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Something related to triangle 3
上記の続きです。本編は次の4章で終わります(後書きを別途記事立てする予定)。よろしければお目通しの程を。
モスコミュールのカクテルグラスを摘み上げて直海が言葉を継いだ。
「……どっちが大事なんだって訊かれたの」
「何よ、それ」
「亜里沙と俺のどっちが大事かって」
リアクションの仕様がない妬かれ方だと思いつつ、私はジンジャーエールのグラスを揺らした。
「彼らしいってことなのかしらね。私も似たこと、椚くんに言われたことがあるわよ」
* * *
「他に相談できる奴が見つからなくて。藤枝だけが頼りだ」
切羽詰った顔をして、上半身を90度に折り曲げて。そこまでする程のことではないと思うのだけれど。
「分かったから、とりあえず頭上げてくれない?じゃないとやりずらいじゃない、こっちも」
「お、おう。……で、どうすればいい?」
「まずは、レトルトのお粥と総合感冒薬。薬は薬剤師さんに相談してから買った方がいいわね。応急処置的なものだし、明日はちゃんと病院に行かないと駄目だから。頭を冷やす道具もその時一緒に買うといいわ。 あと、ハンドタオルとバスタオル、普段使いのでいいから用意してね」
「粥の他に、風邪の人間が食いやすいものって何かあるか?」
「アイスとスポーツ系飲料かな。水分補給した方がいいと思う」
「桃缶はどうだ?」
「ああ、直海は缶詰、あまり好きじゃないから。シャーベットでもいいかも。買い物リスト、メモに書いた方がいいかな、結構数があるから」
「そうしてくれると助かる。あいつが熱出すなんて初めてなもんだから、
俺もどうしていいか分かんなくなっちまって。ほんと、すまん!」
「謝らなくていいって。私も明日の夕方、直海のアパートに様子見に行くから」
真面目で不器用な人だとは前から思っていたけれど、必死な顔を眼前にすると苦笑を浮かべることは憚られて、あの子もこんな処に惚れたのか、とこの場には不謹慎であろうことを思った。
けれど。お礼の言葉と共に呟いたひとことには―
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* * *
「"藤枝はなおのことよく分かってるんだな、悔しいというか、羨ましい"って、その後に」
「……ああ、あの時は助かったけど。和弥ってば、そんなこと言ったの?それも亜里沙に?」
「ええ。それで思わず吹き出しちゃって。椚くん、真っ赤な顔して怒ってた。人が大変な時に笑わなくてもいいだろう、って」
お互いに顔を見合わせ、一人の人を思い浮かべて笑った。
カクテルグラスは軽く汗を掻いている。
ジンジャーエールの気泡が弾けて消えた。
これではもう唯の砂糖水だ
そう心の中だけで呟いて、気の抜けた中味をまた少し傾ける。泡をなくしたそれは、最初に飲んだよりもずっと甘い味がした。
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2023/07/24午後、続き・ラストを投稿しました。下記からお読みいただけます。
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