「200字の書評」(342) 2023.5.10
こんにちは。
早朝散歩を再開しました。暖かくなってきたことと、加齢により目覚めがはやくなった故です。田圃に満々と張られた水の面から、小さな小さな苗がちょこんと穂先を出しています。その向こうの田んぼではトラクターが代掻きをしています。数か月後にはたわわに稔った稲穂が風に揺れていることでしょう。瑞穂の国、葦原の中つ国の将来はどうなるのでしょう。お米くらいは自給したいものです。
さて、今回の書評はネットの功罪についてです。
治部れんげ他「いいね!ボタンを押す前に──ジェンダーから見るネット空間とメディア」亜紀書房 2023年
インターネットは現代に欠かせなくなっている。調べもの、会話、資料のやり取りなど便利この上ない仕組みである。それにふさわしい作法やモラルは身についているのだろうか。著者たちはこの疑問を投げかける。差別と排除、他者を傷つける言説が飛び交う。基礎的なメディア教育が欠落し、言葉は人を殺すことの意味は等閑視される。匿名性と同質的な集団の中での安住は埋没そのものである。男性は心して読むべき一書である。
【皐月雑感】
▼ 先月は一斉地方選挙でした。政権与党である自公は堅調、維新躍進、立憲共産のリベラル派は後退。これが一般的な見方です。自由主義者石橋湛山を尊敬しリベラルを自認する私にとっては、殊の外不本意な結果でした。半ばそれを予感してもいました。連合の顔色を窺い反原発に躊躇し、野党共闘から離脱した立憲。党首が22年間もその職にとどまり、高齢化が進行して大衆闘争の組めない共産党。どうも釈然としないのですが、ただ一つ、女性が進出したことは嬉しくなりました。低投票率の弊害も顕著です。主権者が権利を行使しなければ、権利は画餅に帰します。
▼ 能登半島が地震の直撃を受けました。死傷者、家屋の倒壊など被害が報じられています。幸い津波の襲来はありませんでした。地震、火山列島日本、原発を稼働させて安全なのでしょうか。高齢化の深刻な地域、片付け、復旧、生活再建など課題は山積しています。頻発する地震によってお年寄りに絶望感が広がらぬか心配です。地域の助け合いだけではすみません、公的な援助と恒久的な制度設定が求められます。
▼ 地震と言えばトルコシリア大震災から3か月たちました。仮設住宅などは不十分、特に内戦状態のシリアでは支援の手は届きにくいようです。戦に狂奔するよりも、人命と自然を最優先にしてほしいものです。
▼ 入管法が衆議院を通過しました。入管の前時代的な感覚と人権を軽視した警察検察の恣意的な捜査拘束は、まるで中世のようだと先進国から指摘されています。留置所や拘置所で体調を崩しても医療につなげず、生命を落とすことも頻発しています。また、身の危険を感じて日本に逃れてきた難民への冷たさは異常です。これでG7の議長国だと張り切っていられるのでしょうか。足元を見直すべきです。
<今週の本棚>
青木理「カルト権力」河出書房新社 2023年
委縮しがちな既存メディアの一方で、フリージャーナリストへの期待は大きい。権力や権威に怯まず、食いついて取材し報じる。新聞は軒並み読者減に喘ぎ批判精神は鈍るばかり、今や希望はフリージャーナリストか。著者の切れ味は小気味いいほど。右傾化日本への危機感を印す筆は鋭い。
保阪正康「検証・昭和史の焦点」文春文庫 2008年
戦争体験者の退場が相次いでいる。歴史、特に昭和史を見つめ直す時期に来ている。昭和史をライフワークとして聞き取り、文献調査を続ける著者の眼を借りてみよう。本書で取り上げる21の何故は、推理小説的な謎解きもある。著者の一連の労作をお薦めする。
白井聡「マルクス 生を呑みこむ資本主義」講談社現代新書 2023年
すでに過去の思想となったかのように見られているマルクス。行き詰まりつつある現代の資本主義を見直し、民衆の側からの新たな視点を提供してくれる。著者は、人間の本質諸関係の総体であるとするマルクスの考え方を紹介する。人新世の時代、この思想の現代的意義を再考すべき段階に入っているのかもしれない。
★徘徊老人日誌★
4月某日 生憎の雨。憂鬱さとそれ以上の弾む心で電車の人となる。東上線から有楽町線、乗り換えなしで有楽町へ。数寄屋橋近くのビアホールが目的地。都心の繁華街などはしばらくお預けだった。降り立った地下鉄の駅は様変わりしていて、自分の現在位置がわからない。地上に出てみたら見知らぬビルばかり、徘徊数分ようやく位置をつかみそぼ降る雨の中を目的の店へ。お上りさんを自認の一幕。ようやく会場へ、老人が数人待っていた。学生時代の寮仲間の会、3年半ぶりの宴だった。大学も学年も違う計6人、北海道からも来ている。他の常連数人は都合悪しとのこと。ジイさんが昔に帰って語り呑む。足元の明るいうちに散会。次回を約して帰路についた。
5月某日 コロナの取り扱いが従来の2類から5類になった。ウイルスにとっては「そんなこと 関係ネー」である。どうすれば国民の健康と安全を守れるか、その辺を熟慮したのであればよいのだが。厚生労働省がどっちを向いているのか、疑問は消えない。教育や子ども政策の予算はケチり、軍拡には大盤振る舞い。この国は何処へ行くのか。
5月某日 白昼銀座での強盗事件、まるでテレビか映画のような粗雑で傍若無人な手口。治安のよい(とされる)日本とは思えなかった。犯人はすぐに捕まったようだが、首謀者は判明せず闇バイトで集められた連中らしい、しかも全員未成年とか。背後に荒涼たる闇世界が存在しているのだろうか。迷路に入りつつある我が国の影を思わせる犯罪を見た思いがする。
気温の変化が極端です。夏日の次には霜注意報がでたり、着るものに戸惑ってしまいます。コロナ感染者は確実に増加しています。どうぞお気をつけてお過ごしください。