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確かな技術があると、どこかで古典性を持ってしまう。六代目染五郎の思い出。
演出家蜷川幸雄が、はじめて舞台で出会った歌舞伎俳優は、六代目市川染五郎(現・二代目松本白鸚)だった。
現代人劇場、櫻社と小劇場演劇で頭角を現してきた蜷川に、東宝の中根プロデューサーから声がかかった。
演目は、シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』。一九七四年、日生劇場での公演を、私は古文の先生と観に行った。私は高校生だった。
三重のバルコニーをロミオとジュリエットが疾走する舞台に圧倒されたのを覚えている。
「大きな空間で初めて演出する怖れが、全くなかったといえば嘘になりますね。でも、演出するときの恐怖心は、小劇場のときからありました」(蜷川+長谷部『演出術』三五二頁)
空間を埋めるために、蜷川は装置ばかりではなく、俳優を動かし、音楽を重ね、照明を駆使したが、当然のことながら、主役に立つ俳優の大きさが重要な意味を持つ。
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年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。