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「200字の書評」(338) 2023.3.10



こんにちは。

明日は3.11、あの大震災から12年、干支が一回りします。忘れやすい国民性ながら、あの地震の恐怖は心の奥底に潜んでいます。まして実際に被災され生命の危機にさらされ、家族や友人知人を失い、生活基盤を覆えされた人々にとってのこの一回りの意味はどうだったのでしょうか。復興とはどうあるべきなのか、考えさせられます。福島原発からは汚染水の海洋投棄が目前に迫っています。漁業者は強く反対をしているものの、政府東電は強行の構えです。濃度を薄めて放出と称しています。でもよく考えると、薄めても含まれている浄化不能なトリチウムの絶対量は変わらないのです。誤魔化しとしか思えません。原発回帰に急ぎ足のキシダ政権にノーをつきつけたい。

4月並みの陽気になっています。冬の寒気がここ数日で一転しました。果たしてこのまま春になるのでしょうか。本当の春が戦闘の続くウクライナの地に訪れますよう。トルコシリア地震の被災者に救援の手が届くよう。ミャンマー、シリア、イラク、パレスチナ、イエメンなど各地の難民に平和の春が実現されるよう願うものです。

本日3月10日は東京大空襲から78年。私の母は生まれも育ちも東京下町、あの空襲により家と友人知人を失いました。6年前に92歳で旅立ちましたが、その記憶は消えずよく「もう戦争は沢山だ」「アベさんはわかっていない」「私達はすべてを失ったけれど、何の補償もない」と語っていました。核の威嚇さえ語られキナ臭さの漂う現在、忘れてはならない記憶です。

さて、今回の書評は奇想天外な語学修業を覗いてみました。




高野秀行「語学の天才まで1億光年」集英社インターナショナル 2022年

学んだ言語が25、驚きだ。冒険心と探求心で、未開の地(とされる地域)に飛び込み、欧米の言語ではなく現地語で語り掛ける。すると魔法のように相手の心を開き、その生活に溶け込む。言葉は不思議な力を持つ。それが抜群の行動力によって示される。時には事前学習もあるが、現地で学ぶ工夫も効果絶大。深夜特急的探訪記、宮本常一的な民俗学、小田実の「何でも見てやろう」などを思い浮かべたが、それらとは別な何かがある。




【弥生雑感】


▼ H3ロケットは宇宙ではなく、深海に沈んでしまいました。失敗は成功の母と言います。どんな取り組みにも失敗はつきものです。ノーベル賞受賞者も数千回、数万回の実験失敗から成果を導き出していることは、よく語られています。問題は失敗から何を学び、次につながるヒントを導き出すかです。国家的なプロジェクトとして開発者たちには重圧がのしかかっていたことは間違いなしです。国の威信、政治的思惑、予算の制約、組織のメンツ、個人的野心、功名心などいろいろな要素が交錯したことでしょう。前回の躓きを中止と称していたことを重視せざるを得ません。失敗は失敗として謙虚に認め、抜本的に見直すべきだったのではなかろうか?そう思わざるを得ません。ロケットの2千億円、搭載していた地球観測衛星だいち3号約280億円は海のモズクになりました。


▼ いよいよ春本番、桜だよりが届いてきました。桜は4月の入学式の頃と思っていました。それがどんどん早まり3月の卒業式の時期に重なり、温暖化のせいでしょうか今や入試の時期にまで早まっています。入試と言えば、大学受験の構内を思い出します。学生がズラリと机を並べ、電報受付と書いた紙を掲げています。地方からの受験生は合格発表まで滞在できません。以前にもお話ししたかもしれませんが、地方の受験生は夜行列車で上京し数か所の試験を受け、早々に夜行列車で帰宅します。その受験生を対象に電報で合否を知らせるアルバイトです。受けた学部と受験番号、連絡先を記入し料金を支払って掲示板に発表される番号を見てもらうのです。合格は「サクラサイタ」落選は「サクラチル」でした。携帯もインターネットもないあの頃の、桜に纏わる昭和の一コマです。今思うと少し長閑で、古き良き(?)時代だったのかもしれません。私も夜の上野駅で高校の友人と送り送られた記憶が蘇ります。


▼ 日本のジェンダーギャップは、もはや先進国とは言えない危険水域。国地方を問わず議員、官公庁の管理職、企業の役員に占める女性の比率は絶望的なほど低い。日本社会の(私共を含め)後進性を示す標識の一部でしかない。特に儒教的道徳に支配され、無意識的にそれに慣らされ疑問を持たないことが恐ろしい。


▼ 高齢者による交通事故が頻発しています。後期高齢者としては他人事ではありません。様々な要因が考えられます。寿命が延びたことも一つです。人口減の深刻な過疎地では通院、買い物などには車は手放せない現実はあります。都会ではどうでしょうか。車の側から考えてみると、運転が容易で扱いが簡単にして高性能になっています。オートマチック車が一般的、ライトは自動点灯、コンピューター制御などが装備されています。キーレスでエンジンが始動し、アクセルさえ踏めばスムーズに動いてくれる。あまりに簡単になり過ぎてはいないだろうか。マニュアルトランスミッションなら動かすにはいくつかの手順を踏まねばなりません。まずクラッチを踏み込み、ギアを入れアクセルを軽くふかしながらクラッチをゆっくりとつなぐ。速度に応じてその操作を繰り返す、そんな手間は慣れるとリズミカルになっていきます。あの鉄の塊を動かすことを安易に考えてはいけません。面倒さを加えることも大事ではなかろうか、車を考える一つの機会になればと思う今日この頃です。




<今週の本棚>


小田嶋隆「東京四次元紀行」イーストプレス 2022年

稀代のコラムニストである小田嶋は、世を去った。視点の確かさ語彙の豊富さ伏線の巧みさなど、文章展開の見事さに感服していた。それにまぶされている軽い悪意が、小田嶋コラムの味を引き締めていた。小説においてもそれが生きていて、捻りのきいた展開が面白い。


渡邉義浩「孫子―『兵法の真髄』を読む」中公新書 2022年

孫子の兵法は古来軍を率いる者の必読書であり、現代にも影響を及ぼしている。経済人や政治家にも愛読者は少なくない。「孫子」の著者は2人、春秋時代の孫武と戦国時代の孫臏。残された断簡や伝来し時には発見される竹簡などを読み解いて、著者の見解をまとめている。基本になる底本は、三国志の一方の梟雄きょうゆうである曹操が解説したものによるところが多い。春秋戦国時代の息吹が、今に伝わっているだけでも興味深い。




★徘徊老人日誌★


2月某日 二・二六事件のことを思い、松本清張「昭和史発掘」を本棚から抜き出してパラパラと読んでみる。新聞もテレビもきちんと取り上げないのには、がっかり。昭和史の再考察が必要ではないか。新たな資料から迫る、澤地久枝「雪は汚れていた」(日本放送協会 1988年)の解明も鋭く、お薦め。


3月某日 いつもの散歩道、何か変だなと感じつつ歩いていると道路わきでは宅地開発工事が始まっていました。ここには生け垣があって、雪柳の見事な一角のはずだった。ちょっと気落ちして歩いて行くと、家庭菜園の斜面に小さな小さなピンクの花が見えた。芝桜が顔を出し始めていた。少し心が和む。


3月某日 お雛さまの片づけをする。出した時と同様4人がかりの大仕事になってしまう。お人形さんたちはまた1年間のおやすみ。


3月某日 所用で坂戸市役所へ。ロビーは大混雑、何事かと表示を見てみるとマイナンバーカード作成受付とあった。ポイント付与、健康保険証機能付けなどどうも疑問だらけ。へそ曲がり老人はそっぽを向いてしまう。




暖気は嬉しいけれど寒の戻りもありそう、花粉は最大級とか、どうぞお元気でお過ごしください。


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