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【劇評369】勘九郎、七之助、鶴松、勘太郎。観客の胸を熱く揺さぶる「文七元結」。
熱く、激しい『人情噺文七元結』を観た。
「文七元結」といえば、中村屋にとって大切な演目である。勘九郎の長兵衛、七之助のお兼、鶴松の文七、勘太郎のお久。いずれも初役だが、まぎれもなく自分たちの「文七元結」を創り出そうとする意欲に満ち満ちている。
故・勘三郎は、芝居の話になると、左の胸を叩いて、「ここだよ、ここがなければね」と何度も言った。単に役を演じるのではなく、役を生きること、しかも、懸命で必死に生きる人間に熱い思いを寄せることが大切なのだと私は受け取った。
今回の「文七元結」は、この勘三郎のDNAが、まっとうに受け継がれている。しかも、その芝居は、観客の胸を熱くする。揺るがぬ心情に打たれた大勢の贔屓が集まるのだろう。
まず、勘九郎の長兵衛、七之助のお兼の諍いがいい。序幕第一場、「左官長兵衛の内」で、姿を消した娘お久の行方をめぐっての言い争いに、この家が直面している難局、ふたりの性格や相性までも語り尽くす。また、お久の身の代金五十両を、大川端で身投げしようとする文七にやってしまい、「長兵衛内」に戻っての諍いもまた真に迫っている。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。