野田秀樹は、なぜ唐松富太郎を花火職人としたのか。
俳優と役柄
やくざと兵隊
日本人の男優は、やくざと兵隊を演じさせるとうまい。そんな警句は今でも流通しているように思う。
日本の映画界は、長くヤクザ映画や戦争映画を量産しつづけてきたから、俳優の思想的な背景とは直接むすびつかないにしても、やくざや兵隊を演じる機会が数多く与えられたのは事実だろう。やくざも兵隊も、その言動は様式に縛られていて、その定式をはずなさければ、「それらしく」見えてしまうこともあったろうと思う。
職人の行動様式
ただし、昨今になってからは、ビートたけし(北野武)の演技が目につくくらいで、やくざや兵隊が似合う俳優も思い当たらない。これはあくまで仮説ではあるけれども、職人の世界は、まだしも私たちの憧れであるし、その行動様式が好まれているように思う。
たとえばドキュメントの『プロジェクトX』やドラマ『下町ロケット』を思い出していただきたい。頑固で自らの仕事に誇りを持つ職人像は、今でも反復されて、聴衆を惹きつける。もっとも、この職人像自体も、滅びゆく職業倫理と一体になっているからこそ、注目を集めるのかも知れない。
今回、野田秀樹の『正三角関係』の舞台で、俳優の松本潤が厚みのある人間を見せたように思った。それは、野田が松本のために、花火職人の役を書いたことと深く関わっている。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。