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『バンオウ-盤王-』第39話「棋士の誇り」感想 滝川さんは本気で報われてほしい


◆第39話

10月6日(金)に『バンオウ-盤王-』の最新第39話が配信された。

月山さんがヘンタイ呼ばわりされる前回とは打って変わって、今週は真剣にシリアス全振り回だった。全く以て正しい判断である。前回時点でもう滝川さんの魅力が一気に増したというのに、今回ばかりは月山さん推しのぼくでも滝川さんに勝利を譲ってやりたくなってしまったジレンマが凄まじかった。
もっと言うならば、各々負けられない戦いの構図ができている。故に、没入感と盛り上がりも高めてくれる。本当にすごい漫画だこれは。

◆26歳という年齢制限

この現実問題が来たか…
今回特にここが印象的だった。滝川さんはギリギリ26でプロ入りを果たせたわけだが、数ページだけで生々しい現実問題を催すのが巧い。

「プロになれなかった自分の人生を想像する」
「考えたくないけど考えてしまう――…」

特にここが生々しいし、共感できてしまった。
嫌なことは考えたくないのに考えてしまうのマジであるあるすぎる。将棋の世界に限らずだ。しかも回想当時の滝川さんは24であり、残り2年の猶予しかなかったのがマジ感を強めさせてくれる。晴れてプロ入りできた現在を知っているのにも関わらず、読んでいて胃が重くなった。
将棋を指したことがないぼくでも、一定年齢までノルマ達成しなければ奨励会から去らざるを得ないきびしさは嫌でも想像できてしまう。プロの道を諦めても趣味として指し続けてもいいだろうが、かえってトラウマになりかねない。

「惜しいじゃプロにはなれないんだよな…」

このセリフも印象的だ。勿論ぼくはなるべく善意的に対局を見届けたいし、「良い勝負だった」を声をかけたくなるのだが、だがしかし残酷なことに結果がすべての世界である。特別賞なんてありやしない。

ふと、『りゅうおうのおしごと!』という将棋を題材としたラノベないしそれを原作としたアニメを思い出した。
アニメ版はもう5年前になるのでそこまで内容を覚えていないのだが、中盤で清滝桂香さんという女流棋士にスポットを当てられた回が特に好きだった。桂香さんは本作の滝川さん共々20代の若手棋士にしてプロ入りを果たせていない、きびしい境遇だったのだ。周りが小学生含め凄腕かつ色々濃すぎる棋士ばかり集う中、われわれ一般人に近い立場なので、劣等感含めて強く共感・応援できる人物だった。

しかし滝川さんは数年前は普通に髪が生えていたんだな。眉毛は今のような白髪交じりではない。
やはり過度のストレスで抜け落ちてしまった可能性が考えられなくもないのだが、ぼくはそれよりもケジメとして自ら丸坊主になったのではないかと考えたい。覚悟完了の現れとして、だ。

◆仲田さん

仲田さんは誕生日の都合上、滝川さんよりも半年早く奨励会を退会。流石にこの後すぐに観戦記者にはならなかったようだ。

滝川さんへの「プロになれ!!」という激励。
シンプルな言葉である。こういった激励はよくある展開だ。それでも、決定的に心を動かされた。前回で滝川さんと仲田さんの人となりが十分に分かったし、元々漫画が巧い漫画だから期待通りというのもあるのだが、なんていうのかな。
ストンと入り込める「約束された展開」なのかな。勿論このような激励は嬉しくなれる。あと、仲田さんがプロ入りの道を諦めてテンション共々曇りかけた直後にこのアツい激励には驚いたんだよな。もっと言うなら、まさかこのような言葉をすぐかけてくれるとは思わなかった。

仲田さんはこの後自分に何かできることがないのか、観戦記者の道を選んだのだろう。そのくだりも描写される余裕があるかは分からないが、十分に想像できる。それだけでも乙なものである。

◆ヘンタイギャグは前フリ説

今回滝川さんのほうを優先して応援したくなったのは彼に悲しい過去等どっぷり描写されていて寧ろこの人が主人公のようでもあったからなのだが、月山さんが普段の「挑戦者」から一転し「不敵な強者」の印象が強まったのではないかともぼくは考えている。
その証拠が、前回の「追い詰められたら逆に笑みを浮かべてワクワクしてしまう」サイヤ人精神だ。傍から見てやべーやつである。いやこれはこれでいいんだけど。

そんな月山さんのサイヤ人精神が今回効果的な構成だった。
月山さんが苦戦を強いられてワクワクするのはものすごくこの人らしいから必然的があるというか、気持ちが良いくらい展開が噛み合っているのも面白いことになっている。
前回の感想でも書いたが、ワクワクしている月山さんがものすごく強者らしいのだ。そんな強者に挑み、仲田さんの想いも汲み取って、滝川さんは勝たなければならない。お互いに本気で勝利をもぎ取る姿勢が完成されて整っている。この「完成された」実感がすごく好きなんですよ。

ラスト、滝川さんの気持ちが前に押し出されたことに察する月山さんと天草先生。明らかに一転攻勢の流れに突入してしまったのを察せられる。恐らく次回で決着なのだろう、ぼくは良い意味で結末を見届けるのが怖い。滝川さんはこれからどうなってしまうのだろうか。マジで救われて欲しい。マジ。

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