深津絵里の深くて暗い川。『カムカムエヴリバディ』と野田秀樹作品をめぐって
深津絵里を観ていて飽きない。
連続テレビ小説の『カムカムエヴリバディ』で、大月るい役を演じている。幸福とはいいがたい育ち方をしたるいが、クリーニング店に住み込みで働くうちに、ジャズマン(オダギリジョー)と出会う。ミュージシャンの夢が破れてからは、ひとりで回転焼きの小さな店を切り盛りして、一女一男を育てるうちに、確かな生活を手にしていく。ざっといってしまえば、そんな役なのだが、だれもから可愛がられ、慕われるいい人でありながら、深津が演じると、そこに破綻が生まれる。いい人の心の内には、深くて暗い川が流れていると感じさせるところに、この女優の身上がある。
しかも、舞台ではない。老若男女を相手にした国民的テレビドラマで、人間の奥底を見せてしまう。もとより才能に恵まれた人だと思うが、相応の年齢に達しながら、幅の広い年代の役をやすやすと演じてしまうところに、驚かされ、圧倒される。
振り返って見れば、深津絵里の舞台歴は、輝かしい。しかも、商業演劇とは、一線を画しており、きわめて芸術的な選択を行ってきたと分かる。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。