛いと救急車を呼んで、病院に運ばれたと言う。いつも父が寝ている、もともと母の寝室だった部屋に目を向けた。

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