「200字の書評」(349) 2023.8.25
こんにちは。
異常気象による被害の甚大さは、全地球を覆い想像を絶しています。猛火により市街地をひと嘗めされたハワイの人びと、乾燥し切った大地に絶望の表情を浮かべる農民、収穫間近の梨・葡萄が売り物にならない果樹農園。一方には山火事が、他方では豪雨が襲う、首都圏の水がめは干上がる寸前。地球の気候システムが変調をきたしています。原因は挙げて人間の身勝手と強欲さにありそうです。資本主義は豊かな生活と希望をもたらした半面、限りなき欲望による危うさと格差ももたらしました。人間の叡智が問われています。サアーどうする⁉
さて、今回の書評は放送人(国営放送の)反省と警世の書です。
大森淳郎+NHK放送文化研究所「ラジオと戦争」NHK出版 2023年
既視感がある。昨今メディアが権力への拝跪を深めていることは否定し難い。就中NHKの報道番組が政権寄りである印象は否めない。著者はNHKの歴史を遡り膨大な紙、音声資料に当たり、さらに存命の関係者やその周辺の人への聞き取りを重ねている。軍部の命により戦意高揚の絶叫調の放送をしていたアナウンサーが、GHQの意向に従い民主主義を語る。その忸怩さを正直に記している。メディアは歴史を繰り返すのだろうか。
【葉月雑感】
▼ 毎朝の散歩で感じるのは稔り始めた田圃でのカエルの合唱が低調なことと、トンボが少なくなっていることです。夏から秋にかけてはトンボが群れ飛んでいたように思うのだが。今はたまにしか見かけない。これから増えてくるのだろうか、それとも絶滅危惧種になってしまうのだろうか。寂しさを感じる朝のひと時です。 ・内外の反対を押し切りついに汚染水放出。漁業関係者とは同意を得なければ汚染水の海洋放出はしない。そう政府と東電は約束したはず。彼らの口には舌が何枚付いているのだろうか。原発事故は安全神話を打ち砕いたと同時に、原子力という怪物を人間は制御し切れない事実を認め、国民に寄り添った科学技術の在り方をもっと謙虚に思考すべきでした。キシダは漁業者に寄り添い責任をもって支え続けるような話をしていた。彼も各大臣も官僚も、そして御用学者と東電経営者も数年で入れ替わる。また舌の枚数が増えるに違いない。そんな政権与党を支持し続ける国民の民度も問われているのです。漁業者の生活と誇りに加え、食糧自給の貴重な一角をなす水産業の行方が心配。国民の健康よりも原子力利権が大切なのか。
▼ 韓国女性DJへのセクハラ行為をテレビで伝えていた。如何なる状況であろうと、ハラスメント行為が許されないのは自明の理です。ここで疑問が二つ。一つ目、この問題を大々的に報じているテレビ局は、ジャニーズ事務所創業者のセクハラ行為を取り上げ糾弾しているのであろうか。絶大な人気を誇り視聴率の計算がたつジャニーズへの遠慮が芸能部門を中心にあるのでは無いか。報道部門はどうする。二つ目、アイドルとファンの立ち居振る舞いと距離感に課題がありそう。コスチュームと接触には、それぞれの節度と自制が求められる。昭和の老人にとっては、熱狂の中にも冷静さがあるべきではないかと思うのだが。どうだろう。
▼ 日大アメフト部の薬物汚染問題がくすぶり続けています。他の大学運動部にも疑惑があるようだが、日大は例のタックル問題もある。もう鬼籍に入ったのだが親しい友人に日大OBがいる。彼が生きていたらどんな反応を示すのだろう。もう一人日大全共闘で活躍した友人もいる、いやいた。運動部は大学当局の私兵として全共闘つぶしの尖兵だった。閉鎖的で上下関係の厳しい、運動部体育会的体質は変わらないのだろうか。かねて日大という私立大学の内包する独自の問題と、総体的な体育会的体質を時には分離して論じるべきではないかと思う。
<今週の本棚>
辻田真佐憲「『戦前』の正体」講談社現代新書 2023年
歴史は繰り返すというが、その多くは愚かな終末をみることになる。戦後とはすなわち新たな戦前であるのかもしれない。では、戦前とはいったいなんであったのだろうか。それぞれの立場や経験、思想によって受け止め方は違うだろうが、決して肯定的ではなかろう。著者はそれを神話に求める。幕末から明治期において、記紀の描き出す神国日本の敷衍された姿を求める。そのシンボルは当初は神功皇后であり、やがて神武天皇に移行する。歴史から何を学ぶか、世界観が問われている。
中川右介「社長たちの映画史」日本美術出版社 2023年
とにかく分厚い。でも興味深く、面白い。子供の頃から映画には縁があった。親が映画好きだったせいもあろうか、邦画洋画を問わず良く観に行ったものだ。「キングコング」「ゴジラ」「十戒」「駅馬車」「黄色いリボン」など手当たり次第。小中学校でも映画鑑賞の日があり、ぞろぞろと歩いて映画館に行き、文部省推薦映画「原爆の子」などを観たものだった。娯楽が乏しい時代、郷里には映画館は10数館あって各系列ごとに2本立て3本立てで上映していて、ほぼ満員状態だった。思い出すのは第2東映映画館での「月光仮面」、危機一髪のあわやというときにバイクで月光仮面が現れると満場の拍手、掛け声が飛び交う。休みの漁船員も沢山観ていた。上映中に放送が入る「巡視船◯◯の乗組員はすぐに戻ってください」と。数人の人影が動く。非番の巡視船乗組員が来ていて、海難救助の緊急出動がかかったらしい。海上保安部のある北洋漁業の基地らしい一コマだった。そんな映画の全盛期は短く、斜陽期に入る。映画の盛衰を経営者の動向を中心に描き出す、個性的で身勝手な個性が際立つ。
★徘徊老人日誌★
8月某日 朝食を終え歯磨きをしていると、堅いものが当たる。なんと奥歯が1本落ちてきた。以前金属を被せた歯が抜け落ちたのだ。折悪しくかかりつけの歯医者はお盆休みの期間。お盆明けに診てもらうと根まで劣化とのこと。これまた齢のせいか、今後の治療方針や如何に⁈
8月某日 市立図書館に借用本を返却がてら出かけた。新刊書の棚を眺めてから、以前ちょっと気になった(借りるほどではない)小説を抜き出して読もうと思い椅子を探して館内をウロウロ、席は一杯で座れない。コロナで席を間引きしてあるせいかも。座っているのはほとんどが老人。読書熱心さプラス避暑かな。仕方なく退散。
8月某日 秋刀魚初水揚げの報。郷里近くの厚岸港に秋刀魚が揚がったとのこと、画面で見ると小さく痩せている、漁師も商売にならんと嘆いていた。海流と水温の変化のせいか、はたまた外国船の乱獲のせいか。大衆魚が超高級魚になってしまった。子供の頃釧路川河口の錦町魚揚場には、川幅を埋め尽くすほどの全国の漁船が密集して水揚げの順番を待っていた。遊びがてら岸壁に行くと漁師がスコップで掬って「ホラっ 持って行け」と山ほどくれたものだった。今は昔の物語。
処暑、どことなく秋の兆しを感じます。暦の上では暑さがそろそろ収まる時期のはずですが、気温湿度共に危険な域、台風も接近の可能性あり油断禁物。 政治も世相も不快感満開、負けぬ様気合を入れ直して麗しの秋を期待しましょう。
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