歌舞伎が観られない東京にいる。
演舞場中止の無念。
四月の新橋演舞場は、菊五郎、吉右衛門、菊之助を看板に、菊吉合同というべき公演だった。
菊之助が久し振りに弁天小僧を演じるのも楽しみだった。また、吉右衛門の『籠釣瓶花街酔醒』は、すでに定評がある。吉右衛門の次郎左衛門に菊之助の八ッ橋の顔合わせは、高い水準の舞台が期待できた。
まず前半が休止になり、ついに昨日は、公演自体がなくなった。
菊之助は、三月の『義経千本桜』に続いて、二ヶ月連続で大役を勤める機会を失った。藝が充実期に入っているだけに、実質的に番付の書き出しとなった、この二ヶ月を失ったのは惜しい。
藝には盛りがあり、役者は一刻、一刻が値千金なのである。
この知らせで落胆していたところ、今度は、海老蔵の團十郎襲名延期の知らせが入ってきた。
なかなか演目が決まらなかったのは、おそらく海老蔵の日頃の行いが影響していたのだろうと憶測する向きも多かった。つまりは、團十郎襲名に協力してやろうという大立者が少なかったという解釈でおおよそ間違いない。
はじめから前途多難だった襲名だが、この決定によって、歌舞伎座は、三月から七月まで五ヶ月もの間、公演が持たれないことになる。
もちろん、歌舞伎座の建て直しの時期は、全面的に閉じていたから、前例がないわけではない。
けれども、松竹の主体的な選択ではなく、周囲の事情から、こんな事態になるとはだれが想像したろう。
気になる休業補償だが、松竹は幹部よりも、舞台を下支えする役者に手当てすると聞いている。
もっとも幹部といえども、歌舞伎役者の家は、お給金が多くとも、出ていくものも多いという。この数年のあいだに、幹部に昇格した実力のある役者たちが、経済的に厳しい状況に置かれるのは想像がつく。
年々、演劇を観るのが楽しくなってきました。20代から30代のときの感触が戻ってきたようが気がします。これからは、小劇場からミュージカル、歌舞伎まで、ジャンルにこだわらず、よい舞台を紹介していきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。