源之助わすれじの萩植ゑにけり(久保田万太郎、あるいは悪漢の涙 第九回)
明治四十二年、慶應普通部卒業。
父親は否応なしにすぐ店で働かせようと思っている。万太郎もまた、仕方ないと自分でも諦めていた。しかし、卒業間ぎわになると、周囲は騒がしくなる。
ある者は高等学校へ、あるものは、高等商業へ行く。
黙ってそれを聞いているのは辛く、高等工業ならば図案科に入ればまんざら店の仕事と縁のないこともない。父のお許しがでないとも限らないと考えた。
「しかし祖母(としより)や阿母(おふくろ)はさうとは考ひぇやいたしません。何処までも真面目に、上の学校へつ