見出し画像

演出家薛珠麗さんが、逝った。

 演出家、翻訳家、通訳の薛珠麗さんが、亡くなった。私がTPTに頻繁に出入りしていたのは、一九九○年代だから、もう四半世紀以上前のことになる。
 薛さんの印象は、いつも明るく、元気に振る舞おうとつとめているように思えた。私とは年齢差もあったので、薛さんではなく、珠麗ちゃんと呼んでいた。過去はつねに美しく彩られるからか、よい思い出しか残っていない。「いつか、ミュージカルを演出したい」。
野心をきちんと言葉に出来る人だった。

 目標を実現するためには、なにをやればいいか。一歩一歩を着実に重ねていたように思う。

 最後に会ったのは、二○一三年、芸劇で行われたデヴィッド・ルヴォーのトークショウだった。聞き手は私。珠麗ちゃんは通訳という役割で、まるで九十年代が甦ったようだった。
「大人になったね」
「長谷部さん、やさしい」
 そんなとりとめのない会話が耳に残っている。

 闘病の末に逝く。言葉にしてしまうと、なにか大切な思いが抜け落ちてしまう。この間の生活は、SNSを通して知っていた。病魔の過酷さに、生半可なメッセージを送れずにいた。

 人は人を救助することができない。このごろそんな悲観的な考えが私に取り憑いて離れない。

ここから先は

0字

すべての有料記事はこのマガジンに投稿します。演劇関係の記事を手軽に読みたい方に、定期購入をおすすめします。

歌舞伎や現代演劇を中心とした劇評や、お芝居や本に関する記事は、このマガジンを定期購読していただくとすべてお読みいただけます。月に3から5本…

年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。