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【劇評336】悪所の蠱惑を逆手にとった「歌舞伎町大歌舞伎」。

 歌舞伎役者がホストに扮したアドトラックが街を走った。

 勘九郎、七之助、虎之介、鶴松の四人が、いかにもホストらしい衣装とメイクと背景の写真を撮り、大型トラックの横腹に並んだ。シアター・ミラノ座で行われる「歌舞伎町大歌舞伎」の宣伝のためである。念の入ったことに、それぞれの写真には、代表、専務取締役、主任、幹部候補の肩書きまで入っている。(撮影は細野晋司)

 歌舞伎の宣伝としては、極めて異例だろう。けれども、江戸歌舞伎以来の悪所としての歌舞伎や劇場と連なっているように思った。
 また、故・勘三郎がつねに智慧を絞っていたように、あらゆる公演を「事件」とする姿勢が、見事なまでに受け継がれている。中村屋の公演は、いつもこうした戦略にのっとっており、私たちを驚かせ、ひきつける。
 大胆な宣伝とはうらはらに、並んだ演目は、至極、まっとうだった。

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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。